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【PICK UP!在宅医療機関 001】巡る診療所 飯田智哉院長 最終更新日:2024/10/03

【PICK UP!在宅医療機関 001】巡る診療所 飯田智哉院長
注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第1回目は2024年11月に札幌市手稲区にて「巡る診療所」を開業される飯田智哉院長です。開業までの道のり、そして今後の在宅医療にかける思いを熱く語っていただきました。
これまで
— これまでの経歴について教えてください。
札幌医科大学に入学後、幅広い診療ができる医師に憧れ、大学1年生の頃から札幌医科大学第一内科に進むことを決めていました。当時の第一内科では消化器、血液、膠原病など多岐にわたる領域を診療することができたため、迷うことなく入局しました。
その後、小樽市立病院にて2年間の初期研修を行い、沢山の優れた上級医の指導を受けながら医師としての基礎を固め、医師4年目と5年目には市立室蘭総合病院で勤務しました。こちらでも素晴らしい指導医に恵まれ、貴重な経験を積みました。
専門は消化器内科になります。専門に選んだ理由は、広範囲の疾患を診療できる一般内科的な要素に惹かれたためです。どの病院でも消化器内科は様々な疾患を扱う機会が多く、その幅広い診療ができる点が魅力でした。
2015年には札幌医科大学大学院に入学し、基礎実験や論文執筆に注力しました。研究活動を通じて、日本学術振興会特別研究員(DC2)として、マウスを用いた炎症性大腸発がんに関するメカニズム研究に取り組み、数多くの論文を執筆し、学術的な成果も多数挙げました。
消化器内科医時代:市立室蘭総合病院にて
— 在宅医療に進まれたきつかけについて教えてください。
大学院を卒業後、海外留学を考えていたのですが、自分の目指す医療が何か分からなくなっていました。弟が小児科医として活躍し、多くの子どもを診療している姿を見て、基礎実験に没頭している自分に疑問を感じ始めました。さらに、娘から「パパは何のお医者さんなの?」と聞かれたことも大きなきっかけとなり、実際に誰のために医者をしているのかという根本的な問いに直面しました。
そんな中で転職活動を始め、エージェントから「在宅医療」の提案を受けました。当初は興味が湧きませんでしたが、見学した「札幌在宅クリニックそよ風」での診療現場を目の当たりにし、若手医師の患者・家族に対する真摯な姿勢に感銘を受けました。彼らが患者の病状のみならず、生活や心に寄り添い、チームで医療を提供している姿に、真に自分がやりたかった医療の姿を見出すことができました。
その体験を通じて、「ここなら医者の心を取り戻せる」と感じ、在宅医療の道に進むことを決意しました。
大学院生時代:ワシントンDCで開催された Degestive Disease Week 2021 にて
「札幌在宅クリニックそよ風」にて
— 「札幌在宅クリニックそよ風」では院長として、スタッフ約50名を率いられご苦労があったかと思います。何かエピソードがあればお話ください。
私が入ったころはまだ20数名の規模でした。私がやりたいことは「在宅医療の啓発」であり、在宅医療を広めたい、在宅医療をする人を増やしたい、という思いのもと、雇われ院長として組織の拡大を行ってきました。
経営する立場の方であれば皆が経験されることかと思いますが、どこか組織を大きくすることを優先してしまって、大きくなるにつれて、組織の理念がうまく浸透しなくなってしまい、そこは本当に苦労しました。組織を引き継ぐということの難しさを知りました。
患者数は増えましたし、組織も大きくなりましたが、でも行っていることはこれで正しいのだろうか、本当に自分のやりたいことなのだろうか、という疑問が湧いてきて、そこが一番難しかったです。
— 当時はショッピングモールでの在宅医療のイベント開催をおこなったり、ラジオに出演したり普及啓発に尽力されていたようですが、現在の取り組みはいかがですか。
一般市民向け、医療従事者向けの活動を続けています。
一般市民に対しては、10月にはイオンモール札幌平岡で在宅医療の普及啓発イベントを予定していますし、11月には在宅医療推進フォーラム(東京)でも講演する予定になっています。在宅医療を今必要としている方々だけではなく、もっと下の世代にも知ってもらうことが重要だと考えていて、個人的に小中高校生向けの講演なども行っています。
医療従事者に対しては、医師会や学会を通じた活動も大切にしています。
これからも在宅医療を少しでも多くの方に知ってもらえるよう、繰り返し、繰り返し、行っていきます。
— 「札幌在宅クリニックそよ風」には約4年在籍されていましたがどのような4年間でしたか。
本当に学びの4年間でした。在宅医療の初心者としてスタートして、患者、家族、多職種の方々から多くのことを学ばせてもらいました。
在宅医療の楽しさ、難しさ、その両面を教えてもらった4年間だったと思います。
さらに管理職としても3年間経験させてもらって、人を管理したり、組織を維持したりする難しさを本当に学ばせてもらった期間だったなと感じています。
札幌在宅クリニックそよ風時代:患者宅にて
「巡る診療所」について
— 本年11月に開業されるとお聞きしました。大きな決断かと思いますが、至った経緯についてお聞かせください。
雇われていては叶うことのない、自分のやりたいことを100%自分の責任で行う、良い評価も悪い評価もすべて自分に返ってくる、そんな組織を作りたいという思いがありました。僕は来年の3月に40歳になりますし、札幌も在宅クリニックが増えてきて、5年後だと空きが無くなっているかもしれない。そのような状況を考えると、今しかないと思い決断しました。納得のいかないことには従いたくない、人に自分の運命を左右されたくない、そんな性格なので、雇われているのに元々向いていなかったのもかなりあると思います笑
あと、もう一つありまして、小樽で小児科のクリニックを運営している双子の弟が2つ目のクリニックを開業したので、そこに触発されたものもありますね。
開業するにあたっては、札幌の在宅クリニックが今後飽和することが予想されるので、どう差別化するかがすごく大事だと思っていました。差別化にあたっては、自分の経歴や経験、専門医資格などもありますが、場所も非常に重要な要素と考えました。今後も医療介護のニーズが増加し続ける地域である点、若い方々も居住しており自宅での介護文化が一定数ある点、訪問診療を行う医療機関が人口に比して少ない点から、札幌の西端にある手稲区には訪問診療のニーズがあるものと判断しました。
また、札幌市のみならず、石狩市や自分の地元である小樽市へも訪問できるというのが、当院の特色かと思っています。また、介護者の仕事の関係などから土曜日の訪問を希望される方もいるので土曜日も診療日にしているというのは、札幌市内ではあまり多くないと思います。
— 「巡る診療所」というネーミング、斬新だと思いますが、ネーミングに込められたメッセージ等、想いについて教えてください。
これは色々と考えましたね。まずは、シンプルな名前にしたいな、短くすっと言えるものが良いな、そして、愛称で呼んでもらえるようなものが良いなと思っていました。
在宅医療の仕事って、患者さんや多職種の方々との「巡り合い」がベースになっていて、元々この言葉がとても好きでした。
「巡る」っていう言葉には自分の中では、「町を巡る」、「人と巡り合う」、「その人の心に思いを巡らせる」、の3つの意味があって。「巡る」って愛称で呼んでいただけたら良いなとも思って、「巡る診療所」としました。
— スタート時の体制(スタッフ数)はどのような予定ですか。
私と皮膚・排泄ケア認定看護師1名、あとは訪問診療に帯同する事務員兼相談員、医事課事務員兼相談員の計4名です。
クリニックを運営していると、一人が離職してしまうとその穴を埋めるのがすごく大変なので、リスクマネジメントの観点からマルチタスクが可能な優秀な人材を採用しました。人に悩まされるのは前職で痛いほど学んでいたので、人となりもかなり重視しました。
開院がとても待ち遠しいです。
— ホームページ では「訪問診療・緩和ケア」とありますが、注力領域や診療科目について教えてください。
私は緩和ケアがすごく好きで、「在宅緩和ケア医」でありたいと思っています。とある雑誌で「在宅医療 看取りの名医34名」にも選んでいただきましたし、自宅で最期を迎えたい人の思いを叶えるということに、大きなやりがいを感じています。
ただ、自分の中心にあるのはやはり「在宅医」で、私の中での在宅医は何でも屋さん。
あらゆる疾患や病態、患者さんの背景や思いに対応することができて、質の高い緩和ケアも提供できる、そんな在宅医を目指しています。
— どのような「巡る診療所」にしていきたいですか。目指すべき姿を教えてください。
目指しているのは、「圧倒的なサービス」の提供です。近くにあるからお願いしようというのではなく、「巡るだからお願いしよう」「巡るに任せておけば大丈夫」「巡るにはこんなことまでしてもらえるのか」と言ってもらえるような組織を作りたいと思っています。
そのためにスタッフには3つの評価指標を提示していて、外部との関わり、内部での働き、そして、スキルアップです。
特にスキルアップには私自身思いがあって、看護師は看護師の業務だけをするというのではなくて、看護師でありながらソーシャルワークもできるとか、ソーシャルワークをしながら医療事務もできるとか、マルチタスクをこなせるスタッフを育成したいなと思っています。
在宅医療には他職種への理解が欠かせないこともその理由の一つですが、いつか私のことが嫌いになって、彼らが巡る診療所を離れる日が来るかもしれませんから笑、そういう時に彼らが前職よりスキルアップしていて、彼らの市場価値が上がっているっていうのがすごく望ましいと思いますし、私も私でしっかりと自分の中で、他と関わりながらスキルアップをしていく必要があると思っています。在宅医療はあくまで「医療」なので、医療レベルが担保されていなければ「圧倒的なサービス」など夢のまた夢かなと思っています。
巡る診療所のロゴ
未来に向けて
— 飯田先生が感じている在宅医療の課題について教えてください。
在宅医療には多くの課題があり、どこを取り上げるべきか迷うところです。ただ私が最も問題だと感じているのは、在宅医療の認知度が依然として低い点です。在宅医療をこれだけ必要としている方々がいるにも関わらず、在宅医療はまだまだ広く知られてはいません。これは一般市民の方のみならず、病院医療従事者に対してもです。我々が十分に伝えきれていない部分だと感じています。
このような状況を改善するために、在宅医療を知らない方々にその価値を知っていただくための「0から1を生み出す作業」を繰り返し行っていきたいと思います。今後も、パブリックな場とプライベートな場の両方で、多くの方々と活動を続けていきたいと思っています。
— 飯田先生が目指している「在宅医療」について教えてください。
僕が目指している在宅医療は、普遍性と個別性を兼ね備えたものです。患者の「家にいたい」「苦痛を緩和したい」といったコアなニーズに応えるのはもちろんですが、その周囲にある個別のニーズ、「誰とどんな時間を過ごしてどう生きたいか」という願いに徹底的に応える在宅医療を進化させていく必要があると考えています。特に都市部では、個々のニーズに応じたサービスが今後ますます重要になってくるでしょう。サービス提供者が増えることで、こうした個別のニーズに応える医療が拡充されていくと思いますし、私たちの診療所もその一翼を担いたいと考えています。
さらに、患者自身も強く意識していないような潜在的なニーズにも応えられるようなサービスを提供できる組織でありたいとも思っています。「そんなことまでやってくれるのか」と驚かれるような、予想を超えたサポートを提供できる診療所を目指しています。
また、僕自身が地方出身ということもあり、都会だけでなく地方の在宅医療にもどのように関わっていけるかを常に考えています。たとえ直接的な関与でなくても、オンラインで支援できる方法などを含めて、地方の在宅医療をサポートする取り組みにも力を入れていきたいです。
— 最後に地域住民の方へメッセージをお願いします。
当院は、「巡る診療所」という名の通り、訪問診療・在宅緩和ケアに特化した診療所です。
札幌市手稲区・西区、石狩市南部、小樽市朝里・新光・張碓・桂岡・銭函の方々が、自宅でも安心して過ごせるよう、在宅医療全般・緩和ケアを専門とする医師が、定期的な訪問と必要時の往診を24時間365日体制で行います。
街を巡り、本人や家族、多くの地域の方々との巡り合わせを大切にし、その心に思いを巡らせて、満足度の高い在宅医療を提供して参ります。
どうぞお気軽にご相談下さい!
診察風景

巡る診療所
〒006-0032
北海道札幌市手稲区稲穂2条8丁目1-3
診療時間
平日  9:00~17:00
土曜  9:00~12:00
休診日 土曜午後・日曜・祝日
※ご契約者様については24時間365日対応

WEB:https://www.meguru.clinic/
飯田智哉院長のプロフィール
経歴:
2010年 札幌医科大学医学部医学科 卒業、同第一内科 入局
2010年 小樽市立病院 初期臨床研修医
2012年 札幌医科大学附属病院 第一内科
2013年 市立室蘭総合病院など複数の市中病院で消化器内科医として研鑽を積む
2015年 札幌医科大学大学院 入学
2017年 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2019年 札幌医科大学大学院 卒業
2020年 札幌在宅クリニックそよ風 入職
2021年 札幌在宅クリニックそよ風 院長
2024年 巡る診療所 開業(11月1日)
資格・役職:
医学博士
日本在宅医療連合学会在宅医療専門医・指導医
日本緩和医療学会緩和医療認定医 (研修指導者)
日本内科学会認定医・総合内科専門医
日本消化器病学会消化器病専門医・指導医
難病指定医
認知症サポート医
日本在宅医療連合学会研究委員会委員、次世代委員会委員
日本ホスピス緩和ケア協会北海道支部幹事
日本死の臨床研究会北海道支部世話人
北海道在宅ケア連絡会幹事
札幌市在宅医療協議会幹事、事業部副部長
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