【PICK UP!若手経営者 005】ハーネス訪問看護ステーション 長濱史弥&瀧本淳さん 最終更新日:2024/12/22
在宅医療界の若手経営者へのインタビュー企画「PICK UP!在宅医療界の若手経営者」。第5回目は2021年に「ハーネス訪問看護ステーション」を開業された長濱史弥社長と瀧本淳事業本部長・所長です。
お二人には、これまでの道のり、現在、そしてこれからの夢にかける思いを熱く語っていただきました。
安心してご自宅で療養生活を送っていただけるために
— ハーネス訪問看護ステーションの成り立ちを教えてください。
長濱 2021年の2月に開業しました。開業のきっかけは、自分の祖母の実体験からです。自分の祖母が自宅で療養しないといけない状況であり、ドクターとケアマネージャーとの距離が近い訪問看護が情報のハブとなればご利用者様とご家族様が安心してご自宅で療養生活を過ごせるかと思い、その実現のために、ハーネス訪問看護ステーションを立ち上げることにしました。
当時は会計事務所に勤めており、初めての領域に飛び込んだ形になりますね。2020年の8月に法人を設立し、看護師の募集をハローワークや求人情報サイトにて行って5人を採用し、2021年の2月に開業しました。
— 患者さん集めはどのように行いましたか?
長濱 最初の患者は私の祖母でした。ただ、コロナ禍の真っ最中でしたので、非常に苦戦しましたね。事業所を回っての営業などもできず、ケアマネージャーさんも在宅勤務の方が多く、電話をかけてみるけれど出られない、というような感じで結構大変でした。そんなときに、いま一緒にインタビューを受けている瀧本と出会い、彼が頑張ってくれました。
2021年2月に事業を始めて、3月下旬に瀧本が入ってきてくれました。彼は理学療法士で経験もあり、リハビリを提供する医療者としての技術が高かったため、すぐに利用者さんを集めてきてくれました。リハビリの売り上げで支えてくれたという感じです。
瀧本 私は理学療法士で、以前は別の訪問看護ステーションで働いていましたが、新たなステージを目指し転職活動をする中で、ハーネス訪問看護ステーションに出会いました。代表とはもともと知り合いというわけでもなく、自分でいくつかの職場をネットで探し、その中から見つけました。
— 瀧本さんが入職され、そこからは順調だったのですか?
長濱 順調とは言えませんでしたね。我々のステーションでは看護部門とリハビリテーション部門があるのですが、看護部門は人員の確保や採用費に伴う資金繰りなどの苦労がありました。ただ、瀧本が担当するリハビリテーション部門では利益をしっかり出してくれていて、関係各所との連携も彼が担ってくれていたので助かりました。今年1月に看護師の管理者が変わって、看護部門は少しずつですが順調になってきています。まだまだこれからですが、きちんと業務としては回っていますし、地域の方の信頼も少しずつ得られてきているのではないかと思っています。
報告・連絡・相談の基本を大切に
— ハーネス訪問看護ステーションについて教えてください。
長濱 現在(2024年12月時点)は、看護師が5人、リハビリテーションのスタッフが4人、事務が1人の計10人で運営しています。スタッフの世代は幅広く、20代から60代までが揃っています。
地域密着と言いますか、地域のニーズに沿うようにということは心がけています。そのため、看護とリハビリテーション、どちらかに寄るのではなく、地域のニーズに合わせてできるだけバランスよく行っていきたいと考えています。あとは、当たり前のことですが報告・連絡・相談を徹底しています。
瀧本 何かに特化しているというわけではないのですが、当たり前のことを確実に行うことが大事だと考えています。例えば、主治医やケアマネージャーへの連絡であったり、チーム内で情報を共有することであったり、当たり前のことが忙しくて抜けていて、そのことによって利用者さんに不利益が生じ、関係機関との信頼関係も失くしてしまうことになります。そういったことにならないように、報告・連絡・相談に関してはスタッフにも徹底的に行ってもらっています。そういう地道なところで信頼関係を関係機関とも築けてこれたのではないかと思っています。
あと、一方的にこちらが専門的な知識を持って話してしまい、相手に内容が正しく伝わっていないということが医療の場面では結構あります。そういうことを防ぐために、多職種、また利用者さんやそのご家族とお話するときにはわかりやすく伝わるようにという点は意識して取り組んでいます。
— その他にも特長はありますか?
長濱 給与などの待遇面については良い方だとと思います。基本給やインセンティブに関しては、業界水準より高いです。人には投資をしたいと思っています。
あとは、スタッフを採用するときに心がけていることもあります。一言で言えば、「いい人」。人生観などを聞いて、フィーリングが合う人を採用しています。シンパシー(相手の心情を察して、思いやれること)がやっぱり大切ですね。
瀧本 あとは、明るく挨拶がしっかりできる人でないと入口の時点で厳しいですね。元気があって、愛嬌がある人は大歓迎ですね。人材不足等の理由で焦った採用をしてしまうと、結果的にお互い良くない結末を迎えることが多くなるので、そこはハーネスの採用軸に沿って慎重に行ってます。
— 採用した後のスタッフの教育について教えてください。
長濱 私は専門家ではないので、余計な口は挟まず、看護部門は看護師の管理者に、リハビリテーション部門は瀧本に任せています。
瀧本 リハビリテーションに関しては、現時点では即戦力となる人員を採用しており、それぞれ学んできた知識や技術があるので、そんなに言うことはないです。逆に私が分からないことは教えてもらったりもしています。今後、未経験の方が入ってくることがあれば、早期の単独訪問に繋がるように教育プログラムを立てて実施していきます。接遇やビジネスマナーに関しては、オンライン研修を導入しておりますが、今後はオフラインでの研修も実施していきたいと思っております。
医療の提供とマネジメントの両立
— 今抱えている課題、そしてそこへの対応を教えてください。
長濱 ビジネスとしてのマネジメントとなると、医療の現場とは異なるので、そこには課題を感じています。ですが、逆に縦割りの組織を目指すのも良いのかなと思うようになりました。マネジメントを専門とする、役割のある人をきちんと配置すれば回るのかなと思っています。
あとは、特定の人に依存している、いわゆる属人的な運営体制であることが課題です。現在、瀧本と管理者(看護師)のツートップで会社を回しています。この2人がかけちゃうと簡単に会社が傾いてしまうという危機感はあります。
瀧本 これはめちゃくちゃ課題ですよね。でも、うちだけではなく、訪問看護業界で共通した課題でもあると感じています。
長濱 だからこそ潰れてしまうんだろうなと思います。黒字倒産などの話も聞きますが、そこなんだろうなって。対策として、仮説ですが、先ほど申したようにビジネスサイドのマネジメントができる人材、要は後方支援の部隊を作って、縦割りの組織の中で「現場を上手く回すマネジメントする人」を配置するなど、そういうことを標準化できればいいなと思っています。
あとは、採用力についての課題を感じています。マンパワーの多いところの方が求職者からの依頼が来やすいと思っていて、そこがまだ十分ではないなと感じています。求人サイトや人材紹介のサイト、あとはSNSを活用した求人に取り組んでいるところです。
いろいろな課題を述べましたが、いま一番注力していきたいところはやっぱり組織力を上げていくというところです。そのために、来期看護師の数を10人体制にするということを目標に掲げています。
業界ナンバーワンのホワイト企業を目指して
— 長濱さんのこれまでについて教えてください。
長濱 僕はもともと神奈川大学に通っていて、そのときに居酒屋でアルバイトをしていました。働いていた店舗は社員がおらず、アルバイトのみでお店を回していく店舗だったのですが、そこではシフトを作ったり、仕入れをしたり、店長代理的な役割をやっていました。そうすると、上の立場の人から売り上げのことなど数字のことを言われるようになりました。ただ、それを同じ立場のアルバイトに伝えても、「上は現場のことを知らないじゃん」という声が上がってきて、確かになと思った部分もあったのですが、逆に僕らは数字など「上のこと」を何も知らないと思ったんです。現場のことは知っているけど、売り上げなどの数字に関することは何もわかってないなと思い、そこから会計の勉強をするようになりました。
数字は裏切らない、というところを活かして、アルバイトのメンバーには「こういう数字だから人件費を減らさなきゃいけないよ」とか「こうだからもっとセールスを頑張らないといけないよね」ということを数字という根拠を持って伝えることが大事だと思い始めました。勉強していくうちに楽しくなり、せっかくなら会計の道で頑張ってみようと思い、卒業後に会計事務所に入りました。
しかし、いざ働いてみると超ブラック企業でした(笑)それは、その事務所だったからというわけではなく、業界全体としてそのような風潮はあったような気がします。今の時代はもっとホワイトだとは思うんですけどね。とても大変でしたけど、勤めていた事務所は個人の会計、法人会計、不動産、相続、保険など結構幅広く扱っていたんですよね。会社内の役割分担はあったのですが、割と上記の業務全般を担当するようになりました。いろいろな経験ができて楽しかったですし、自分のスキルアップにもつながったと感じています。その会計事務所には3年勤め、退社後にハーネス訪問看護ステーションを立ち上げました。
— 2社目にして起業とはすごいですね。きっかけと苦労をお聞きしたので、今度は今後の夢や展望などお聞かせください。
長濱 いまはこの会社のみんなと一緒にいい景色が見たいなと思っています。社員さんの生活水準が上がって、豊かになってくれたら嬉しいと思っています。
自分は訪問看護で1円も売り上げを立てられないですし、医療業界の知識も少ない中で、スタッフ一人一人が頑張ってくれているからこの会社が成り立っています。スタッフのみんなには恩返しをしたいなと思っています。
あとは、会社のこれからの展望として、業界ナンバーワンのホワイト企業を作るというビジョンを掲げています。従業員満足度が一番高い会社というものを目指しているので、そういう想いに共感してくださる方がいたらぜひ入っていただきたいなと思っています。
瀧本 もしかしたらホワイト企業と聞いて「仲良しこよし」のイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではなく、しっかりと自分の意見が言えることが大切だと思います。表面上は仲が良くても意見が言えないことってあると思うのですが、我々はそれぞれの特性や強みを尊重し、自分の意見がきちんと言える職場環境を大事にしていきたいと思っています。
目の前の一つ一つのことに向き合う
— 瀧本さんのこれまでについて教えてください。
瀧本 僕は、理学療法士の専門学校を卒業して、最初は広島の整形外科クリニックに入職しました。そこでは約3年間勤め、その後上京しました。上京のきっかけは、もともと僕は福岡出身なのですが、学生時代に東京に観光に行ったときにカルチャーショックを受けました。暮らしていた福岡がものすごくちっぽけに見えて、人生で一度は東京で暮らしてみたいという田舎者の憧れですかね(笑)
広島の整形外科クリニックを退職後、東京の整形外科クリニックへ転職し、そこで4年ほど勤務しました。その後、訪問リハビリを見てみたいと思い、前職の訪問看護ステーションに入りました。訪問看護で働いてみて感じたことは、それまでは在宅での患者の暮らしを見ることは皆無でしたが、実際にみてみると在宅でのリハビリの必要性を実感し、それまでとは違ったやりがいを持って働くことができました。
あとは、整形外科のリハビリ外来は結構忙しかったので、定時に帰れることなんてほとんどなかったのですが、訪問看護は逆に定時で帰れることが多かったので、自分の時間が作りやすくなりました。その後その会社を退職して、今に至ります。
— 瀧本さんのこれからの展望や将来の夢を教えてください。
瀧本 あまり夢というものを描いたことがないのですが、大きい目標をどんと持つより、目の前の一つ一つのことに向き合ってクリアしていくことで、最終的にたどり着きたい場所にたどりついているんじゃないかなと思います。まず直近での目標は、店舗を増やすことですかね。
スタッフが安心して長く働ける環境を
— 訪問看護業界全体の課題や感じていることを教えてください。
長濱 業界ナンバーワンのホワイト企業を作っていきたいというところに繋がっているのですが、まず看護に関しては、日中すごく忙しいのに夜も待機しておかないといけないところや、あとは訪問看護の医療保険や介護保険の制度上、そんなに給与が高くならずに頭打ちであるところ、それが故に無理な訪問件数を強いられてしまって疲弊してしまうスタッフがいるということが現状としてあります。まずはそこを根本的に変えていきたいと思っています。
労働環境の面から、スタッフが安心して長く働くことのできる、もちろん安全性もきちんと担保されているというのが当たり前でないといけないと思います。これからもっと超高齢化社会になっていって、在宅医療のニーズは高まっていくと思いますが、医療を提供する側が、身を粉にして働いていくということが当たり前ではいけないと思います。
瀧本 労働環境を整えるという話につながりますが、「枠を明確にしておく」ということも大切ではないかと思います。うちであれば、定時の枠を超えずに昼休みもしっかり1時間とれる訪問件数に設定し、それが破綻する前に人員増加していきます。中には、他社の話で、定時も関係なく、昼休みも全く取れずに働いているという話を聞くことがありますが、それだとスタッフの負担も大きくなり、結果的に利用者さんへ良いサービスが届けられなくなります。そうならないためにも、労働環境を良くして、働くスタッフが安心感を持てれば、利用者さんにもよりよいサービスができるようになる。そして、働き手も増えて、依頼も増える、というプラスの循環ができるようになればいいなと思います。
— 訪問看護業界の未来像をお聞かせください。
瀧本 最近、ニュースで訪問看護業界の不正が取り上げられているのを見たり聞いたりします。訪問に行っていないのにも関わらず行ったことにしている、いわゆる水増し請求をやっている会社があり、そのような報道によって「訪問看護ってそうなんだ」というマイナスの印象がついてしまうのは凄く残念ですね。訪問看護はこれからもっと必要性を増していくので、こんな残念なことで認知されず、もっと社会にとって良い話での話題提供となるように、訪問看護業界全体として襟を正していくべきだと感じています。
長濱 今後はメディア戦略が大切なのかもしれませんね。まずは訪問看護そのものの認知度が低いので、一般の方にもっと知っていただく必要があるのかなと思います。現在は、訪問看護を必要としたときに、まずは地域包括支援センターに行って、ケアマネージャーさんを紹介してもらって、ケアマネージャーさんから必要なケアに応じた事業所を紹介してもらうという流れが一般的だと思います。そこがもっとこう、例えば「ハーネスの瀧本のサービスが受けたい」という風にになっていったらいいなと思います。例えば、僕らが病院にかかるときにどのお医者さんに診ていただくか選ぶように、訪問看護がそれくらいの認知度になって、利用者さんが選べるくらいまでになったらいいなと。それが理想とする訪問看護の未来像ですね。
— 訪問リハビリの視点からの未来像を教えてください。
瀧本 訪問リハビリの必要性はある程度理解を得られていると思います。しかし、昨今の介護報酬改定では訪問看護でのリハビリはどんどん減算されていってます。サービスとしての需要が高まる一方で、働き手は少なくなって行かざるを得ないのが現状です。とても難しい問題だと思いますが、抗えるところは抗って、抗えない所に関しては時流に沿って直ぐにシフトチェンジできるようにやって行く必要があります。それができない所はどんどん淘汰されてしまうのかなと思います。
— 最後に地域住民へのメッセージをお願いします。
瀧本 利用者さんもそのご家族も安心して利用いただける看護やリハビリを提供しています。ニーズをしっかり聞きながら、お役に立てればと思います。まずはぜひご相談ください。
長濱 安心してご利用いただけるために、丁寧なケアと情報連携を心がけています。お困りごとがあればご相談ください。
プロフィール:
長濱史弥(ながはま ふみや)
ハーネス訪問看護ステーション 代表取締役社長
経歴:
2016年 都内会計事務所
2021年 ハーネス訪問看護ステーション 開業
2016年 都内会計事務所
2021年 ハーネス訪問看護ステーション 開業
瀧本淳(たきもと じゅん)
ハーネス訪問看護ステーション 事業本部長・所長
経歴:
2009年 飛翔会東広島整形外科クリニック
2011年 麻生リハビリテーション大学校卒業
2012年 田園調布長田整形外科
2017年 株式会社トリニティ訪問看護ステーション結
2021年 ハーネス訪問看護ステーション
2009年 飛翔会東広島整形外科クリニック
2011年 麻生リハビリテーション大学校卒業
2012年 田園調布長田整形外科
2017年 株式会社トリニティ訪問看護ステーション結
2021年 ハーネス訪問看護ステーション