医療法人社団 真 ゆかりホームクリニック 小林真史院長(訪問診療:千葉市・八千代市・習志野市) 最終更新日:2025/07/07

注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第21回目は、2021年から千葉市幕張にて「ゆかりホームクリニック」を運営されている小林真史院長です。これまでの医師としての歩み、在宅医療に転じて、そして今後への展望について、その思いを熱く語っていただきました。
小児外科医として
— これまでの経歴について教えてください。
私は千葉で生まれ育ち、学歴も職歴もほとんど千葉から離れたことがありません。これからも一生をかけて、千葉に恩返しをしていきたいと考えています。
医師を志すようになったきっかけは、小学生時代にさかのぼります。幼いころから知的好奇心が強く、将来は研究者になってノーベル賞を取りたいという夢を抱いていました。アインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチに憧れていた、少し風変わりな子どもだったと思います。
ノーベル賞を目指す道としては物理学も考えましたが、より人の役に立てる分野として医学を選び、千葉大学医学部を受験しました。面接では「千葉大にノーベル賞を持ってきます」と宣言するほど本気で挑んでおり、面接官の先生方は笑っていらっしゃいました。面接対策では「絶対に言ってはいけない」と指導された発言でしたが、気持ちを抑えきれず本音を話してしまいました。

— 小児外科を専攻されますが、選ばれた理由は?
大学5年生のときに参加した小児外科の実習は、私の人生を大きく変える出来事となりました。それまでは研究医を志していた私でしたが、「これこそが自分のやりたい医療だ」と確信しました。
小児外科では、お子さん一人ひとりで疾患も治療方針もまったく異なり、発育の状況や家庭環境、家族の希望など、多くの要素を考慮する必要があります。成人医療と比べても、きめ細やかな対応が求められると感じました。マニュアル通りにはいかず、御家族に寄り添いながら、常に頭をひねって最適な答えを一緒に考える事が重要視される現場でした。
特に印象に残っているのは、たとえ治らない病気であっても決して諦めず、患者さんに寄り添い続ける先輩医師たちの姿です。先天的な疾患等で手術を受けるお子さんとは、その後も長い時間をかけてお付き合いをしていく事になります。
医師に求められるのは、単に病気を治すことだけでなく、「学校に通えるのか」「将来は結婚や仕事ができるのか」といった、お子さんの人生全体を見据えた支援でした。
この経験こそが、私の医師としての原点となりました。
患者さん一人ひとりの人生に寄り添い、ともに歩んでいく医療こそが、大変ながら遣り甲斐のある分野だと強く感じ、小児外科を自らの進路として選ぶ決意を固めました。

在宅医療に魅せられて
— 在宅医療に進まれたきっかけは?
医師10年目を迎えた頃、医局を退くこととなり、転職先を探し始めました。幅広く見学を重ねる中で、「小児在宅医療」という分野の存在を知り、小児外科での経験を活かせるのではないかと興味を持ちました。
都内のあるクリニックを見学した際には、若手医師が患者さんやご家族に真摯に向き合い、チーム一丸となって医療を提供している姿に深く感銘を受けました。ただし、千葉近郊で小児在宅医療を行っているクリニックは限られており、近隣のいくつかの在宅クリニックを見学させていただくことになりました。
最終的に「ふたば訪問クリニック」を選んだ決め手は、院長先生のお人柄でした。
— 院長先生のどのような人柄に惹かれたのでしょうか?
実際にお会いして最も印象的だったのは、患者さんに徹底的に寄り添う姿勢でした。
技術や知識の高さはもちろんですが、それ以上に「この先生と一緒に働きたい」「この先生から多くを学びたい」と心から思わせる魅力がありました。
患者さんやご家族への接し方、スタッフへの配慮、在宅医療に対する熱意など、すべてが自然体でありながら深い思いやりに満ちていて、私自身、患者さんへの寄り添いを何より大切にしたいと考えているので、そうした人間性に心から共感できたことが決め手となりました。
在宅医療は技術だけでなく、人と人とのつながりが極めて重要な分野ですから、一緒に働く仲間の人柄は何より重要な要素だと考えています。
— 在宅医療の魅力について教えてください
在宅医療で求められることと、小児外科で学んだ事は、非常によく似ているなと思いました。
在宅で過ごす患者さんの多くは、加齢や、がんや難病などの完治が難しい病と向き合いながら、「住み慣れた我が家で自分らしく過ごしたい」と願っています。そうした方々にとって本当に大切なのは、病気を治すことそのものではなく、自分の価値観や希望に寄り添い、「どのような人生を送りたいか」を一緒に考えることです。
小児外科でも、在宅医療でも、「どうすれば自分らしく普通の生活を送れるか」を考える。患者さんの年代や病状は異なっても、医師として向き合うべき本質はまったく同じであることに気づき、また、これまで小児外科で培ってきたことを十分に活かす事ができると感じました。
ふたば訪問クリニックでの2年間は、その本質を実感しながら多くを学ぶ時間となりました。その後、より広い視野を得るために複数の現場を経験し、次第に「開業」という選択肢が現実味を帯びてきました。

ゆかりホームクリニックの誕生
— その後、開業へ進みます
開業自体が最終目標ではなく、私の中には、「患者さんにこういう医療を提供したい」という明確なビジョンがあり、それを実現する手段として開業が必要と思う様になりました。
たとえば、患者さんが「家で最期まで過ごしたい」と望まれたとき、その想いを叶えるために必要なことはすべて行いたい。
医師として、症状にきめ細やかに対応することはもちろんのこと、最大限に患者さんやご家族の希望に寄り添い、不安を出来るだけ解消する。その方の人生観や価値観にも深く向き合いながら、いつまでも御自身らしく、ご家族らしく過ごして頂けるように御支援していく。
しかし、雇用される立場では、様々な制約があり、100%理想を追求することは難しいのが現実で、 「この患者さんにはこういう医療行為をしたい、もっと時間をかけたい」と思っても、効率を優先せざるを得ない場面が何度もありました。
私が本当に求めていたのは、患者さんにとって最善と信じることを、制約なく実践できる環境で、良い結果も悪い結果もすべて自分に返ってくるとしても、患者さんとの関わり方を自分の責任で決めたい。そんな環境でこそ、自分が理想とする医療が提供できると考え、私は開業を決意しました。

— 場所を幕張に選んだ理由は?
まず何より、私には生まれ育った千葉市への深い愛着があり、 特に中学・高校時代を過ごした幕張エリアには強い馴染みがあり、いつかこの地域に貢献したいという思いがありました。
そして、 徹底したデータ分析に基づいて判断しました。当時は「おうちde医療」のような地域医療の検索サイトも存在していなかったため、千葉県の情報提供システム「ちば医療ナビ」から公開データをすべてエクセルに取り込み、詳細なマッピング作業を行いました。
看取り数やがん看取り数を地域別に分析し、どのエリアに大規模なクリニックが存在しているのか、どこに医療の空白地帯があるのかを徹底的に調査しました。
さらに、近隣の病院関係者からも「この周辺にクリニックがあると非常に助かる」といった具体的な声をいただいており、データ分析と現場のニーズが完全に一致したこの地を、開業場所として選びました。
— 開業時の体制はいかがでしたか?
開業時は、医師2名、事務員1名、ドライバー兼アシスタント1名の、計4名という小さな体制でのスタートでした。患者さんはゼロからの出発でしたが、ふたば訪問クリニック時代にもお世話になった医療機関の皆様方が、ご挨拶に伺った際にさっそく初月から患者さんをご紹介くださり、大きな支えとなりました。
さらに、予想外の幸運にも恵まれました。近隣のクリニックが訪問診療部門を閉じることになり、その患者さんを引き継がせていただける機会をいただけました。
結果として、初月に新規25名、引き継ぎ25名の、計50名の患者さんからスタートすることができました。この恵まれたスタートに、ただただ感謝の気持ちでいっぱいでした。
理念と実践
— クリニックの理念について教えてください。
「何らかの理由で通院が難しくなったり、療養が必要になっても、住み慣れた場所で縁(ゆかり)のある人や物に囲まれて、自分らしく生きていきたい」という理念を掲げています。
この理念の根底にあるのは、「何もしがらみがなければ、誰もが本来は家にいたいと思う」という考えです。
病院に行きたいと思うのは、家にいられない何らかの理由が存在するからに他なりません。だからこそ、その理由をできる限り取り除き、患者さんが本当に望む場所で過ごしていただけるよう全力で支援したいと思っています。
実際に取り組んでみると、約9割の方が自宅で最期まで過ごすことができており、これは決して数字を追い求めた結果ではなく、一人ひとりの患者さんの想いに真摯に向き合った自然な結果だと考えています。
— 現在の体制と患者さんについて教えてください。
現在は医師4名を含む15名のスタッフで運営しています。
私たちが診させていただく患者さんの約7割が終末期の方で、残りの3割の方も神経難病や心不全などで重篤な状態の方が多いため、長期間にわたって継続的に診療する患者さんの数はそれほど多くありません。
看取り数の割には医師数が少ないと思われるかもしれませんが、私一人で年間100名近くの看取りを行っています。これは患者さん一人ひとりに深く関わり、丁寧な医療を提供しているからこそ実現できることだと自負しています。

— 重要視している指標はありますか?
看取り率を最も重要な指標として位置づけています。
看取り率とは、終末期で看取った患者数を、転帰が追えている終末期の患者数で割った数値です。ただし、看取り率という数字だけを追い求めるのではなく、その背景にある患者さんの想いを最も大切にしています。
「看取り率を上げることが目的」になってしまうと、本来は入院が必要な方を無理に自宅に留めてしまう危険性があり、私たちが目指しているのは、患者さんが本当に望む場所で、その方らしい時間を過ごしていただくことです。
実際に見学に来られた先生方からは「これだけのことをやっているから9割の看取り率なんですね」と評価していただいたこともあり、看取り率と看取り数、この2つをKPI(重要業績評価指標)として重視していますが、常に患者さんの最善を考えた結果としての数字であることを決して忘れないよう心がけています。
組織づくりと今後の展望
— 現在注力していることは?
現在は経営やチームづくりに重点を置いています。
医師として培ってきた技術や知識は十分に活かせますが、人を雇用し、組織として持続可能なビジネスモデルを構築することは全く新しい分野への挑戦です。特に困難を感じているのは、理念を最優先にしたクリニック運営とビジネスとしての継続性のバランスを取ることです。
患者さんにとって最善のケアを提供しようとすれば、時間もコストも際限なくかかってしまいますが、現在の診療報酬制度では、手厚いケアを提供すればするほど収益が向上するという仕組みにはなっていません。
この根本的な課題を解決するために、経営について一から勉強し直しており、理念を実現し続けるためにも、組織として持続可能でなければならないと強く認識しています。

— 今後の展望について教えてください。
「ゆかりホームクリニックが変わったな」と思われないようにしたいというのが、私の最も強い願いです。
私たちの真の強みは、ビジネスよりも患者さんを最優先に考える姿勢にあり、規模が大きくなったとしても、この根本的な価値観が薄れてしまわないよう、細心の注意を払いながら組織運営を行っていきたいと考えています。
理念に深く共感してくれる仲間が少しずつでも増え、同じ想いを持って患者さんに向き合ってくれる医師やスタッフと一緒に成長していけたら、これほど嬉しいことはありません。
急激な拡大を目指すのではなく、質を確実に保ちながら着実に歩んでいきたいと思っています。
在宅医療の未来に向けて
— 在宅医療の課題について教えてください。
最も深刻な課題は、在宅医療の質に大きなバラつきが存在することです。質の高い緩和ケアや看取りを自宅で受けたいと願う方々が、住んでいる場所に関係なく適切な医療につながれるような環境が、残念ながら十分に整っていないのが現状です。
また、在宅医療の真の可能性がまだまだ広く認知されていないことも大きな課題の一つです。「在宅でここまでできるのか」と驚かれることも多いのですが、これは逆に言えば、在宅医療の実力や可能性が正しく理解されていない証拠でもあります。
一般の方だけでなく、病院で働く医療従事者の方々にも、在宅医療の真の姿を深く知っていただけたら嬉しいな、と思います。
— 目指している在宅医療について教えてください。
私たちだけが良い医療を提供すれば済むという考えではありません。
同じような想いを持ち、質の高い在宅医療を提供するクリニックが、千葉県内はもちろん、全国各地に着実に増えていってほしいと心から願っています。
そのためにも、私たち自身がコツコツと実績を積み重ね、その経験や知見を積極的に発信していく責任があると考えています。別々の医療機関であっても、同じ志を共有する仲間として連携し、在宅医療全体の底上げに貢献していきたいと思っています。
患者さんが住む場所に関係なく、質の高い在宅医療を自由に選択できる社会。
それこそが私の目指す理想的な未来の姿です。

— 最後に地域住民へのメッセージをお願いします。
私たちは24時間365日、ご利用者様のご意向に沿って、お家でできる最善を尽くしてまいります。
「こんなこと相談していいのかな」と迷われることがあっても、どんな小さなことでも構いませんので、お気軽にお声かけください。
皆様と私たちとの出会いが良きご縁となるよう、スタッフ一同、心を込めて診療にあたらせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。
医療法人社団 真 ゆかりホームクリニック

〒262-0033
千葉県千葉市花見川区幕張本郷1-27-10 wingビル1階
TEL:043-310-3262/FAX:043-310-3264
WEB:https://yukari-home.com/
千葉県千葉市花見川区幕張本郷1-27-10 wingビル1階
TEL:043-310-3262/FAX:043-310-3264
WEB:https://yukari-home.com/
小林真史院長のプロフィール
経歴:
2003年 渋谷教育学園幕張高等学校卒業
2009年 千葉大学医学部卒業
2009年 国立病院機構千葉東病院
2010年 千葉大学医学部附属病院
2011年 千葉大学病院小児外科 入局
2012年 東京都立小児医療センター外科
2014年 千葉県立佐原病院外科、千葉大学医学部大学院博士課程
2015年 横浜市立大学医学部臓器再生医学特別研究生
2016年 ふたば訪問クリニック 副院長
2020年 医療法人社団ときわ 赤羽在宅クリニック、千葉大学次世代医療構想センター客員研究員(兼任)
2020年 ライフサポートクリニック大網 診療部長
2021年 ゆかりホームクリニック 院長
2023年 医療法人社団 真 ゆかリホームクリニック 理事長及び院長
2003年 渋谷教育学園幕張高等学校卒業
2009年 千葉大学医学部卒業
2009年 国立病院機構千葉東病院
2010年 千葉大学医学部附属病院
2011年 千葉大学病院小児外科 入局
2012年 東京都立小児医療センター外科
2014年 千葉県立佐原病院外科、千葉大学医学部大学院博士課程
2015年 横浜市立大学医学部臓器再生医学特別研究生
2016年 ふたば訪問クリニック 副院長
2020年 医療法人社団ときわ 赤羽在宅クリニック、千葉大学次世代医療構想センター客員研究員(兼任)
2020年 ライフサポートクリニック大網 診療部長
2021年 ゆかりホームクリニック 院長
2023年 医療法人社団 真 ゆかリホームクリニック 理事長及び院長
資格:
緩和ケア研修会修了
TNT(Total Nutrition Therapy)研修会修了
日本外科学会・認定登録医
難病指定医
緩和ケア研修会修了
TNT(Total Nutrition Therapy)研修会修了
日本外科学会・認定登録医
難病指定医
関連リンク: