かわかみ内科外科クリニック 川上悠介院長(訪問診療:墨田区・江東区・江戸川区) 最終更新日:2025/07/15

注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第23回目は墨田区で「かわかみ内科外科クリニック」にて訪問診療を行っている川上悠介院長です。これまでの歩み、現在地、そしてこれからの地域医療に向ける思いを熱く語っていただきました。
移植・消化器外科医を目指したきっかけ
— 医師を目指したきっかけはなんですか?
両親が医師だったこともあり、医師という職業にはもともと親しみを持っていました。しかし、医師になろうと強く意識したのは、中学3年生のときに祖母が乳がんで亡くなった経験が大きかったと思います。
「何もしてあげられなかった」」「もし自分に知識と技術があれば何かできたかもしれない」ーーそんな悔しさが「がんを根治できる医師になりたい」という明確な目標へと変わっていきました。
病巣を直接切除し、病気の根源に立ち向かう外科医の姿に憧れ、長崎大学医学部医学科へ進学しました。

— 大学に進学されてからはどのような進路を考えていましたか?
私は「病気の根治を目指して治療を進めたい」と考えていたので、手術を通じて直接的に治療に関わることができる外科に魅力を感じていました。長崎大学の外科は、呼吸器外科と移植・消化器外科の2つに大きく分かれていたのですが、特に移植・消化器外科の先生が非常に熱心な方でした。
外科医としての医療に情熱を持っているだけでなく、教育にも力を注いでおられ、「この診療科なら自分も成長できる」と感じたのです。当初は外科のどちらの診療科に進むか迷っていましたが、最終的には先生の情熱に惹かれ、移植・消化器外科を選ぶことにしました。
長崎から東京へ。在宅医療との出会い
— 就職先の長崎大学附属病院ではどのような疾患を主に診ていましたか?
主に胃がんや大腸がんといった消化器疾患の手術を担当していましたが、肝臓移植の後方支援に携わることもありました。一つ一つの手術が、患者様やご家族にとって人生を左右する大きな転機であり、命の重さや責任の大きさを痛感しながら、移植・消化器外科の医師として多くの学びと経験を積むことができました。
長崎大学附属病院に10年ほど勤めた後、結婚を機に妻の地元である東京へ引っ越し、転居後は東京の墨田中央病院に勤務することになりました。

— 在宅医療に出会ったのは東京に引っ越してからというわけですね。
はい、在宅医療に出会ったのは、墨田中央病院の研修がきっかけでした。診察を通じて在宅医療の現場で患者様と関わる中で、患者様が「自宅」という安心できる環境で生活していることを知り、これまで見落としていた生活習慣や家族背景といった側面にも目を向けるようになりました。
在宅医療とは、単に病気を診るのではなく、人生そのものに寄り添う医療だと気付き、医師である前に一人の人間として患者様と関わることの大切さも実践的に学ぶことができました。そして、病院とはまた違った形で患者様に寄り添いながら治療を進めていける点に、大きな魅力を感じたのです。
外科は非常にジェネラルな分野であり、患者様の全身状態を幅広く診ながら、総合的な判断を下す力が求められます。そのため、在宅医療の現場においても、「在宅でできること」「病院でなければできないこと」を的確に見極め、適切な治療方針を立てられるという点は、外科医としての大きな強みだと感じています。

— クリニックを開業しようと思ったのはいつごろですか?
墨田中央病院で4年ほど働く中で、墨田区という地域の特性や、どのような患者様が多いのかを学ばせてもらいました。勤務中は、消化器外科だけでなく整形外科の手術や内科診療にも携わる機会があり、2年、3年と経験を重ねるうちに、「地域の役に立つにはどうすればよいか」と考えるようになったんです。
また、並行して在宅医療についても学んでいたことから、「外科医として、地域に根ざしながら患者様一人ひとりに貢献できるのではないか」というビジョンが明確になっていきました。
そうした想いが形となり、令和3年(2021年)に外来と訪問診療の両方を担うクリニックとして「かわかみ内科外科クリニック」を開業しました。
かわかみ内科外科クリニックを設立
— 設立当初はどのような体制でスタートしたのですか?
クリニック設立時は、看護師1名、受付1名、相談員1名の計4名という体制でスタートし、クリニックの運営に手一杯だったので、外来と訪問診療の両方を並行して行うのは非常に大変でした。
また、訪問診療では、ケアマネジャーや地域包括支援センター、市役所の方々など、多くの関係機関との信頼関係が何よりも大切となるため、地域の医療・福祉ネットワークの一員としてしっかり関係を築くことを意識して取り組んでいました。

— かわかみ内科外科クリニックの理念を教えてください
当院の理念は「地域貢献」であり、適切な治療によって患者様の早期回復を目指すだけでなく、その人らしい生き方を支える医療の提供を大切にしているため、地域に根ざし、生活に寄り添う医療をこれからも実現していきたいと考えています。
また、地域のかかりつけ医として、子どもから高齢の方まで、幅広い年齢層の患者様が安心して通えるようなクリニックづくりにも力を入れています。患者様が気軽に相談できる環境を整えることで、日常的な健康管理や早期の治療介入につなげたいですね。
— 訪問診療と外来の患者様の割合はどのくらいですか?
おおよその割合としては半分ずつで、外来と訪問診療のどちらかに偏っているという印象はありません。外来では、生活習慣病や感染症などの内科疾患をはじめ、皮膚にできものができたなどの外科的な症状まで、幅広い診療を行っています。
地域の皆さまが、体調不良やちょっとした不安でも相談できる「身近な医師」であることを大切にしています。
一方、訪問診療は非常勤の医師1名とともに対応していますが、大半の患者様は私自身が直接診察を行っており、患者様の状態の変化にすぐ対応できるよう、診療から治療までの導線をスムーズに整えているのが特徴です。
また、当院での対応が難しいと判断した場合には、速やかに地域の専門医療機関に紹介し、必要な治療が受けられるようサポートしています。
— 訪問診療の対応エリアはどのくらいですか?
訪問診療は、墨田区を中心に半径10km圏内を目安に対応しています。
現在は、慢性疾患や認知症の方をはじめ、自力での通院が難しい方、終末期の患者様、在宅で酸素療法を受けている方や点滴が必要な方など、幅広い症状や状態の患者様を受け入れています。
また、私自身が「認知症サポート医」の資格を有しているため、ご自宅で認知症のご家族を介護されているご家庭に対して、医療面からのサポートができる点は、当院の大きな強みの一つです。

墨田区医師会の理事長としての活動
— 令和5年から墨田区医師会の理事を務められていますが、その経緯を教えてください。
墨田区で訪問診療を行う中で、地域の介護や福祉に関する課題と日々向き合う中、医師会の会長から「地域における介護・福祉の橋渡し役として、理事を任せたい」というお話をいただいたことがきっかけです。
理事としての主な活動内容は、役所や地域包括支援センターとの連携会議への出席、区役所での介護認定審査への参加、そして区民向けフォーラムや講演会への登壇など、多岐にわたります。
介護や福祉の分野は非常に幅広く、個別の課題も多様であるため、地域の実情を整理しながら、訪問診療の視点を活かした啓発活動にも力を入れています。
— 具体的にどのような啓発活動をしていますか?
たとえば、患者様に対してイベントの情報をお伝えしたり、ケアマネジャーさんと連携しながら、墨田区で提供している制度や支援内容を紹介したりしています。また、具体的な取り組みの一つとして、墨田区では在宅療養中の患者様の体調が急変した際に、病院が所有する「病院救急車」を使って救急搬送を行う仕組みがあります。
こうした情報は医師会に関わっているからこそ得られるものであり、情報を必要としている方々に正しく届けることも、私の役割の一つだと考えています。
今後は、墨田区全体で介護・医療体制をより一層強化していくために、居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションとの連携体制の構築にも力を入れていきたいと考えています。
現在、当院でも、医療と介護をつなげる支援体制づくりに取り組んでおり、まずはケアマネジャーの採用、そして訪問看護ステーションの設立を構想しています。
また、地域全体の医療や介護・福祉の質向上を目指し、医療・介護福祉が必要な方に適切なケアが届く体制を整え、住み慣れた地域で安心して暮らせる環境づくりを進めていくことが私の使命だと思っています。これからも、墨田区民の皆さまに役に立てるような取り組みを実現していきたいです。
墨田区の在宅医療を支える日々
— 実際に墨田区で在宅療養されている方の環境や現状について、どのように感じていますか?
墨田区は市役所や介護事業所との連携体制がしっかりと整っており、在宅医療においても非常にやりがいを感じられる地域です。医師としてもスムーズに介入しやすい環境が整っている印象があります。
医師会の活動を通じて、医療機関同士や在宅医療に取り組む医師とのネットワークも形成されており、情報交換や連携が活発に行われています。
今後、医師会をはじめとした地域の医療従事者の中で、より広く情報を発信できる人材が増えていけば、地域医療はさらに良い方向に進んでいくのではないかと考えています。
また、東京都全体としても「病診連携(病院と診療所が連携して、一貫した医療を提供する取り組み)」に注力しており、墨田区以外でも在宅医療に力を入れている地域は多く見られます。

— 在宅医療において、現在感じている課題や悩みがあれば教えてください。
在宅医療を担う小規模クリニックでは、医師が1人で24時間対応を求められて疲弊してしまうという課題があり、東京都が進める在宅医療事業の中でも共通の問題として指摘されています。
こうした課題を解消するため、現在、墨田区では地域内の医師同士がグループを形成し、助け合いながら当番制で対応できるような体制づくりを進めています。病院と診療所がそれぞれの資源や特性を活かしながら連携し、「地域全体で患者様を支える」という大きな構想も具体化しつつあります。
医師の負担軽減だけでなく、患者様やご家族にとっても、より安心して在宅療養を続けられるような医療機関の連携体制の整備が、今後の重要な課題だと感じています。
— 在宅医療の認知拡大や啓発について、課題に感じていることはありますか?
はい、在宅医療はまだまだ一般的に認知されているとは言えず、特に病院勤務の医師や、在宅医療に携わる機会が少ない医師にとっては、実態が見えにくい世界だと感じています。
たとえば、入院患者様のご自宅を実際に訪れた経験がない医師が、主な介護者の存在や、通院が難しい生活環境といった日常のリアルな状況を理解するのは難しいでしょう。
だからこそ、病院勤務の医師が在宅医療について正しく理解し、地域の開業医や訪問診療医と連携できるようになることが、地域全体の医療体制の質を向上させる大きな一歩になると考えています。
— 目指している在宅医療について教えてください。
在宅医療は、診療所だけで完結するものではなく、ケアマネジャー、訪問看護師、ヘルパーなど、多職種との連携があって初めて成り立ちます。今後は、医療・介護・福祉の専門職が力を合わせ、地域全体で患者様やご家族を支えられるような仕組みづくりを目指していきたいです。
— 地域住民の方へメッセージをお願いします。
墨田区の医療、介護、福祉をさらに充実させ、必要な方に必要な支援が届くような体制を整えていきたいと思っています。また、医師会としても、地域の皆さまにとってより良い医療が提供できるよう、引き続き尽力してまいります。
当院では、外来診療に加えて、訪問診療や介護に関するご相談にも対応しておりますので、どんな些細なことでもお気軽にご相談いただければと思います。

かわかみ内科外科クリニック

川上悠介院長のプロフィール
経歴:
2009年 長崎大学医学部医学科 卒業
2011年 長崎大学附属病院 移植・消化器外科 入局~至現在
2014年 長崎大学・大学院 医歯薬総合研究科 社会人大学院 入学
2017年 墨田中央病院 消化器外科医 勤務
2019年 長崎大学・大学院 医歯薬総合研究科 社会人大学院 卒業、医学博士
2021年 かわかみ内科外科クリニック 開業
2023年 公益社団法人 墨田区医師会 理事 就任
2009年 長崎大学医学部医学科 卒業
2011年 長崎大学附属病院 移植・消化器外科 入局~至現在
2014年 長崎大学・大学院 医歯薬総合研究科 社会人大学院 入学
2017年 墨田中央病院 消化器外科医 勤務
2019年 長崎大学・大学院 医歯薬総合研究科 社会人大学院 卒業、医学博士
2021年 かわかみ内科外科クリニック 開業
2023年 公益社団法人 墨田区医師会 理事 就任
資格:
外科専門医(Board Certified Surgeon)
消化器病専門医(Board Certified Gastroenterologist)
難病指定医
身体障害者福祉法(第15条)指定医 (ぼうこう又は直腸機能障害の診断)
緩和ケア研修会 修了
PEG・在宅医療学会 嚥下機能評価研修会 修了
内痔核治療法研究会 四段階注射法講習会 修了
厚生労働省指定 オンライン診療研修 修了
厚生労働省指定 緊急避妊薬処方にかかるオンライン診療研修 修了
外科専門医(Board Certified Surgeon)
消化器病専門医(Board Certified Gastroenterologist)
難病指定医
身体障害者福祉法(第15条)指定医 (ぼうこう又は直腸機能障害の診断)
緩和ケア研修会 修了
PEG・在宅医療学会 嚥下機能評価研修会 修了
内痔核治療法研究会 四段階注射法講習会 修了
厚生労働省指定 オンライン診療研修 修了
厚生労働省指定 緊急避妊薬処方にかかるオンライン診療研修 修了
学会:
日本外科学会
日本消化器病学会
日本ペインクリニック学会
日本外科学会
日本消化器病学会
日本ペインクリニック学会
関連リンク: