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訪問診療とチーム医療の最前線|杉本医師が実践する在宅緩和ケア 最終更新日:2025/08/22

うえまつ在宅クリニック 杉本暁彦院長(訪問診療:狛江市・世田谷区・稲城市)
狛江市・調布市を中心に在宅医療・訪問診療を行う「うえまつ在宅クリニック」で活躍する杉本院長。消化器内科で培った専門性を活かし、がん緩和ケアや自宅での看取りに注力しています。患者と家族の希望に寄り添い、地域の多職種と連携しながら「自宅でその人らしく過ごす医療」を実践する在宅医療への想いを語ります。
日常のなかで芽生えた医師への想い
— 医師を目指したきっかけを教えてください。
私は新潟県の出身で、祖父と父が医師だったんです。祖父の代でクリニックを開業し、父もそのあとを継いでいて地元の方々から頼りにされている祖父や父でした。
小さい頃からそんな父の背中を見ていたので、「忙しそうだけど、やりがいのある仕事なんだな」と、自然と感じていましたね。高校進学の時も父に相談しながら、自分も同じ道を志していました。
— 消化器内科を選ばれた理由を教えてください。
聖マリアンナ医科大学に進み、2010年から東京医科大学病院で初期研修を受けました。研修医時代はいろんな診療科を回ったんですが、消化器内科の雰囲気がとても良くて。
もちろん、かなり忙しい科ではあるんですが、その分、やりがいも大きいんだろうなと。内科としての学びも深められますし、じっくり腰を据えて成長したいと思って、2012年に正式に東京医科大学病院の消化器内科に入局しました。
消化器内科で磨いた技術と、患者への思い
— 消化器内科でのキャリアについて教えてください。
2012年に東京医科大学病院で1年間勤務した後、2013年から2015年までは大学に籍を置いたまま、立正佼成会附属佼成病院に勤務しました。私は上部消化管も下部消化管も両方診ていたんですが、特に内視鏡の手技や診断に力を入れていて、専門的な資格も取れるように、多くの症例を経験するようにしていました。
2015年には再び東京医科大学病院に戻り、その後2016年には東京医科大学八王子医療センターの消化器内科へ勤務し、2017年に東京医科大学病院に戻ってきました。
— 特に力を入れていた分野はありますか?
消化器内科は胃や腸だけでなく膵臓や肝臓など、かなり幅広い臓器を診るんですが、特に注力していたのは胃や大腸のがんの早期発見とがん治療です。がんって、やっぱり早期に見つけられるかどうかで、その後の予後が全然違ってきます。正確な診断と迅速な治療につなげられるようにしていました。
患者さんの“その人らしい最期”を支えたい——在宅医療への転機
— 消化器内科でのキャリアを積む中、在宅医療に関心を持ったきっかけを教えてください。
大学病院や総合病院における消化器内科医として、一緒にがん治療を頑張ってきても、末期になってくると病院なら緩和ケアですし、退院なら自宅で看取りになる事が多いです。
そんなとき、聖マリアンナ医科大学の先輩で同じ消化器内科で働いていた植松先生が開業され、在宅医療に精力的に取り組まれていることをお聞きしました。そして植松先生がクリニックの医師募集をはじめた2021年ごろに、実際にお会いして話を聞くことができました。
在宅医療は人と人が深く関われる場所であること、在宅での疼痛コントロールや看取りなどの医師として求められる能力ややりがいを話してくれました。「在宅医療で患者さんの最期までサポートしたい」と思いが募り、2022年からうえまつ在宅クリニックで勤務を始めました。
訪問診療時に携行する薬剤や医療器材
— 実際に在宅医療に飛び込んでみて、最初はいかがでしたか?
当然ですが、大学病院とはまったく違う環境で、初めは戸惑いの連続でした。訪問先には、がんを患っている方も多く、出会ってから短期間で旅立たれる方もいらっしゃいます。短い時間の中で信頼関係を築くというのは、慣れるまではとても難しかったですね。
また、「最期は自宅で過ごしたい」と希望されていても、ご本人がご自分の病状をまだ受け止めきれていなかったり、ご家族が現実を受け入れきれていないことも少なくありません。
そうした揺れ動く気持ちに対して、どう寄り添うか。在宅医療では、そうした関係性の築き方がとても大切になると感じました。
— 病院とは異なる点や、新たな気づきがあれば教えてください。
なによりも診察の場所が“自宅”であるということ自体が、大きな違いでした。病院とはまた違った環境で、患者さんにとっても安心できる環境のため、患者さんがふと本音をこぼしてくれる瞬間があるんです。「自分はちゃんと寄り添えていたんだな」と実感でき、そんな言葉に出会えることがとても嬉しくて。
また、在宅医療では多職種の連携の密度がすごく高いと感じました。訪問看護師さん、リハビリの先生、ケアマネジャーさん……本当に多くの人が、それぞれの専門性を持ち寄って、地域で一人の患者さんを支えています。 “チームで支える医療”っていうのを実感しました。
「先生に診てもらえてよかった」—その言葉が、何よりのやりがい
— 在宅医療におけるやりがいを感じる瞬間はどんなときでしょうか?
やはり、患者さんやご家族の希望を叶えられたと感じたときですね。もちろん医師として痛みを和らげたり、病状を管理したりするのは当たり前のことです。でも、それ以上に大切なのは、人と人として信頼関係を築くことだと思っています。
在宅医療では、私よりもずっと人生経験のある患者さんと接することが多いです。お話を伺っていると、私の方が教えられることもたくさんあるんですよ。会話をしていく中で少しずつ心を開いてもらい、「最期まで先生に診てもらえて良かった」と言っていただけた時は、医師として本当に嬉しいですし、自信にもつながっています。
— 在宅医療において、特に大切にしていることは何ですか?
悠翠会の理念である患者さんの生活の質を高めることですね。そのためには、やはり信頼関係がすべてのベースになります。どんな最期を望んでいるのか、どんな生活を大切にしたいと思っているのか。しっかり耳を傾けるようにしています。
患者さんの希望を叶えるには、医師一人では限界があります。たとえば「最後にもう一度、外出したい」といった希望も、私だけでは難しい。でも訪問看護師さんやリハビリスタッフ、ケアマネジャーさんなどと連携すれば、実現できることもあるんです。そういう場面に何度も立ち会ってきましたし、「チーム医療」の力を実感しています。
スタッフカンファレンスにて
— 連携が欠かせないというお話がありましたが、うえまつ在宅クリニックには診療科も多様な医師が在籍していると伺いました。医師同士の連携についても教えてください。
私たちは「オーダーメイド診療」と呼んでいて、患者さんの状態に応じて、必要な診療を柔軟に提供できる体制を整えています。在宅医療を受けている患者さんの中には、がん治療の途中で皮膚の処置が必要になったり、精神面のケアが必要になったりする方もいます。もちろん基本的には私が対応しますが、専門性の高い治療が必要な場合、その分野の医師にすぐに相談できるんです。
患者さんの中には「専門の先生に診てもらえる」ということだけで安心される方もいらっしゃいますし、医師同士でスムーズに連携できる環境は、生活の質の向上にもつながっていると思います。
— 多くのスタッフと関わる中、杉本先生にとって、ロールモデルとなる存在はいますか?
やはり、植松先生の存在は大きいです。
診療の現場ではもちろんのこと、経営面やチーム全体への関わり方など、日々の姿勢から学ばせてもらっています。在宅医療というフィールドで“医師としてどうあるべきか”を、先生の背中を見ながら考えるようになりました。
先生がよく「患者さんの目線で考え、丁寧に話を聞くことが大切」と話されていて、そこには深い意味が込められていると思います。ただ病気を診るのではなく、その人の生活や人生にどう寄り添うかという姿勢。そうした先生のスタンスには強く共感していますし、自分自身もその姿勢を日々の診療に活かしています。
それに加えて、クリニックという場では、スタッフ一人ひとりとの関わり方や組織全体の運営にまで目を向ける必要があります。その点でも、植松先生の立ち居振る舞いには多くを学ばせてもらっています。先生はあまり表には出しませんが、陰でしっかり努力されていて、常に「どうすれば患者さんにとってより良い医療ができるか」を考えられており、その姿から刺激を受けています。
植松先生とともに
一人ひとりの願いに応える在宅医療へ向けて
— 在宅医療に取り組む中で課題に感じていることはありますか?
これから高齢化が進む中で、在宅医療の必要性はますます高まります。ただ、一人ひとりの暮らし方や健康状態、ご家族のサポート体制、経済状況などが異なり、それぞれが抱える課題もさまざまです。
だからこそ、患者さんの生活背景や気持ちをしっかり理解し、個々に合った支えを届けられる体制をつくることが求められていますが、まだまだ十分とは言えません。ひとり暮らしの高齢者の方、遠方に家族がいる方、介護負担が大きいご家族など、それぞれの声に耳を傾けながら、支援の幅を広げていきたいと思っています。
— 今後、目指している在宅医療について教えてください。
在宅医療は、決して医師一人で完結するものではありません。看護師さんやリハビリ職、ケアマネジャーさんなど、多くの職種が協力しながら、患者さん一人ひとりに寄り添うことが理想だと思っています。
私は狛江市や調布市の地域を、患者さんが安心して自宅で過ごせるような環境にしていきたいです。「自宅で治療を受けたい」「最期を自宅で迎えたい」という思いを支えられるよう、他職種と連携しながら、在宅医療を届けていきたいと思います。
— 最後に、地域の皆さまへメッセージをお願いします。
うえまつ在宅クリニックでは、患者さんとご家族の気持ちに寄り添った診療を大切にしています。
「自宅で療養したい」「こんなこともできるのかな?」と少しでも気になることがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。 一人ひとりの声に耳を傾け、日々の暮らしが少しでも安心で穏やかなものになるよう、私たちがしっかり支えていきます。

医療法人社団 悠翠会 うえまつ在宅クリニック
〒201-0014
東京都狛江市東和泉3-12-2 鈴文ビル2F
TEL:03-5761-4199/FAX:03-5761-4189
WEB:https://www.uematsuclinic.jp/
杉本暁彦院長のプロフィール
経歴:
2010年 聖マリアンナ医科大学 医学部卒業
2010年 東京医科大学病院初期研修医
2012年 東京医科大学病院消化器内科
2013年 立正佼成会附属佼成病院 消化器内科
2015年 東京医科大学病院消化器内科
2016年 東京医科大学八王子医療センター消化器内科 助教
2017年 東京医科大学病院消化器内科 助教
2022年 医療法人社団悠翠会 うえまつ在宅クリニック 院長
資格:
日本内科学会 内科認定医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本医師会認定産業医
厚生労働省緩和ケア研修会修了
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