60代から始まる機能低下と嚥下障害 ～オーラルフレイル予防のために今できること＝管理栄養士の視点から 最終更新日：2025/06/01
「食」での幸福感の実現、訪問歯科・口腔ケアの普及啓蒙を目的として、1つのテーマに対して、歯科医、管理栄養士、言語聴覚士がそれぞれの立場にて解説する新たな企画「在宅医療における食の幸福感を目指して」。
5つ目のテーマは「60代から始まる機能低下と嚥下障害 ～オーラルフレイル予防のために今できること＝管理栄養士の視点から」と題して、管理栄養士の立場として、井上美穂管理栄養士（ふれあい歯科ごとう）により解説いただきました。
5つ目のテーマは「60代から始まる機能低下と嚥下障害 ～オーラルフレイル予防のために今できること＝管理栄養士の視点から」と題して、管理栄養士の立場として、井上美穂管理栄養士（ふれあい歯科ごとう）により解説いただきました。
1. はじめに
60代から始まる身体機能の変化とは、筋力・運動機能の低下、消化・吸収機能の変化、 循環器系の変化、 免疫機能の低下、感覚機能の変化、 脳機能・認知機能の変化など様々です。これらの変化は加齢に伴う自然なものですが、適切な対策を講じることで健康を維持することが可能です。
また様々な身体機能の低下からオーラルフレイルという状態に陥ることがあります。オーラルフレイルとは口の機能が衰えることで、全身の健康や生活の質（QOL）に影響を及ぼす状態を指します。具体的な状態としては、固いものが食べにくかったり、残存歯が少なくなったり、口の乾燥から口臭が気になったり、食べこぼしやむせこむことが多くなることです。オーラルフレイルを予防することは、将来的な嚥下機能障害の予防にもつながります。
2. 60代からの身体機能低下と嚥下障害の関係
60代から起こる身体機能低下の中で、下記に述べる機能の低下は嚥下機能低下を引き起こします。
・筋力・運動機能の低下
筋肉量が減少し、転倒リスクが高まったり、関節の柔軟性が低下し、動きが鈍くなります。また骨密度が低下し、骨折しやすくなり、骨粗鬆症のリスクが上がります。嚥下機能障害では、飲み込む際の筋力が低下することで障害を引き起こすことがあります。
・消化・吸収機能の変化
唾液の分泌量が減少し、食べ物を飲み込みにくくなったり、胃腸の蠕動運動が低下し、便秘になりやすくなったり、また消化酵素の分泌が減るため、脂っこい食事が負担になることを指します。嚥下機能障害においては唾液の分泌量が減少することで飲み込みにくさを感じることがあります。
・感覚機能の変化
主に視力の低下、味覚の低下、聴力の低下などが挙げられます。その他にも加齢による感覚の低下は嚥下のタイミングや食べ物の認識に影響を与え、誤嚥のリスクを高めることが知られています。
・食欲の低下
上記の身体機能に起こる影響から、食欲にも変化があると言われています。具体的には、筋力の低下から活動量の低下が起こり、消費エネルギーが下がるため、食事量が低下したり、消化・吸収機能の変化から便秘や消化不良が起こりやすくなり、食欲不振が起こったり、また感覚機能の変化から味覚を感じにくく、食事が美味しくないと感じることがあります。
その他にも、病的な要因で食事制限が必要になったり、薬の副作用で食欲が落ちることがあります。また心理的要因で閉じこもりなどから食事の機会が減ることもあります。これらの原因は直接的には嚥下機能障害には関わらないものの、長期的には低栄養状態を起こすことになり、低栄養状態が引き金となった嚥下機能障害を引き起こすことがあります。
3. 嚥下機能低下に伴う誤嚥性肺炎と栄養状態の関係
誤嚥性肺炎と栄養状態は密接に関わっています。食欲低下による低栄養は筋力の低下を招き、誤嚥性肺炎のリスクを高めます。
・ 低栄養による筋力低下
食事量の低下が続くと、嚥下に関わる筋肉（舌・咽頭・ほほなど）の力が弱まり、食べ物を適切に飲み込めなくなります。 これにより、食べ物や唾液が気管に入りやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが上昇します。
・免疫力の低下
低栄養状態では、免疫機能が低下し、肺炎を引き起こす細菌への抵抗力が弱まります。
・食事摂取量の減少
誤嚥のリスクを恐れて食事量が減ると、さらに栄養不足が進み、嚥下機能が悪化する悪循環に陥ります。 これにより、誤嚥性肺炎の再発リスクが高まります。
60代になり、食が細くなったと感じられる方もいらっしゃいますが、それだけではなく、食事が本当に足りているか、食事内容は適切かを確認する必要があります。低栄養の予防は誤嚥性肺炎の予防にも繋がります。
60代になり、食が細くなったと感じられる方もいらっしゃいますが、それだけではなく、食事が本当に足りているか、食事内容は適切かを確認する必要があります。低栄養の予防は誤嚥性肺炎の予防にも繋がります。
4. オーラルフレイル予防のために今できること
オーラルフレイルを予防するために日常の食事内容や口腔ケア習慣を見直してみましょう。予防のためには適切な栄養素を摂取しながら、噛む力を維持する食事が重要です。特に、咀嚼回数を増やす食品や口腔機能を鍛える食材を意識すると、口の健康を守ることができます。
1 噛む力を維持する食品
- 根菜類（ごぼう・れんこん・にんじん） → 硬めの食材で咀嚼回数を増やす
- 玄米・雑穀米 → 白米よりも噛み応えがあり、口腔筋を鍛えられる
- ナッツ類（アーモンド・くるみ） → 噛む力を維持しながら栄養補給
2 口腔機能を鍛える食材
- 青魚（サバ・イワシ） → オメガ3脂肪酸が口腔の健康をサポート
- 発酵食品（ヨーグルト・味噌・ぬか漬け） → 口腔内の善玉菌を増やし、口の健康を守る
3 食事の調理法の工夫
- 食材を大きめに切る → 噛む回数を増やし、口腔筋を鍛える
- 加熱時間を短くする → 歯ごたえを残し、咀嚼を促す
- 水分を少なくする → 噛みごたえを高める（ドライカレーや焼き魚など）
オーラルフレイルの予防には、普段の食事で『よく噛む』ことを意識することが重要です。毎日の食事に少しずつ取り入れて、口腔機能を維持しましょう。
・ 口腔ケア（歯科医との連携・セルフチェック）
オーラルフレイルの予防には口腔ケアの徹底が重要です。定期的な歯科検診を実施し、歯周病や虫歯の早期治療、義歯の調整をしましょう。またセルフケアでは歯磨きの習慣を見直し（歯間ブラシやデンタルフロスを活用）、 唾液腺マッサージ、「パ・タ・カ・ラ」体操なども効果的です。
5. まとめ
オーラルフレイルの予防は早めが重要となります。食習慣を見直し、日々のちょっとした工夫によって健康を維持することが可能です。様々な身体機能の低下が起こり始める60代から予防をしていきましょう。
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執筆：
井上美穂（いのうえみほ）
ふれあい歯科ごとう 管理栄養士
〒169-0074 東京都新宿区北新宿4-11-13せらび新宿1階
TEL：03-5338-8817/FAX：03-5338-8837
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介護や医療イベントにて食事の大切さを伝えるキッチンカーを運営中
『食の相談室おむすび』
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