最後まで食べるために=管理栄養士からの提案 最終更新日:2025/02/03

「食」での幸福感の実現、訪問歯科・口腔ケアの普及啓蒙を目的として、1つのテーマに対して、歯科医、管理栄養士、言語聴覚士がそれぞれの立場にて解説する新たな企画「在宅医療における食の幸福感を目指して」。
2つ目のテーマは「最後まで食べるために=管理栄養士からの提案」と題して、管理栄養士の立場として、井上美穂管理栄養士(ふれあい歯科ごとう)により解説いただきました。
2つ目のテーマは「最後まで食べるために=管理栄養士からの提案」と題して、管理栄養士の立場として、井上美穂管理栄養士(ふれあい歯科ごとう)により解説いただきました。
はじめに
食べられなくなる問題は多岐に渡り、疾患やADLが理由の方、身体的な理由で買い物にいけず、思うようなものを食べられなくなってしまう方、精神的な理由で食べる意欲を失ってしまう方など様々です。また口から食べられなくなる大きな原因の一つに『嚥下障害』があります。

今回は嚥下障害を起こさないために管理栄養士が訪問栄養指導でどのような行動、提案を行っていくのかをご紹介します。
まずは近年問題となっている『低栄養』の現状について整理していきます。
まずは近年問題となっている『低栄養』の現状について整理していきます。
1. 低栄養について
1-1. 低栄養
近年、高齢者の低栄養の問題は顕著であります。令和元年に行われた「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、65歳以上の低栄養傾向の方は、男性12.4%、女性20.7%となっており、男性では10人に1名以上、女性は5人に1名以上の方が低栄養の可能性があります。
低栄養とは食事が不足したことで、健康状態を脅かす可能性がある状態のことです。免疫力の低下、筋力低下、閉じこもり、抑うつ、傷が治りにくいなど様々な症状が起こります。こうした低栄養の状態は、重大な問題ですが、見落とされてしまうことがあります。低栄養を起こさない、見逃さないために日々の生活の中に問題はいくつか存在します。
この低栄養を招く原因の一つに『オーラルフレイル』という状態があります。

1-2. オーラルフレイル
オーラルフレイルは、口の機能の健常な状態と『口の機能低下』との間にある状態を指します。具体的な状態としては、固いものが食べにくかったり、残存歯が少なくなったり、口の乾燥から口臭が気になったり、食べこぼしやむせこむことが多くなることです。高齢に伴って起こる口腔内の変化を放置してしまうことで、食べる機能を低下させ、最終的にはフレイルや心身機能の低下を起こしてしまうと言われています。
オーラルフレイルの方は、そうでない方に比べて、将来的にフレイルになる可能性が高く、要介護認定、死亡リスクが高いことがいわれています。
しかしながらオーラルフレイルに対して適切な対策を行うことにより、機能低下を緩やかにし、改善すると言われています。
(❏ 通いの場で活かすオーラルフレイル対応マニュアル:日本歯科医師会)
(❏ 通いの場で活かすオーラルフレイル対応マニュアル:日本歯科医師会)
低栄養を防ぐために口腔内の状態を維持、改善させることは最後まで口から食べることに繋がります。今回はオーラルフレイルを改善するために、実際の在宅訪問栄養指導で行った口腔ケアの提案や歯科医師との連携についてご紹介します。
2. オーラルフレイルを改善するために
2-1. 口腔ケアの実施の提案
在宅訪問栄養指導を行う中で、アセスメントの際に口腔状態を確認していきます。その中でケアの方法についても確認をします。
アセスメントを行う中で、口腔ケアが長期間実施できていないケースに出会うことがあります。その背景にはADLの低下や、病状の悪化、意欲の低下など様々なケースがあります。原因を追及した後、まずはケアマネージャー、ヘルパーと相談し、どのようにケアをしていくかを提案しています。
ADLが低下しているAさんの事例
ベッド上で寝たきりだったAさんは長年口腔ケアが実施できていませんでした。ADLは低下しているものの、ご自身で歯磨きができ、むせ込みもなかったため、ヘルパーの介入時にベッド上でご自身で歯磨きをしていただく提案をしました。その結果、低栄養状態だったAさんの食事摂取量が改善し、食事意欲や清潔の意欲の向上がみられました。
またご自身で歯磨きができない場合は歯科衛生士に介入を依頼し、口腔ケアを実施する日を作るということも提案することもあります。

ADLが自立であるBさんの事例
一方で、ADLが自立していても、ご自身の意欲から歯磨きができなかったり、痛みがあり、口腔ケアが実施できていないケースもあります。
Bさんは歯茎の痛みから長期間、歯磨きが実施できておらず、歯の治療もその結果うまくいかない状態でした。まずは歯磨きの習慣をつけるため、口腔ケアウエットティッシュを使用していただくと、ご自身で指磨きを実施していただけるようになりました。また糖尿病の既往歴があったため、血糖コントロールの観点からも口腔ケアが重要な患者さんであり、血糖値と歯周病についてもご説明を行ったところ、定期的に指磨きをしていただくことができました。
口腔内の清潔を保つことは、誤嚥性肺炎を予防することにも繋がります。また糖尿病の患者さんにおいては、歯周病は血糖コントロールに影響を及ぼすことも研究されています。
現在、嚥下障害や、むせこみがない方も、そうなる一歩手前に口腔ケアを行うことでオーラルフレイルの改善、低栄養の予防を行うことができます。
2-2. 義歯の調整
訪問をしていると手元に義歯を持っていらっしゃらない方や、義歯を持っていても長年つけていない方、また体重低下などの理由で義歯が合わなくなってしまった方、調整が必要な方などがいらっしゃいます。義歯がない状態では、窒息や誤嚥のリスクが高まり、軟らかいものしか食べられない状態が続き、食事摂取量の低下にも繋がる場合があります。
患者さん、ケアマネージャーに義歯の調整をするか意向を確認し、歯科医師に相談し、義歯の調整をお願いしています。
Cさんは長年、義歯を持っていらっしゃらないまま食事をされていました。ケアマネージャーから相談もあり、歯科医師に介入依頼をし、義歯を作っていただきました。
また義歯ができた後も、噛みづらさがないか、食べにくいものは無いかを指導の中で確認し、必要な場合は歯科医師との連携を行っていきます。
中には義歯がない場合も飲み込みの機能が保たれており、問題なく通常の食事をされている方もいらっしゃいます。しかしながら義歯がなく噛めないことで窒息や誤嚥のリスクが高くなることも想定されます。窒息や誤嚥が起こる前に義歯の調整を提案することが重要だと考えています。

訪問栄養指導における口腔ケアについて
最後まで口から食べるを叶えるために口腔内のアセスメントを指導時に行うことは重要な意味を持つと考えています。
栄養摂取量や、体重、血液検査のみにフォーカスせず『食べる』を叶えていくために大切な口腔内の状態をどのように見ていくか、今後の管理栄養士に求められるスキルの一つだと感じています。
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執筆:

井上美穂(いのうえみほ)
ふれあい歯科ごとう 管理栄養士
〒169-0074 東京都新宿区北新宿4-11-13せらび新宿1階
TEL:03-5338-8817/FAX:03-5338-8837
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『食の相談室おむすび』
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