相続財産って誰がどうやって分けるの?~話し合いで決まる“遺産分割”の基本~ 最終更新日:2025/05/29

「相続」と「介護」をテーマに、お金にまつわる知識をお届けする新企画「在宅医療・介護におけるお金のはなし」。
全10回シリーズの第5回は、「相続財産って誰がどうやって分けるの?~話し合いで決まる“遺産分割”の基本~」です。
「親が亡くなったあとの財産って、誰がどうやって分けるんだろう?」
介護や看取りを経験したあと、こんな疑問や不安を感じる方は少なくありません。今回は、「相続財産の分け方」について、基本的なルールから実務的な流れ、トラブルを防ぐポイントまで、わかりやすく解説していきます。
全10回シリーズの第5回は、「相続財産って誰がどうやって分けるの?~話し合いで決まる“遺産分割”の基本~」です。
「親が亡くなったあとの財産って、誰がどうやって分けるんだろう?」
介護や看取りを経験したあと、こんな疑問や不安を感じる方は少なくありません。今回は、「相続財産の分け方」について、基本的なルールから実務的な流れ、トラブルを防ぐポイントまで、わかりやすく解説していきます。
相続財産とは? 何が対象になるの?
まず知っておきたいのが、「何が相続財産になるのか?」ということ。
相続財産というと「お金」や「土地・建物」だけを思い浮かべる人が多いですが、実はプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も対象になります。
相続財産というと「お金」や「土地・建物」だけを思い浮かべる人が多いですが、実はプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も対象になります。
【主な相続財産の例】
・預貯金(銀行の口座残高)
・不動産(土地・建物など)
・株式や投資信託などの金融商品
・車、骨董品、宝石などの動産
・借金、住宅ローン、未払金などの債務
たとえば、親が生前に負債を抱えていた場合、何も手続きをしなければ、その債務も相続人が引き継ぐことになります。
このような「マイナスの財産」も対象になるという点は、相続手続きの大事なポイントです。
このような「マイナスの財産」も対象になるという点は、相続手続きの大事なポイントです。

誰が相続人になるのか? 法律で決まっている“順番”
相続が発生したとき、最初に確認すべきは「誰が相続人になるのか」です。
これは民法であらかじめ決められていて、配偶者は必ず相続人となり、それ以外の人(子や親、兄弟姉妹など)は“順位”によって決まります。
これは民法であらかじめ決められていて、配偶者は必ず相続人となり、それ以外の人(子や親、兄弟姉妹など)は“順位”によって決まります。
【法定相続人の優先順位】
1. 第1順位:子(代襲相続で孫も含まれる)
2. 第2順位:直系尊属(親・祖父母など)
3. 第3順位:兄弟姉妹(代襲相続で甥・姪も含まれる)
例えば、夫が亡くなり、子どもが2人いる場合は「配偶者+子2人」が相続人となります。子どもがいなければ「配偶者+親(または祖父母)」、それもいなければ「配偶者+兄弟姉妹」となります。
ここで注意したいのは、「内縁の配偶者」や「事実婚のパートナー」は、法定相続人にならないという点です。そうした場合は、遺言書を活用して相続の指定をしておく必要があります。
法定相続分ってなに? 目安になる“取り分”
相続人が決まると、次は「どれだけの割合で分けるか」が問題になります。この割合の基準になるのが、「法定相続分」です。
【法定相続分の例】
・配偶者と子ども → 配偶者:1/2、子ども全員で1/2
・配偶者と親 → 配偶者:2/3、親:1/3
・配偶者と兄弟姉妹 → 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4
ただし、これはあくまで目安。実際には、相続人全員で協議して、自由に分け方を決めることができます。
遺産分割協議とは? 実際の分け方は“話し合い”で決まる
遺産の分け方は、基本的に相続人同士の「話し合い」で決まります。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
【協議のポイント】
・不動産を誰が相続するか
・預貯金や株式の分け方
・遺言がある場合はその内容に従うかどうか
・介護をしていた相続人にどう配慮するか
・分割が難しいときに、現金での清算(代償分割)をするか
協議がまとまったら、「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名・押印します。この書類は、銀行の相続手続きや不動産の名義変更に必要になります。
遺言書がある場合はどうなる?
被相続人が遺言書を残している場合、その内容が原則として優先されます。
例えば、「長男に自宅を相続させる」「妻に全財産を相続させる」などの指定がされていれば、基本的にはその通りに分けることになります。
ただし、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が保証されています。もし、遺言によって著しく少ない分配しかされていない場合は、「遺留分侵害額請求」といって、他の相続人に請求することができます。
ただし、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が保証されています。もし、遺言によって著しく少ない分配しかされていない場合は、「遺留分侵害額請求」といって、他の相続人に請求することができます。

よくあるトラブルとその予防策
相続をめぐるトラブルは、実際に起きるまでは「うちは仲がいいから大丈夫」と思いがちです。でも、現実には毎年のように相続トラブルが家庭裁判所に持ち込まれています。
トラブルの多くは、“お金の問題”というより“感情の行き違い”から始まることが多いようです。
たとえば、こんなトラブルがあります。
たとえば、こんなトラブルがあります。
①「介護したのに、報われない」問題
「長女がひとりで親の介護を担ってきたのに、遺産はきょうだいで平等」──
これは非常によくあるケースです。法律上は、法定相続分に“介護の貢献度”は反映されません。そのため、介護を担った人が不公平感を抱きやすいのです。
最近では「寄与分(きよぶん)」という制度で、介護や家業の手伝いなど、被相続人に貢献した相続人に対して取り分を増やせる仕組みがありますが、他の相続人の同意が必要で、協議がこじれる原因にもなります。
最近では「寄与分(きよぶん)」という制度で、介護や家業の手伝いなど、被相続人に貢献した相続人に対して取り分を増やせる仕組みがありますが、他の相続人の同意が必要で、協議がこじれる原因にもなります。
②「兄だけ生前贈与されていた」問題
たとえば、「長男だけが結婚資金として500万円もらっていた」というようなケース。
本人たちは「昔の話」と思っていても、他のきょうだいは根に持っていることがあります。
このような生前贈与は「特別受益(とくべつじゅえき)」といって、遺産の分け方に反映されるべきものとされる場合があります。にもかかわらず、それが把握できていなかったり、説明不足だったりすると、話し合いが決裂する原因になります。
このような生前贈与は「特別受益(とくべつじゅえき)」といって、遺産の分け方に反映されるべきものとされる場合があります。にもかかわらず、それが把握できていなかったり、説明不足だったりすると、話し合いが決裂する原因になります。
③「不動産は欲しいけど、現金がない」問題
相続財産の大半が実家の土地と建物という場合、分け方が難しくなります。
たとえば「長男が実家で両親と同居していたため、家は引き継ぎたい。でも次男にも相続分がある」。
こうしたケースでは、不動産を引き継ぐ相続人が、他の相続人に“代償金”として現金を支払う「代償分割」が検討されます。しかし、十分な現金がないと話が進まず、売却して現金化するしかなくなる場合も。
こうしたケースでは、不動産を引き継ぐ相続人が、他の相続人に“代償金”として現金を支払う「代償分割」が検討されます。しかし、十分な現金がないと話が進まず、売却して現金化するしかなくなる場合も。
感情的にも経済的にも、大きな摩擦が起こりやすい局面です。
④「名義は変えてなかった」問題
亡くなったあとも不動産や銀行口座の名義をそのままにしておくと、後々の手続きが複雑になります。
たとえば数十年経ってから相続人の一人が亡くなり、次の相続が発生すると、「相続人が何人も増えて収拾がつかない」状態に。これを“数次相続”といい、相続登記や遺産分割協議がさらに難航します。なお、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。財産の名義変更は、できるだけ早めに済ませておくのが鉄則です。

トラブルを防ぐために、今からできる備え
こうしたトラブルを防ぐには、「早めの準備」と「家族間の情報共有」が欠かせません。
以下のような対策が効果的です。
以下のような対策が効果的です。
◎遺言書を作る
財産をどう分けたいかを明確にしておくことで、相続人同士の対立を未然に防げます。
公正証書遺言にしておけば、法的にも確実性が高くなり、相続手続きもスムーズに進みます。
公正証書遺言にしておけば、法的にも確実性が高くなり、相続手続きもスムーズに進みます。
◎財産目録を作っておく
自分がどんな財産を持っているかを「見える化」しておくと、残された家族が混乱しません。
預金口座、不動産、保険契約、借金などを一覧にまとめておくといいでしょう。
預金口座、不動産、保険契約、借金などを一覧にまとめておくといいでしょう。
◎家族で話しておく
相続の話はタブー視されがちですが、少しずつでも「うちはどうする?」という対話を始めておくことが大切です。
「この家は誰が住むのか?」「介護をしてくれた人にどんな感謝を伝えたいか?」など、本人の思いを伝えるだけでも、相続人の心の準備が変わってきます。
「この家は誰が住むのか?」「介護をしてくれた人にどんな感謝を伝えたいか?」など、本人の思いを伝えるだけでも、相続人の心の準備が変わってきます。
◎専門家を味方につける
相続は、法律・税金・不動産など、さまざまな分野が関わる複雑なテーマです。
弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど、信頼できる専門家に早めに相談することで、最悪の事態を避けることができます。「元気なうち」に動くことが、何よりのリスクヘッジです。
弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど、信頼できる専門家に早めに相談することで、最悪の事態を避けることができます。「元気なうち」に動くことが、何よりのリスクヘッジです。
まとめ
相続財産を「誰がどうやって分けるか」は、法律で基本的な枠組みは決まっていても、実際の分け方は相続人同士の“話し合い”によって決まります。
だからこそ、感情的な対立や誤解を避けるためにも、準備とコミュニケーションがとても大切です。介護や看取りの先にある相続は、家族の次のステージを築くための大事なプロセス。いざというときに慌てないよう、いまから少しずつ備えておきましょう。
これまで、5回に渡り「相続」をテーマにしてきました。次回から、「介護」にフォーカスしていきたいと思います。介護編の第1回は、「認知症になった時のお金のリスクとは?」です。
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執筆:

渡邊裕介(わたなべゆうすけ)
(株)N&Bファイナンシャル・コンサルティング 執行役員
ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー
経歴:
2003年慶應義塾大学環境情報学部卒。大学卒業後、飲食の店舗マネージメントに携わる。
社会人生活の中で、自身のおカネの知識のなさを痛感したことをきっかけに2006年FPに転身。個人の貯蓄計画や住宅購入相談・老後資金準備、相続相談などライフプラン作成を中心に、企業の従業員向けのFPセミナーなども行う。
ファイナンシャルプランニングを通じて、「安心の提供」と「人生の価値向上」に貢献する。
2003年慶應義塾大学環境情報学部卒。大学卒業後、飲食の店舗マネージメントに携わる。
社会人生活の中で、自身のおカネの知識のなさを痛感したことをきっかけに2006年FPに転身。個人の貯蓄計画や住宅購入相談・老後資金準備、相続相談などライフプラン作成を中心に、企業の従業員向けのFPセミナーなども行う。
ファイナンシャルプランニングを通じて、「安心の提供」と「人生の価値向上」に貢献する。
資格・役職:
CFP
1級FP技能士
東海大学 非常勤講師
CFP
1級FP技能士
東海大学 非常勤講師
10回にわたって、「相続」と「介護」をテーマに、お金にまつわる知識をお届けします。介護や相続は誰にとっても避けて通れないテーマですが、具体的に何から始めれば良いのか分からず、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、在宅介護にかかる費用の考え方や、相続の基本的な仕組み、そして具体的な準備の進め方を分かりやすく解説します。読んでいただくことで、将来に向けた備えや計画を安心して進めるためのヒントを得ていただければと思います。
このコラムでは、在宅介護にかかる費用の考え方や、相続の基本的な仕組み、そして具体的な準備の進め方を分かりやすく解説します。読んでいただくことで、将来に向けた備えや計画を安心して進めるためのヒントを得ていただければと思います。