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潜在看護師の復職支援と現役看護師の定着支援|リズナース原代表の取り組み 最終更新日:2025/08/17

潜在看護師の復職支援と現役看護師の定着支援|リズナース原代表の取り組み
注目の在宅医療関連サービスへのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療サービス」の第4回。潜在看護師の復職を支援し、現役看護師の離職防止にも取り組む「リズナース」。27年の臨床経験を持つ原代表が、ブランクや不安を抱える看護師には心理学を活用した研修と職場マッチングを、現場で働く看護師には定着支援を提供し、安心して長く働ける環境づくりを進めています。
幼少期の憧れから看護師へ
— 看護師を目指したきっかけはなんですか?
小さいころの私にとって、祖父母が入院していた病院は特別な場所でした。お見舞いに行く度に「点滴や管には絶対に触ったらダメ」と何度も注意されていましたが、私はどうしても気になってしまうタイプの子どもでした。
病室で看護師さんが点滴の交換や滴下調整などを行っている姿を見て、「この人達は触れる事を許されている特別な存在なんだ」「女性がこんなふうに活躍できるなんて素敵だな」と、自然と憧れの気持ちを抱くようになったのが最初のきっかけです。
中学生になると、年の離れた妹に両親の関心が向いていることで、寂しさを感じるようになり、「自分は生きていて良いのだろうか」「自分が生まれた意味は何なのか」と自分の存在意義や価値に悩んだ時期がありました。
そんな中、「周りに必要とされる人間になりたい」という思いが芽生え、幼少期に抱いていた看護師への憧れを思い出し、看護学校の指定校推薦枠がある高校への進学を目指しました。
— 看護学校への進学するにあたって、どのような苦労がありましたか?
准看護師資格を取得できる5年制高校と迷ったのですが、中学の担任から「将来のことを早く決めすぎず、まずは普通科で幅広い視野を持ったほうが良い」とアドバイスを受け、普通科の高校を選びました。高校では指定校推薦をもらうために、学業以外にも生徒会長も引き受けるなど努力を重ねました。
晴れて看護学校に進学できたものの、実習の指導者から「レポートの出来が悪いから実習をさせられない」とそのまま帰らされたこともありました。悔しくて寝ずにレポートを書き直す日々も多く、苦労の連続だったことを記憶しています。
さらに、実家が営んでいた設備業はバブル崩壊の影響で経営が厳しくなり、家計が逼迫したため、高校の授業料はすべて自分のアルバイト代でまかない、看護学校は奨学金を利用して通いました。経済的な不安と学業のプレッシャー、両方を抱えながらも、「絶対に看護師になる」という強い思いだけは揺らぎませんでした。
看護学校での戴帽式にて
— 病院に就職されてからはどうでしたか?
1998年に埼玉協同病院へ就職し、循環器内科に配属されたのですが、1年目で第1子を授かり、産休・育休を9ヶ月取得してすぐに復帰しました。同期看護師が2年目看護師として現場で活躍する中、私は2歳違いで第2子を授かり、3年目を迎える頃には同期看護師とのキャリア差が大きく開いてしまいました。
さらに、第2子妊娠中に離婚することになったので、子どもを連れて実家に帰り、救急外来や透析室で慌ただしく働きながら、生活・育児と必死に両立させました。
透析室に勤務していた頃
約11年ほど勤務した頃、偶然出会った中学生時代のバスケットボール部の顧問の先生から、「育児を優先するなら公立病院の方が負担が少ない」「空きがあるから面接を受けたらどうか」とアドバイスをいただきました。さいたま市立病院は災害拠点病院でDMAT(災害派遣医療チーム)の活動もしていたので、私は面接で「DMATの看護師として活動したい」と熱意を伝え、2009年に採用が決まりました。
— 転職後はどのような診療科目に勤めたのですか?
術後ICU病棟に配属された後、2次救急外来に異動し、そこで3次救急の立ち上げに携わることになりました。
当時、院内には3次救急指定病院の勤務経験がある看護師がおらず、患者の受け入れができない状況だったので、川口医療センターや日本赤十字病院へ研修に行き、3次救急で取り扱う医療器具やドクターカーの準備をゼロから整えました。
立ち上げ後、ドクターカーの初出動は、段ボール精製工場で機械に腕を巻き込まれた方の救助活動で、警察や消防と連携しながら、現場の安全確認や血圧測定、点滴のライン確保などを進める一連の流れは、まるでテレビドラマのようで、心臓が高鳴るのを感じました。
救命救急センターでは副師長を任され、現場で働くことにやりがいを感じていましたが、多くの命と向き合い、一瞬の判断が生死を分ける緊迫した現場で、懸命に働く仲間たちが疲労やストレスに蝕まれていく姿を何度も目にしてきました。
不規則な勤務形態であるにも関わらず、夜勤の休憩時間も十分に確保できないまま、患者のために自分を削り続け、疲弊から現場を離れていく看護師に対して、やりきれなさも感じました。
「このままでは現場も人も持たない」という危機感は日を追うごとに大きくなり、この過酷な状況の中でどのように現場を守っていくべきか答えを探し続けたのです。
そして、看護師が安心して現場に戻り長く働き続けられる環境をつくるために、長年身を置いた現場を離れる決断にいたり、2025年3月に救命救急センターを退職しました。
疲弊した看護師が再び笑顔を取り戻し、誇りを持って働ける未来を築けるようにと、復職支援と定着支援を目的としたリズナースを起業しました。
現場看護師を支援するリズナースの設立
— 起業したきっかけについて具体的におしえてください。
27年間、看護師を続ける中で、育児や介護、メンタルの不調など、離職する看護師を数多く見てきましたが、病院側が「復帰を待っている」と伝えても、本人からは「復職のハードルが高い」との声が多く、実際に復職した人は全国でも75.6%に留まります。これが1〜3年になると約13.2%、3〜5年未満では約4.1%と、ブランクが長くなるにつれて復帰率は顕著に減少します。
もちろん、復職できない理由は人それぞれですが、だからこそ潜在看護師が抱える不安や悩みを一つずつ解消し、働きやすい職場とマッチングできるサービスがあれば、復帰への一歩を後押しできるのではないかと考えるようになりました。
現在、日本には潜在看護師が約70万人いると推定されており、その中の数%でも復職できれば、現場の人手不足解消に大きく貢献できるはずです。ただ、10年前から「やりたいことのイメージはあるけれど、ビジネスとして成立させる方法がわからない」「自分の強みや武器がない」と感じており、子どもが独立するタイミングでの起業を見据え、10年かけてビジネスアイデアを練り続けることにしました。
— その10年間で、どのような準備をされたのですか?
まずはさいたま市の創業・ベンチャー支援センターで起業に必要な知識について学び、創業計画書の作成や専門家への相談などを重ねながら、構想を現実的なビジネスモデルへとブラッシュアップしました。また、潜在看護師の中には、ブランクの理由をはっきり言葉にできない方も多く、そこには心理的な要因が深く関わっていると感じたため、2020年からは心理学の勉強を開始しました。
2025年8月に「選択理論心理士」を受験予定で、合格後は認定コースを開催し、復職支援だけでなくメンタルサポートまで提供できる体制を整える予定です。
さらに、実際に現場を離れた潜在看護師へのインタビューも継続的に行い、復職を妨げる要因や職場選びの条件など生の声を集め、サービスづくりの土台に活かしています。
— 「リズナース」にはどのような思いが込められているのか教えてください。
リズナースの「リズ(re’s)」には、「Return(戻る)」「Reborn(生まれ変わる)」「Recovery(回復)」「Refresh(新たな気持ち)」など、さまざまな意味が込められており、潜在看護師さん一人ひとりが持つ「復職のストーリー」と重ね合わせました。
私はリズナースを通じて、看護師が笑顔で元気に働き続けられる環境をつくりたいと考えており、そのための軸として「愛」「感謝」「貢献」「笑顔」「成長」という5つのバリューを掲げています。看護師を志す方の多くは「誰かに貢献したい」という強い思いを持っていることから、「貢献」は欠かせない要素ですし、「笑顔で元気に過ごせる未来」は私の目指す姿です。
また、同じ志を持つ仲間同士が学び合い、高め合える成長の場をつくることのほか、「愛」と「感謝」の気持ちも重要視しています。
リズナースのサービスの強み
— リズナースでは潜在看護師に対してどのような支援を行っていますか?
看護師一人一人の悩みや離職の背景に丁寧に向き合い、その人に合った研修やマインドセットを提供したうえで、ライフスタイルや家庭の状況に合った職場へお繋ぎします。
復職後もさまざまな戸惑いや不安が生じると思いますので、復職後1年間は心理学に基づく「気持ちの整え方」や「物事の捉え方」などメンタル面でのフォロー体制も整えています。研修は3日間で受講料は15万円ですが、復職後に半年間勤務していただければ10万円キャッシュバックしますので、個人でご負担いただくのは実質5万円です。
また、職場からの依頼があれば職員へヒアリングを実施し、抽出した課題を職場にフィードバック後、改善につなげる「定着支援」にも取り組んでいます。
将来的には医療機関・施設と提携し、復職支援と定着支援の両輪でサポートできる体制を整えていきたいと考えており、職員の離職率の高さに悩む管理者の方は、ぜひご相談いただきたいです。
— リズナースのサービスは選択理論心理学をどのように取り入れているのですか?
怒りや不快感情を自分で対処できるとメンタルの不調になりにくくなるため、リズナースの研修では選択理論心理学に基づくマインドセットに取り組み、復職後の1年間のフォローを通じて、繰り返しお伝えしていきます。
多くのカウンセリングでは問題の原因が過去の経験や無意識に存在すると考え、それを掘り下げていくことに重点を置きます。一方、選択理論心理学は「全ての行動は自分自身の選択である」と考え、過去の分析や感情の探求に時間を費やすよりも、現在と未来の「行動」に焦点を当てる実践的な手法です。より良い人生を選択するための具体的な計画を立て、実行することを促します。相手を思い通りに動かそうとするのではなく、自分自身の選択や捉え方、在り方を考えます。
例えば、苦手な上司がいる職場では、上司か自分が異動すれば問題は一時的に解決しますが、また苦手な人物と働くことになれば、同じ悩みが再び生じます。苦手な相手がいても、機嫌よく仕事を続けることができるように、自分の気持ちを整える方法を身につけていくことが大切です。
— 定着支援に関する取り組みも教えてください。
現在はご契約いただいている介護施設を毎月訪問し、午前中は施設側へのヒアリング、午後は個別のカウンセリングを行っています。職員は交代で相談に来られ、内容は仕事だけでなく、家族やプライベートの悩みも多く寄せられ、「子どもがゲームばかりで勉強をしない」という悩みに対して「ゲームは欲求を満たすための代償行為なのかもしれません。お子さんはゲームでどのような欲求を満たそうとしていると思いますか?」といった形で、気付きを促す対話を行っています。
2~3カ月ほどの短期間で職場を転々とする看護師が多い印象があるため、第3者による定着支援の介入は、医療機関や施設側にとって強みになり得ると考えています。将来的には看護師に限らず、介護士も対象とした支援プログラムの提供も視野に入れており、ホームページで詳細を発信していきますので、ぜひご覧ください。
— 訪問看護の分野ではどのようなサービスを提供しますか?
訪問看護師は利用者様の生活環境に入り込み、信頼関係を築きながらケアを提供しなければならないうえ、医師のいない現場で自身の判断が求められるため、精神的な負担が大きいのが現状です。
そこで、今後はカウンセリングをはじめとした訪問看護師のメンタルフォローに関する支援をしていきたいと考えています。また、利用者様やご家族との関係構築に悩む看護師向けに、選択理論心理学を活用したコミュニケーションスキルを学べる場として活用してもらえるように準備中です。
事業所単位でご契約していただければ、介護人材確保職場環境改善等事業補助金の対象になりますので、まずはお気軽に無料相談にお越しいただければと思います。
— サービスを広げるためにどのような活動をされていますか?
看護師同士の交流会を開催するほか、BNI(経営者や事業オーナー向けの世界最大級のビジネス・リファーラル組織)にビジター参加し、医療機関や施設の管理者へ「困っている方がいればご紹介ください」とお伝えしています。
また、現役看護師がいれば、身近に復職希望の潜在看護師がいないか尋ねるほか、InstagramやFacebookなどSNSも活用しています。さらに、定着支援については、「介護人材確保・職場環境改善等事業」の補助金対象事業であることを伝え、医療機関や施設の管理者に営業メールをさせていただいています。
「介護人材確保・職場環境改善等事業補助金」の具体的な補助額や要件など、詳細な内容が気になる方は、厚生労働省や自治体のホームページなどをご確認いただくほか、リズナースまでお気軽にお問い合わせください。
看護師を支える未来へのメッセージ
— 看護の現場に対してどのような課題や悩みを感じていますか?
現場の看護師が疲弊しているにもかかわらず、組織として十分な対応ができていない職場が多いのが現状で、介入しても改善が難しいケースもあります。超高齢化社会を迎え、今後は「多死社会」になっていく中で、現場看護師の負担が今よりもさらに増加することが予想されます。
私はその懸念からリズナースを立ち上げ、選択理論心理学に基づいたマインドセットの提供や第3者としてのフォローを通じて、組織がカバーしきれない部分を支援し、現場復帰できる看護師を増やしていきたいと考えています。
— リズナースが目指す看護師の理想的な生き方を教えてください。
医療業界は保守的な考え方が根強く、かつては「貢献=自己犠牲」と捉えられ、看護師の自己犠牲を美徳とする時代があり、「まず自分を大事にする」という発想が提唱されることはほとんどありませんでした。
そのため、体調不良や家族の病気が生じても、無理をして仕事に行くのが当たり前でしたが、常に相手に尽くすだけでは疲弊やメンタル不調にもつながります。
また、看護師が自分自身を大事にし、気持ちが満たされた状態でなければ、患者様に十分なケアを提供できず、最終的に自分を嫌いになってしまうこともあります。
シャンパンタワーの一番上のグラス(看護師)が満たされ、こぼれ落ちたシャンパンが下段(周囲や患者様)にそそがれるように、まず看護師自身の心を満たすことが、笑顔で楽しく仕事を続けるための鍵だと考えています。
リズナースは、「看護する側も看護される側も幸福だと感じられる現場」が当たり前になる社会を目指し、看護師の支援を続けていきたいです。
— 最後に看護師にメッセージをお願いします。
リズナースは、看護師同士がつながれるコミュニティの場として、どなたでも歓迎しており、「現場で働くのに疲れてしまった」「もう一度元気に働きたい」と感じている方はもちろん、「ただ誰かに話を聞いてほしい」というライトな気持ちの方にも足を運んでほしいです。
不在の場合もありますので、事前にご連絡いただいたうえで、遊びに来る感覚でお気軽にお立ち寄りください。

株式会社リズナース(Re's nurse)
〒115-0045
東京都北区赤羽2-48-5 エスパシオ201号
TEL:080-3008-5900
MAIL:res.nurse.project@gmail.com
WEB:https://res-nurse.com/
原芙美子社長のプロフィール
経歴:
1998年 国立療養所東埼玉病院附属看護学校卒
1998年 医療生協埼玉協同病院
2009年 さいたま市立病院
2025年 個人事業主として開業
2025年 株式会社リズナース設立
資格等:
看護師免許
DMAT隊登録
ICLSインストラクター
メンタルヘルスライン2級
アドラー流メンタルトレーナー
選択理論心理士取得予定(2025年8月)
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