【PICK UP!在宅医療機関 013】医療法人福和会高齢者診療部 鈴木宏樹 部長 最終更新日:2025/02/18

注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第13回目は福岡県の医療法人福和会高齢者診療部 鈴木宏樹部長です。これまでの歩み、訪問歯科やこれからの歯科医師像について熱く語っていただきました。
祖父の背中を見て、医療人として人の役に立ちたいと思った
— まず、歯科医師を目指したきっかけを教えてください。
祖父が医師だったのですが、私は祖父ととても仲が良かったんです。祖父はいわゆる地元の町医者といった感じで、近所の方々からいつも「ありがとう」と慕われている姿を、ずっと間近で見てきました。
そのような祖父の姿を見て、自分も医療関係の仕事に就いて、人々の役に立ちたいと思ったことが、歯科医を目指したきっかけです。
— 働いている中で、どのようなところにやりがいを感じていますか。
患者さんの希望に沿った治療をし、悩みが解消できたときに、患者さんが感謝してくれていることが実感できるんですよね。そのようなとき、この仕事にやりがいを感じます。
やはり、地域の方々のために働く祖父をずっと見てきたので、私も人との関わりを大切にする歯科医でありたいといつも思っています。
— 歯科医として、これまでどのような経歴を歩まれてきましたか。
大学卒業後に就職した歯科医院では、審美歯科やインプラント、虫歯の治療を中心に学びながら働いていました。そちらで6年ほど経験を積んだ後、友人の実家である病院に勤めてみないかと誘われて、病院歯科の道へ進むことになったんです。こちらの病院で14年ほど勤務した後、現在勤めている医療法人に移りました。

病院歯科での経験から訪問診療の大切さに気づく
— 病院歯科に転向したとき、どのようなことを感じられましたか。
それまでと大きく違ったのは、患者さんの年齢層ですね。最初に勤めていた歯科医院では、比較的若くて、歯もしっかり残っているような方の治療を担当することが多かったのですが、病院歯科で担当する患者さんは、70代から100歳を超えるような高齢の方がメインになりました。患者さんのほとんどが歯を失っていて、入れ歯を必要としているような人々だったんです。
何が大変だったかというと、私はそれまで入れ歯を作ったことがほとんどなかったんです。でも、病院歯科に来たからには、どんどん入れ歯を作らないといけない。最初は全然うまく作ることができなくて、患者さんからお叱りを受けたこともありましたね。このままではいけないと思って、義歯の勉強を一生懸命やっていきました。
— 先生にもそのような時代があったのですね。そこから訪問診療の分野に進まれることになったきっかけは何だったのでしょうか。
その病院が、ケアミックス型の病院だったんです。ケアミックス型というのは、急性期、慢性期、回復期と一貫して患者さんを診ることができる形態でして、一人の患者さんに長く関わることが多かったんですね。患者さんが退院されたら、今度は外来で診療し、病院に来られなくなった場合は訪問診療で対応するといったことをしていました。
そのように患者さんと長くお付き合いしていく中で、歯の形をきれいに治すだけではなく、患者さんのためにも、しっかりと噛んで食べることのできる治療を目指したいと思うようになったんです。そこで外来をメインにしながらではありますが、訪問診療を少しずつ始めていきました。
— 現在の医院に移られた理由などを聞かせてもらえますか。
病院歯科を経験する中で、全身疾患を抱える患者さんに寄り添った治療をしたいと思うようになったんです。前の病院では外来の傍ら、訪問診療を少しやらせてもらっているという感じだったので、もう少し訪問診療に注力したいと思ったのがきっかけですね。
— 現在はどのような感じで訪問診療を実施されているのですか。
普段は、施設や病院、ケアマネージャーさんなどから依頼を受けて訪問診療を行っています。規模としては、1日に最大12台の車で各所を訪問することもあるので、規模としては大きい方なのではないかと思いますね。
診療する患者さんは様々で、口腔ケアや摂食嚥下に障害がある方などの治療をしていますが、私が特に力を入れているのは、義歯の分野です。通常よりも難しい症例の患者さんの入れ歯を、私が担当することが多いですね。組織の規模が大きいので分業して、自分の得意分野を活かすことができているのではないかと思っています。
— 先生は、難しい症例を担当することが多いのですか。
そうですね。もちろん、他の歯科医師も様々な症例に対応できるのですが、義歯は私の注力している専門分野でもあるので、難症例については引き受けることが多いです。私の他には、摂食嚥下の症例を得意としている先生もいますね。
地域からも「あそこなら難しい症例でも診てもらえる」と認識していただけているみたいで、ケアマネさんから難症例の患者さんの紹介を受けることも多いです。
— そうなってくると、人手も結構必要なのではないですか。
はい。歯科医師も衛生士も、もっと必要かなとは思っています。最近は、若手の先生も訪問診療に興味を持ってくれる方が増えてきているので、ぜひ力を貸してほしいですね。

普及啓発活動にも尽力する日々
— 講演会などの外部活動も積極的に行われていますが、具体的な活動内容を教えていただけますか。
現在は、顎咬合学会、日本有床義歯学会、摂食嚥下リハビリテーション学会、日本老年歯科医学会に所属して勉強し、講演などを行っています。講演の内容としては、高齢者診療全般であったり、口腔機能や義歯のことに関して行うことが多いです。講演活動はほぼ毎週のようにあって、ありがたいことに忙しい毎日を送っています。

— 書籍も執筆されていますしね。
そうですね。『スズキヒロキの食べるにこだわる高齢者義歯読本』といった単著もあれば、『患者さんにしっかり説明できる口腔機能低下症読本』など、私が監修に携わったものもあります。今後も出版を予定しているものがあり、書籍の執筆や歯科雑誌への寄稿も精力的に行っているところです。

— 日々の診療がありながら、講演や執筆などをするのは大変ではないですか。
大変ではありますが、こうやってお声がけをいただけるのは嬉しいことですしね。何より、自分の活動が他の歯科医療者の役に立つのであれば、ずっと続けていきたいです。できる限り多くのことを伝えていけるように、私自身も日々の診療で知見を深めていかなければいけないと思っています。
— 後進の育成にも力を入れているということでしょうか。
そうですね。現在、訪問や外来の高齢者診療の一環として法人内の4つの医院に週に1度は行くシステムになっていて、歯科医師やスタッフの教育活動や、患者さんを一緒に診るといったことも行っています。また、定期的な院内勉強会や合同勉強会も行うことで全体のレベルを高めるようにしています。
あとは、福岡高齢者医療研究会『S.O.N.YーMED』というスタディーグループを作っていまして、そちらでの勉強会や相談会の実施を通じて学びを深めることにも取り組んでいるところです。

人生100年時代における歯科医療の役割
— 今後の歯科医療について、課題だと感じられていることは何かありますか。
一つは、歯科医療全般において、長い目で見た治療をしていく必要があるのではないかというところですね。例えば、若い頃にしたインプラントの歯が欠けてしまって、修理が必要になった場合、高齢の方にはその費用が払えないといった問題があります。結果的に修理ができないまま、放置せざるをえないといった方もいらっしゃるんです。
もう一つの課題としては、訪問における歯科医療レベルの底上げですね。実際に訪問診療を行っている中で、これまで適切な治療がされていないな、と感じるような患者さんを見かけることがあるんです。自分もできる限り様々な活動を通じて、歯科医療者の教育に携わっていけたらと思います。
— 先生が目指している歯科医療とは、どのようなものでしょうか。
人生100年時代ですので、口の健康を永く保つためにも、切れ目のないシームレスな歯科医療が必要だと感じています。
ずっと通院できていた患者さんも、高齢になってくると、ご自身で歯科に通うことが難しくなってきますよね。そこで、通院できない期間がしばらく続いてしまう。その後、介護が必要になってケアマネさんなどが介入したときに、歯の状態がとても悪くなってしまっているといったことがあります。もう少し早い段階で介入ができると、その後の患者さんの生活がグッと快適になると思いますね。

— 今後の展望について聞かせていただけますか。
現在、法人として新たに進めている動きとしては、「安心外来」というものを新たに設置する予定です。こちらは歯科恐怖症であったり、疾患や障害などがある関係で、歯科にかかりたくてもかかれていない方々を対象とした部門になります。
普段は訪問診療を利用されている方が、抜歯など、外来で対応した方が良さそうな治療を、安心して受けられるような場所を整備していきたいと考えています。
— 最後に地域住民の方へメッセージをお願いします。
私たち歯科医療者の役割は、皆さんが人生の最後の時期まで、食べ物をしっかり噛んで、おいしく食べられるようにサポートしていくことだと思っています。疾患がある方でも、できる限りお口の悩みを解決できるよう尽力しますので、お困りの方、歯の健康に興味を持たれた方は、ぜひお気軽にご連絡いただけると嬉しいです。
医療法人 福和会

〒813-0044
福岡市東区千早4丁目27-1
TEL:092-663-1118 / FAX:092-672-6480
福岡市東区千早4丁目27-1
TEL:092-663-1118 / FAX:092-672-6480
鈴木宏樹部長のプロフィール
経歴:
2001年 福岡歯科大学卒業
2010年 医療法人井上会篠栗病院歯科医長
2023年 医療法人福和会高齢者診療部部長
2001年 福岡歯科大学卒業
2010年 医療法人井上会篠栗病院歯科医長
2023年 医療法人福和会高齢者診療部部長
資格・役職等:
日本顎咬合学会指導医
日本有床義歯学会指導医
日本老年歯科医学会認定医
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
日本口腔ケア学会評議員
日本義歯ケア学会認定義歯ケアマイスター
日本顎咬合学会指導医
日本有床義歯学会指導医
日本老年歯科医学会認定医
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
日本口腔ケア学会評議員
日本義歯ケア学会認定義歯ケアマイスター
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