【言語聴覚士執筆】100歳以上の食支援とは?言語聴覚士が伝える超高齢期の嚥下と“食べ続ける”ための支援 最終更新日:2026/01/05

100歳を超えても「口から食べたい」という思いは、多くの方が持ち続けています。しかし超高齢期の嚥下は、一般的な加齢変化として一括りにできるものではありません。体力、疲労、集中力、生活リズムなどが複雑に影響し合い、これまでの評価軸だけでは見落とされやすい“別のフェーズ”に入っているとも言えます。
こうした超高齢期の食支援において重要なのが、言語聴覚士(ST)の視点です。STは嚥下機能だけでなく、「どのように食べれば続けられるのか」「その人らしさをどう守るか」といった生活全体を踏まえた支援を行います。100歳以上の嚥下の特徴、食支援で大切にすべき考え方、そして実際の事例を通して、超高齢期における食支援のあり方を解説します。
こうした超高齢期の食支援において重要なのが、言語聴覚士(ST)の視点です。STは嚥下機能だけでなく、「どのように食べれば続けられるのか」「その人らしさをどう守るか」といった生活全体を踏まえた支援を行います。100歳以上の嚥下の特徴、食支援で大切にすべき考え方、そして実際の事例を通して、超高齢期における食支援のあり方を解説します。
はじめに:言語聴覚士が語る「100歳以上」の食支援が必要な理由
「人生100年時代」という言葉は、すでに私たちの社会に深く浸透し、高齢期の生き方や支援の在り方を考える際の前提となっています。しかし、在宅医療・介護の現場に立つ言語聴覚士(ST)として日々利用者と向き合う中で強く実感するのは、“100歳”という年齢は、これまで私たちが経験してきた高齢期の延長線上では決して語れない段階に入っているという現実です。
一般的に80代や90代では、加齢や疾患による機能低下があったとしても、「適切なリハビリテーション介入によって機能回復を目指す」「残存機能を活かしながら、今ある能力を維持・改善する」といった支援の枠組みが、まだ十分に成立するケースが多く見られます。嚥下機能においても、評価をもとに訓練内容や食形態を調整することで、食事量の増加や安全性の向上が期待できる場面は少なくありません。
一方で、100歳を超える超高齢期に入ると、その前提は大きく揺らぎます。身体機能、認知機能、嚥下機能はいずれも、単なる「低下」ではなく、これまでとは質の異なる変化を示すことが多くなります。筋力や可動域の問題だけでなく、疲労の蓄積が極端に早い、回復に時間がかかる、日内変動が大きいといった特徴が顕著になり、「昨日できたことが今日はできない」という状況も決して珍しくありません。
こうした状態に対して、80代・90代と同じ視点で「訓練量を増やす」「もう一段階レベルを上げる」といった介入を行うことは、必ずしも本人の利益につながらないどころか、かえって負担やリスクを高めてしまう可能性があります。超高齢期では、“できるようにする支援”と“無理をさせない支援”の境界線が極めて曖昧になり、その見極めが支援の質を大きく左右します。
言語聴覚士として求められるのは、「回復を目指す」という従来のリハビリテーション観にとらわれ過ぎず、その人の年齢、生活背景、残された時間の質を含めて、支援の目的そのものを再定義する視点です。100歳を超えた方にとっての「良い食事」「良い支援」とは何か。その問いに真正面から向き合うことが、これからの超高齢社会における食支援の出発点になると感じています。
100歳以上の嚥下は「老化」ではなく別フェーズ:言語聴覚士が見る特徴とリスク
嚥下機能は一般に、加齢とともに筋力や感覚が徐々に低下していくものと理解されています。しかし、100歳以上の超高齢期では、その変化を単純な「加齢現象」として捉えることは難しく、臨床の現場ではこれまでの高齢期とは明らかに異なる様相が多く見られます。
具体的には、
・嚥下反射の惹起が遅れる
・喉頭挙上の可動域や挙上速度が著しく低下する
・呼吸と嚥下の協調が不安定になり、タイミングがずれる
・わずかな活動でも疲労が急速に蓄積する
・「一口分」は安全に嚥下できても、「食事として一定量を継続する」ことが難しい
といった特徴が挙げられます。
これらの所見は、訓練の不足や意欲の低下と誤解されやすいものの、実際には本人の努力では補いきれない身体的背景が存在しています。
その背景にある重要な概念が、「生理的予備能」です。生理的予備能とは、身体が外的・内的なストレスに対して対応・回復するために持っている余力のことを指します。若年者や比較的元気な高齢者であれば、多少の負荷がかかっても呼吸・循環・筋活動を調整しながら機能を維持することができます。しかし、100歳以上の超高齢期では、この予備力がほぼ使い切られた状態に近づいています。
嚥下は、口腔・咽頭・喉頭・呼吸といった複数の機能が精密に連動する高度な動作です。生理的予備能が低下した状態では、この複雑な協調運動を「何度も」「長時間」安定して続けること自体が大きな負荷となります。その結果、1回目や2回目の嚥下は問題なく行えても、食事が進むにつれて嚥下反射が遅れたり、呼吸とのタイミングが崩れたりする状況が生じやすくなります。
このような状態を十分に理解しないまま、「もう少し訓練を増やせば改善するのではないか」「工夫次第で以前のように食べられるはずだ」と支援を進めてしまうと、本人に過剰な努力を求めることになり、結果として誤嚥リスクや食事への拒否感を高めてしまう恐れがあります。さらに、介護者や家族にとっても、「頑張らせれば食べられるはず」という期待と現実のギャップが、精神的な負担につながることがあります。
超高齢期の嚥下支援において重要なのは、「できない理由」を本人の能力や意欲に求めるのではなく、生理的予備力という不可逆的な変化として捉える視点です。その視点を持つことで、支援の目標は「機能を引き上げること」から、「限られた予備力を消耗させ過ぎず、安全で心地よい食事体験を支えること」へと自然にシフトしていきます。
超高齢期(100歳以上)の食支援で最も重要な視点:安全性・尊厳・満足感のバランス
100歳以上の食支援において、言語聴覚士(ST)がまず意識すべきなのは、「機能を上げる」ことよりも、「安全性」「尊厳」「満足感」のバランスです。
・誤嚥性肺炎を起こさないこと
・“食べられない”経験を積み重ねないこと
・食事そのものが苦痛にならないこと
超高齢期では、「どこまで食べられるか」よりも、「どのように食べる時間を過ごせるか」がQOLを大きく左右します。量を増やす、形態を上げることが必ずしも正解ではなく、一口の重み、一回の食事の意味を丁寧に評価する視点が求められます。
言語聴覚士(ST)だからこそできる“食べ方”の食支援:一口量・ペース・姿勢・疲労への調整
言語聴覚士の専門性は、単なる嚥下評価や食形態調整にとどまりません。
・一口量の設定
・食事ペースの調整
・姿勢(角度・支持点)の微調整
・疲労を考慮した時間配分
・食事環境(音・会話・視線)の配慮
これらは、医学的数値では測れないものの、超高齢者の「食べ続ける力」を左右する重要な要素です。特に100歳以上では、「最後まで食べ切る」よりも「心地よく終えられる」ことが、結果として安全性を高めるケースが少なくありません。
事例:100歳超の食支援で見えた「食べられる」と「続けられる」の違い(言語聴覚士の介入ポイント)
在宅で生活されていた101歳のAさんは、誤嚥性肺炎の既往もなく、「年齢の割によく食べられている」と評価されていました。初回訪問時も、ゼリーやペースト食であれば一口目の嚥下は比較的スムーズで、明らかなムセや呼吸苦は認められませんでした。
しかし食事の様子を継続して観察すると、食事開始から約10分を境に嚥下の質が低下していくことが分かりました。嚥下反射の惹起が遅れ、喉頭挙上は次第に小さくなり、嚥下後には浅く速い呼吸が目立つようになっていました。
Aさんご本人は「まだ食べられる」とおっしゃっていましたが、表情や姿勢からは明らかな疲労が読み取れ、ご家族も「途中から急に飲み込みづらそうになる」と不安を感じておられました。
このケースの特徴は、一口ごとの嚥下機能には大きな問題がない一方で、食事として継続する力が著しく低下していた点です。これは訓練不足ではなく、100歳を超えた超高齢期における生理的予備力の低下が大きく影響していると考えられました。
そこで言語聴覚士(ST)としては、「もう少し食べさせる」ことを目標とせず、
・一口量を小さくする
・高カロリーゼリーなど、少量でエネルギーを補える食品を併用する
・食事時間を短めに設定し、“良い状態のうちに終える”
・疲労が強い日は無理に経口摂取を続けない
といった調整を中心とした支援へ切り替えました。
結果として摂取量は減少しましたが、食事中の表情は穏やかになり、ムセや呼吸の乱れも軽減しました。ご家族からも、「食事の時間が怖くなくなった」との声が聞かれました。
この事例は、超高齢期の食支援において、「どこまで食べられるか」ではなく、「どの状態で終えられるか」を見極めることが、安全性と満足感の両立につながることを示しています。
おわりに:100歳を超えても“その人らしく食べる”ために―言語聴覚士が支える食支援
「人生100年時代」を越え、私たちは今、“人生100年超時代”の医療とケアに直面しています。そこでは、従来のリハビリテーションの成功体験が通用しない場面も増えていくでしょう。
だからこそ言語聴覚士は、評価者であり、調整役であり、そして「食べることの意味」を翻訳する専門職として、超高齢期の食支援に関わり続ける必要があります。
100歳を超えても、「その人らしく食べる」ことを支えるために。
言語聴覚士(ST)の視点は、これからの在宅医療に欠かせないものになると強く感じています。
100歳以上の食支援と嚥下ケアに関するよくある質問(言語聴覚士監修)
Q1. 100歳以上になると嚥下機能は必ず低下するのでしょうか?
A. 一律に「必ず低下する」とは言えません。超高齢期では、嚥下そのものの筋力低下だけでなく、覚醒(眠気)・集中力・疲労の出方・体力の波が嚥下安全性に直結します。
たとえば同じ方でも、午前は食べられるのに夕方はむせやすい、前半は順調でも後半で急にペースが落ちるといった“日内変動”が起こりやすく、評価は「能力」だけでなく「コンディション込み」で見る必要があります。
また、義歯の適合、唾液量、姿勢保持、呼吸状態、服薬(眠気・口渇)、便秘や脱水など、嚥下以外の要因でも状態が変わるため、「嚥下機能=年齢で決まる」とは言い切れません。
たとえば同じ方でも、午前は食べられるのに夕方はむせやすい、前半は順調でも後半で急にペースが落ちるといった“日内変動”が起こりやすく、評価は「能力」だけでなく「コンディション込み」で見る必要があります。
また、義歯の適合、唾液量、姿勢保持、呼吸状態、服薬(眠気・口渇)、便秘や脱水など、嚥下以外の要因でも状態が変わるため、「嚥下機能=年齢で決まる」とは言い切れません。
Q2. 超高齢期の食支援で最も大切なポイントは何ですか?
A. 超高齢期の食支援の核は、誤嚥予防だけでなく 「安全に、気持ちよく、続けられる設計」 です。重要なのは次の3つのバランスです。
・安全性:むせ・湿声(痰が絡む声)・呼吸の乱れ・微熱・痰増加など、誤嚥・誤嚥性肺炎のサインを見逃さない
・継続性:一口量、休憩、食事時間、食形態が“体力の範囲内”に収まっているか
・満足感(尊厳):本人の「食べたい物・食べ方」を可能な範囲で守る(全部禁止にしない)
実務的には、「何を食べるか」より先に「どう食べるか(食べ方設計)」を整えると安定しやすいです。具体的には、食事の時間帯を“元気な時間”に寄せる、食事時間を短くしすぎず長くしすぎず調整する、疲労が出る前に休憩を入れる、などが効果的です。
・安全性:むせ・湿声(痰が絡む声)・呼吸の乱れ・微熱・痰増加など、誤嚥・誤嚥性肺炎のサインを見逃さない
・継続性:一口量、休憩、食事時間、食形態が“体力の範囲内”に収まっているか
・満足感(尊厳):本人の「食べたい物・食べ方」を可能な範囲で守る(全部禁止にしない)
実務的には、「何を食べるか」より先に「どう食べるか(食べ方設計)」を整えると安定しやすいです。具体的には、食事の時間帯を“元気な時間”に寄せる、食事時間を短くしすぎず長くしすぎず調整する、疲労が出る前に休憩を入れる、などが効果的です。
Q3. 言語聴覚士(ST)は100歳以上の食支援でどのような役割を担いますか?
A. STの強みは、嚥下評価に加えて、「食べ方」を具体的に設計し、現場で再現できる形に落とし込むことです。たとえば以下を組み合わせて調整します。
・一口量・ペース:スプーン量、口に入れる回数、間の取り方
・姿勢:骨盤の座り、顎の位置、頸部の角度、テーブル高さ
・食形態の微調整:刻みより“まとまり”優先、トロミの濃さ、温度、粘性
・介助方法:声かけ、タイミング、嚥下後の確認、二重嚥下の促し
・疲労管理:途中でゼリー・水分に切り替える、食事を分割する(少量頻回)
さらに、家族・介護職向けに 「観察ポイント(むせ以外の兆候)」 と 「対応手順」 を共有し、日常での安全性と継続性を底上げします。
・一口量・ペース:スプーン量、口に入れる回数、間の取り方
・姿勢:骨盤の座り、顎の位置、頸部の角度、テーブル高さ
・食形態の微調整:刻みより“まとまり”優先、トロミの濃さ、温度、粘性
・介助方法:声かけ、タイミング、嚥下後の確認、二重嚥下の促し
・疲労管理:途中でゼリー・水分に切り替える、食事を分割する(少量頻回)
さらに、家族・介護職向けに 「観察ポイント(むせ以外の兆候)」 と 「対応手順」 を共有し、日常での安全性と継続性を底上げします。
Q4. 食べられていても支援が必要なケースはありますか?
A. はい、むしろ超高齢期では「食べられているように見える」時ほど注意が必要なことがあります。典型は次のパターンです。
・むせない誤嚥(サイレントアスピレーション):むせがないのに痰が増える、湿った声、微熱が続く、食後に呼吸が苦しそう
・疲労感:最初は問題ないが、疲労で嚥下が浅くなり、終盤にむせ・残留が増える
・食事量低下の前兆:食事に時間がかかる、口の中にためる、飲み込み回数が増える、食後の眠気が強い
この場合、結論として「禁止」ではなく、崩れる前に支えるのがポイントです。具体的には、一口量を減らす/休憩を入れる/食事時間帯を変更する/形態を一段だけ調整する(全面変更ではない)などで「続けられる」状態を作れます。
・むせない誤嚥(サイレントアスピレーション):むせがないのに痰が増える、湿った声、微熱が続く、食後に呼吸が苦しそう
・疲労感:最初は問題ないが、疲労で嚥下が浅くなり、終盤にむせ・残留が増える
・食事量低下の前兆:食事に時間がかかる、口の中にためる、飲み込み回数が増える、食後の眠気が強い
この場合、結論として「禁止」ではなく、崩れる前に支えるのがポイントです。具体的には、一口量を減らす/休憩を入れる/食事時間帯を変更する/形態を一段だけ調整する(全面変更ではない)などで「続けられる」状態を作れます。
Q5. 100歳以上の食支援は家族や介護職とどのように連携しますか?
A. 超高齢期の食支援は、言語聴覚士(ST)の助言が日常で再現されて初めて効果が出るため、連携をしっかりと行い、情報を共有することが大切です。
具体的には、
・観察項目の統一:むせ以外(湿声、痰、食後の疲労、呼吸、微熱、食事時間)のチェック
・判断基準の共有:「今日は通常」「今日は一口量を半分」「今日は途中で中止」などルールを作成する
・手順の周知:介助方法を分かりやすいポスターを作成するなど介護者が周知できるように工夫する
・多職種連携:歯科(義歯・口腔ケア)、看護(呼吸・痰)、栄養(補食・栄養密度)、主治医(薬剤調整)と課題を分解して対応
家族には「頑張らせる」方向ではなく、負担が増えない食支援(準備の手間・介助時間・精神的負担)まで含めて調整するのが現実的です。
具体的には、
・観察項目の統一:むせ以外(湿声、痰、食後の疲労、呼吸、微熱、食事時間)のチェック
・判断基準の共有:「今日は通常」「今日は一口量を半分」「今日は途中で中止」などルールを作成する
・手順の周知:介助方法を分かりやすいポスターを作成するなど介護者が周知できるように工夫する
・多職種連携:歯科(義歯・口腔ケア)、看護(呼吸・痰)、栄養(補食・栄養密度)、主治医(薬剤調整)と課題を分解して対応
家族には「頑張らせる」方向ではなく、負担が増えない食支援(準備の手間・介助時間・精神的負担)まで含めて調整するのが現実的です。
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この記事を執筆した言語聴覚士

後藤茉利奈(ごとうまりな)
言語聴覚士(ST)。北里大学医療衛生学部言語聴覚療法学専攻卒業後、回復期・慢性期病院および介護老人保健施設にて臨床経験を積む。高齢者の嚥下障害やコミュニケーション支援、食事場面での評価・介入に従事し、多職種連携の重要性を現場で学ぶ。
出産・育児をきっかけに小児分野へ転向し、児童発達支援の現場で発達支援・家族支援を経験。現在は訪問看護リハビリステーションさんぽに所属し、在宅医療・訪問リハビリの分野で活動している。
小児から高齢者まで幅広いライフステージに関わってきた経験を活かし、「その人の生活に根ざした支援」を大切にしている。医療的視点だけでなく、家庭環境や介護負担にも配慮した、現実的で継続可能な支援を得意とする。
小児から高齢者まで幅広いライフステージに関わってきた経験を活かし、「その人の生活に根ざした支援」を大切にしている。医療的視点だけでなく、家庭環境や介護負担にも配慮した、現実的で継続可能な支援を得意とする。
所属:訪問看護リハビリステーションさんぽ
http://www.sunshow-wellbeing.com/
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