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【PICK UP!在宅医療機関 008】なりとみ歯科 成富健剛院長 最終更新日:2025/01/04

【PICK UP!在宅医療機関 008】なりとみ歯科 成富健剛院長
注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第8回目は佐賀県鳥栖市にて「医療法人なりとみ歯科」を運営されている成富健剛院長です。歯科医や訪問歯科の現状、今後の歯科診療や食への取り組みにかける思いを熱く語っていただきました。
父の病に胸を痛め、歯科医の道へ
— 歯科医を目指したきっかけについて教えてください
父は歯が悪く、三叉神経などで悩んでいるのを見て、歯科医になることを意識したのがきっかけです。学校の先生になりたいとも思いましたが、やはり技術を身に着けたいとの想いから、歯科医を目指しました。
— 大学卒業後、開業するまでのエピソードを教えてください
地元の元町歯科診療所という医院に9年間勤務しました。当時、研修医制度はなかったので、卒業してすぐに現場に出るという状況でしたが、学生の頃からアルバイトに行っていたこともあり、働きやすい環境でした。患者さんがとても多く、3~4時間待ちは当たり前の状況でしたね。当時は毎日たくさんの方の診察をするのが当たり前になっていました。とにかく、日々診療をこなし、夜10時まで診療したこともありました。
大学の卒業式にて
「なりとみ歯科」開院
— 開業を決意した理由を教えてください
じつは、開業したいとはあまり思っていませんでした。9年間働いた元町診療所を離れようかと考えましたが、この時は開業ではなく、転職先を探そうと、何件か面接に行きました。面接はしたものの、ピンとくる転職先は見つからず、転職活動もタイミングが合わなかったり、うまくいきませんでした。どうしようか考えている中、住宅展示場で家を廉価で新築できるというチャンスが巡ってきて、転職先が見つからないのであれば自ら開業しようと、自宅に医院を併設する形をイメージして開業を決意しました。
— 開業後、苦労などはありましたか?
平成9年に開業し、平成20年に法人化しています。開業当初は妻(事務員)、スタッフ2名、ユニット3台で始めました。勤務先の診療所では、かなりの患者を毎日診察していたので、開業に不安はありませんでした。しかし、実際開業してみると、一人でやっていたと思っていたことが、周りのスタッフたちのサポートがあって、成り立っていたことに気がつきましたね。開業して10年は本当に大変な毎日で、日々たくさんの患者の診療にあたりました。そして、仕事の大変さや私とのコミュニケーション不足からスタッフの退職が相次ぎました。当時は、歯科に対する専門意識の低い状況が散見されていましたから、優秀な人材を確保するのは大変でした。人手不足で明日からどう対応するか、悩む日々が続いたのです。そして、たび重なるスタッフの入れ替えを経て、落ち着いてきたのが平成20年頃でした。ちょうど法人化した頃、ようやく組織として機能し始めたように記憶しています。
開業時、スタッフとともに
— 治療するにあたって、大切にされていることを教えてください
できるだけ幅広い分野の知識と技術を取得し、治療に生かしたいという想いから、目についたものは、積極的に学ぶようにしています。ホスピタリティをはじめ、インプラントや咬合、摂食嚥下など、治療だけでなく、患者を取り巻く生活などにも目を向け、総合的に診ることが大切だと思っています。また、歯は治療をしても、元には戻らない=治らないという前提から考えると、まず予防が重要です。そのためには、生活まで踏み込んで患者の後押しをする必要があると考えています。生活習慣病を予防するために、歯科ができる役割が大きいこと、そして医療機関で唯一、第1次予防が実践できる科目であることを含めると口腔疾患のみならず、全身管理まで実践していきたいと考えています。
現在のスタッフとともに
訪問歯科医として
— 訪問を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
十数年前、当時は訪問歯科診療はあまりなかった時代でした。当時、訪問診療をしたいというスタッフがいて、それがきっかけで始めることになりました。当初、訪問数は少なかったですが、スタッフが増えると共に訪問数を増やしていったという感じです。実績が増え、地域に認知されてきたと共に、自然と依頼数が増えてきているという状況です。
— 訪問診療に関するエピソードがあれば教えてください
訪問診療は依頼があれば引き受けています。ある年の12月、知人より訪問の依頼がありました。寝たきりで、余命もあまり長くない方の家族が、入れ歯を作ってお正月に美味しい物を食べてもらいたいという希望でした。12月は混む時期でもありましたが、何とか調整をつけて訪問し、年末に入れ歯を完成させてお渡ししました。1年後、その知人に会う機会があり、「入れ歯のおかげで正月になんでも食べて嬉しそうだった」、そんな話しがきけるかと思いましたが、「お棺に入れ歯を入れて見送ることができました」という話でした。患者の状態(認知機能、嚥下機能、口腔機能、食事形態、栄養状態、生活の様子や状況)を全く知らずに対応したため、入れ歯を作成したものの、口に入れることなく終わったという失敗談です。それらの経験を元に、摂食嚥下と食事支援、口腔機能や高齢者の身心の特性について必死に学び、今でも在宅や高齢者施設の訪問診療と食事支援に関わっています。
— 訪問診療の現状についてお聞かせください。
現在、5件ほどの施設を訪問しています。一番多いのは入れ歯の調子が悪いという理由ですね。こちらとしては、摂食嚥下等にも関わりたいのですが、入れ歯さえ作ってもらえればそれでいいとか、ぐらついた歯を抜歯してくれればいいという状況もあり、そこまで求められないことがありますね。せっかく様々な知識を得て、多角的に診療をしようとしても、ニーズと合致しないというジレンマはあります。最近では、歯科の重要性が認知されるようになってきたのか、口腔ケアや食事支援を希望されることがあり、状況に合わせて対応しています。食は非常に重要であり、口腔ケアや嚥下問題について、在宅における歯科のニーズが高まっているのを感じます。
— 訪問歯科医として目指すことは何になりますか?
高齢者のADLをできるだけ長く維持するため、つまり、健康寿命の延伸のためにも、『口腔ケア』、『フレイル予防』、『食事支援』に今後も力を注いでいきたいと考えています。訪問歯科じゃなければできないことをどこまでやれるか、患者によってゴールは違います。そこを見極めて、どう喜んでもらえるかを考えることが、面白いと思っています。
施設での診療の様子
次なる実践
— 今後の活動などを教えてください
今までもそうですが、外部活動にも積極的に参加してきました。学ぶことがとても大好きなのです。咬合、摂食嚥下、食事支援、小児口腔育成、インプラント等の学会に参加し、それは今後も継続していきます。また、気の合う仲間たちとスタディーグループで相互に研鑚を重ね、切磋琢磨してきました。それと、本や雑誌にも多数執筆し、電子書籍(Kindle)もありますし、市民講座で講演をしたり、様々な会に呼ばれて話をしたりオンラインで講演したりしています。また、継続的にメルマガも配信しています。話題は主に子どもの口の機能の話ですね。これらは一度の活動ではなく、断続的かつ継続的に行うことで、市民や地域社会への知識の提供という面で貢献したいと思っています。
講演会にて
— 今後の想いや展望があれば教えてください
口腔ケア、フレイル予防、食事支援と話しましたが、全身管理の実践のため、今後は全身疾患と口腔機能、食事との関連についてもしっかりと学んでいきたいと考えています。
それ以外にも、特に子どもの口腔機能の育成に注目しています。最近の子供たちは口腔機能が育っていないため、このまま高齢者になった時を考えると非常に憂慮すべきことだと考えています。
よく噛まない、そもそもいわゆる”ちゃんとした”食事をせずスナック菓子やジュースなどを食べている子もいて、歯や顎を使う状況が少なく、咀嚼が上手にできなくなります。これは子どもの問題だけでなく、子どもを養育する親も一緒に、食について教育をするということをしなければいけないと思っています。
この国の未来を背負う子どもたちをどう育てていくかが課題です。今後は多職種連携、糖尿病支援、骨粗鬆症での連携や教育など、一見歯科とは関わりがかわりがなさそうだと思われているところを、どう変えていくのか。自ら現場に出てアピールしつつ、学んでいかなければならないと思っています。現在も人口減少は進行し、その問題に備えなければいけないですし、高齢者に対してどうするべきか、子どもたちに対してどういう施策を打つべきかが必要です。時代が求める分野について、色々な事を学び、取り組んでいこうと考えています。このように自分ができることをやり続けることですぐに、今の子どもたちへの影響がでるわけではないかもしれませんが、一生懸命やって失敗しながらも、繰り返し挑戦し学び、だれかに喜んでもらえることで、貢献できている実感を得れればとても嬉しいことだと思います。
これからは、地域の健康づくりをする場が、歯科になると嬉しいです。地域の健康づくりに関わっているという自負を持ちながら、今後も活動していきたいと思っています。
患者さん自宅での診療

なりとみ歯科
〒841-0004
佐賀県鳥栖市神辺町397-1
TEL:0942-84-3116
WEB:https://www.naritomidental.jp/
成富健剛院長のプロフィール
経歴:
1988年 福岡歯科大学卒業、元町歯科診療所勤務
1997年 なりとみ歯科開院
所属・資格:
歯科医師
WTS代表理事
日本包括歯科臨床学会員
国際歯周内科研究会会員
咬合療法研究会会員
日本歯科審美学会会員
日本歯科医師会員
近未来オステオインプラント学会会員
厚生労働省指定歯科医師臨床研修指導医
あいうべ体操息育指導士
経基臨塾会員
日本摂食支援協会会員
健康長寿研究会健口教育指導士