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正常な排泄を知ることから始まる支援:排泄のしくみとケアマネジャーのアセスメント視点 最終更新日:2025/05/29

排泄ケアの基本とケアマネジャーの役割|ケアマネジャーのための排泄ケア入門 ~正常な排泄”を知ることから始まる支援:排泄のしくみとケアマネジャーのアセスメント視点
排泄を「ケアの現場で当たり前に起きている日常の営み」としてとらえ、生活全体を支える視点から、その質をどう保ち・高めていくかをケアマネジャーさんと一緒に考えていく新たな企画「ケアマネジャーのための排泄ケア入門 ~生活の質(QOL)を支えるために、いま排泄を見直す~」を進行しています。
皮膚・排泄ケア認定看護師である田村留美氏による10回連載の第2回目は「正常な排泄を知ることから始まる支援」と題して、排泄のしくみとケアマネジャーのアセスメント視点について解説しました。
概要
排泄に必要な動作と機能に注目しながら、「排尿・排便のしくみ」もあわせて解説します。
感覚・認知・移動・姿勢保持など、多様な機能のどこに困難があるかを見極めることで、ケアマネジャーは排泄トラブルの原因に気づき、より適切なアセスメントとケアプラン作成につなげることができます。
はじめに:排泄ケアは“日常を守る”支援
「排泄」は、どんな人にとっても欠かせない生理的な営みです。連載第1回では、排泄ケアが単なる「下の世話」ではなく、QOLや尊厳、社会参加と深くつながる支援であることをお伝えしました。
第2回となる今回は、その排泄支援の“土台”となる「正常な排尿・排便のしくみ」について解説します。ケアマネジャーが排泄の基本的なしくみを理解することで、利用者の小さな変化や支援のヒントに気づけるようになります。専門職でなくても、“基本を知っておくこと”が、アセスメントの質やチーム連携にもつながります。
排泄を支える動作と、その“正常・支援ポイント”を知る
排泄は単なる生理現象ではなく、「意識・感覚・動作」が複雑に連携して成り立っています。
この一連の行動がうまくつながらないと、排泄の“困りごと”が生じます。
排泄に必要な主な動作(出典: https://www.jcas.or.jp

排泄を支える動作と、その“正常・支援ポイント”
排尿のしくみ:「蓄尿」と「尿排出」のバランス
尿とは:体内の老廃物や余分な水分・塩分を、腎臓で血液からろ過し、体外へ排出する液体のことです。腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱に蓄えられ、一定量溜まると尿意を感じて尿道から排出されます。
排尿・排便の関わる臓器は、男性と女性で解剖学的な構造に違いがあります。特に尿道の長さや、膀胱・子宮・前立腺などの位置情報は、排泄トラブルの出方に影響することがあります。以下の図はその基本的な構造をイメージしやすくするためのものです。
男性の下部尿路と周辺臓器

女性の下部尿路と周辺臓器
排尿のメカニズムは大きく「蓄尿」と「尿排出」の2段階に分けられます。尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に送られます。膀胱は風船のような構造で、尿を貯める役割を持ちます。この蓄尿状態を保っているのが、自律神経(交感神経)と骨盤底筋群の働きです。
尿意は 膀胱内の尿量が150〜250ml程度になると初発尿意が生じます。そして300〜400mlで強い尿意、400〜600mlで限界尿意を感じるとされています。排出のタイミングになると、副交感神経が優位になり、膀胱が収縮、尿道括約筋がゆるむことで排尿が可能になります。
この神経の切り替えを調整しているのが、脳の橋排尿中枢や前頭葉の働きです。
高齢者や神経疾患を持つ方では、この切り替えがうまく働かず、排尿困難や尿意の伝達障害が生じることもあります。「頻尿」「失禁」「尿が出にくい」といった症状は、このメカニズムのどこかがうまく機能していないサインとも言えます。
排便のしくみ:「送る」「感じる」「出す」の連携
便とは食べ物を摂取し、胃や小腸で消化・吸収されたあとに残った不要物(残りかす)が、大腸を通過し、最終的に肛門から排泄されるものをさします。
排便のメカニズムは、大腸内を進んだ便が直腸に到達し、そこが膨らむことで便意を感じるという流れです。
直腸が便で刺激されると、内肛門括約筋がゆるみ、便意が発生します。この時点で排便できる環境にあれば、外肛門括約筋や腹筋の協力で排便が行われます。この感覚と運動の連携がうまく働いていないと、便秘、便漏れ、排便困難といった問題が生じます。
高齢者ではこの感覚が鈍くなりやすく、便意を感じづらいまま便が硬くなってしまうケースもあります。また、認知症がある方では「便意を感じたけれど行動につながらない」といったトラブルも多く見られます。
正常を知ることがアセスメントにつながる第一歩
すべてのメカニズムや病態を覚える必要はありません。でも、「普段はこう」「このくらいが目安」という正常の枠を知っておくだけで、“何かおかしい”に気づけるようになります。
「正常を知ること」は、誰でもできる“質の高い支援”の第一歩です。
まとめ
排泄ケアの“しくみ”を知っておくことは、誰かの気づきを後押ししたり、連携をスムーズにする力にもなります。現場の支援が、ほんの少しでも前向きになるきっかけになれば幸いです。
排泄のメカニズムは、看護師や医師だけが知っておけばよいわけではありません。ケアマネジャーが基本を押さえておくことで、チームケアのなかで早く・適切に連携が取れます。
次回は、排泄ケアと皮膚トラブルの関係について解説していきます。
関連リンク:
排泄ケアの基本とケアマネジャーの役割
 
執筆:
田村留美(たむらるみ)
田村留美(たむらるみ)
皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC:創傷・ストーマ・失禁分野)
所属:
おうちの診療所(在宅医療クリニック)
skincareルミナリー(皮膚・排泄ケア看護支援サービスと、副業として癒しのリンパケア施術を行う)
経歴:
看護師歴36年。
皮膚・排泄ケア認定看護師として16年の実績を持ち、病院および在宅医療の現場で、創傷・ストーマ・失禁ケアに携わる。
現在は、在宅療養者やその家族、地域の医療・介護職に向けた排泄ケアやスキンケアの支援、講演活動などを行っている。
資格:
看護師
皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC:創傷・ストーマ・失禁分野)
特定看護師(創傷管理)
日本コンチネンス協会認定 コンチネンスリーダー
おむつフィッター3級(むつき庵)
リードフォーアクション認定 リーディングファシリテーター
連載予定:
第1回:排泄ケアの基本とケアマネジャーの役割
第2回:正常な排泄のメカニズム
第3回:褥瘡予防と排泄ケアの関係
第4回:失禁関連皮膚炎(IAD)の予防と対策
第5回:排泄ケア用品の選び方と正しい使い方(パッド・紙おむつ編)
第6回:高齢者の排泄トラブル:排尿編
第7回:高齢者の排泄トラブル:排便編
第8回:排泄ケアと薬剤の影響
第9回:最新の排泄ケア技術とその導入方法
第10回:事例に学ぶ排泄ケアの視点
排泄に関する不安やトラブルは、本人の生活意欲や社会参加、自尊心に大きく影響します。 排泄がうまくいかないことで、「その人らしさ」や生きがいを失ってしまうこともあります。
ケアマネジャーとして、日々多くの利用者さんやご家族と向き合うなかで、排泄ケアにまつわる課題や悩みに直面する場面も多いのではないでしょうか。
この連載では、排泄を「ケアの現場で当たり前に起きている日常の営み」としてとらえ、生活全体を支える視点から、その質をどう保ち・高めていくかを一緒に考えていきます。
スキルや知識だけでなく、「こんなふうに支えてみよう」「こう声をかけてみよう」と思えるヒントを、現場の視点からお届けします。 排泄ケアを通じて、利用者さんの「その人らしい暮らし」を支える一助になれば幸いです。