医療法人めぐる ごうホームクリニック 伊藤剛院長(訪問診療:名古屋市天白区・緑区・南区) 最終更新日:2025/07/07

注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第22回目は、2019年から名古屋市天白区にて「ごうホームクリニック」を運営されている伊藤剛院長です。これまでの医師としての歩み、在宅医療に転じて、そして今後への展望について、その思いを熱く語っていただきました。
多彩な経験を経てたどり着いた在宅医療の道
— まず、医師を目指されたきっかけについてお聞かせください。
一番大きなきっかけは、5歳年上の姉の存在ですね。姉が先に医療の道に進んでいたので、その姿が私にとっての自然なロールモデルになっていました。また、子どもの頃にテレビで見た救急医療のドキュメンタリー番組に感銘を受けたり、自身がアトピー性皮膚炎で皮膚科に通っていた経験も、医療という世界を身近に感じるきっかけになったと思います。

— 医師としてのキャリアは、どのような領域からスタートされたのでしょうか。
大学を卒業後、初期研修では整形外科に興味を持ちました。外傷を治療する姿に、漠然とした医師のイメージを抱いていたんです。しかし、実際に現場で向き合うのは高齢者の骨折が多く、少し自分の思っていたイメージと相違があったと感じました。
次に進んだのが循環器内科です。カテーテル治療など、ダイナミックな医療に面白さを感じていましたが、その一方で「この検査は本当に全員に必要なのだろうか」という疑問も感じていました。年齢や状態に関わらず画一的な治療方針になりがちな点に、少し違和感を覚えたんです。
— その後、小児科、そして精神科へと専門を深めていかれたそうですが、その経緯について詳しくお聞かせください。
循環器内科での経験から、より患者さん一人ひとりの人生に寄り添う医療への関心が強まりました。そんな時に心に浮かんだのが小児科です。実家が学習塾を経営していたため、常に子どもたちの声が聞こえる環境で育ちました。そのため、子どもはもちろん、その親後さんたちと話すことにも慣れていましたし、全く抵抗がありませんでした。何より、新生児という人生の始まりから関われる小児科の仕事に惹かれ、そこからJA愛知厚生連 豊田厚生病院の小児科で医師としてのキャリアを本格的にスタートさせました。
一方で、研修で経験した精神科の面白さがずっと心に残っていました。「人の人生を丸裸にする」ような深い関わりの中から治療が生まれていく。その奥深さに心が奪われました。また、小児科が「新生児から」であるのに対し、精神科は「全年齢」を対象にしている点にも大きな魅力を感じていたんです。その研修当時に感じた思いを捨てきれず、その後愛知医科大学病院の精神神経科に移り、専門性を高めていきました。
— そこから、どのようにして在宅医療の道に進まれたのでしょうか。
精神科医としてのキャリアを積む中で、後輩から在宅医療のアルバイトを紹介され、2013年から週に一度、在宅医療の世界に足を踏み入れました。最初は入院患者さんを診る感覚で、個人個人のニーズを汲み取れていなかったと思います。しかし、在宅では患者さんの生活そのものが医療の対象です。その方の生き方や物事の感じ方にまで寄り添う必要があるのだと現場で学んでいきました。
そして2016年、とくしげ在宅クリニックみかわの院長に就任し、本格的に在宅医療に携わることになります。しかし、そこでは自分の目指す医療と組織の方針との間に少しずれを感じるようになりました。もっと患者さんや地域の多職種の方々と深く関わりたいという思いが強くなる一方で、組織の制約に窮屈さを感じるようになったんです。その経験から「自分に裁量権がなければ、理想の医療は実現できない」と痛感しました。

想いと繋がりが「めぐる」、ごうホームクリニック設立へ
— 2019年に「ごうホームクリニック」を設立されましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
前職での経験から、一度は在宅医療の現場を離れることも考えましたが、そんな私を思いとどまらせてくれたのが、地域の仲間たちの存在でした。これまで一緒に仕事をしてきた訪問看護師さんをはじめ、多くの方々が「先生と一緒にやりたい」と温かい声をかけてくださったんです。その言葉に強く背中を押され、「自分で理想のクリニックを創ろう」と独立を決意するに至りました。
— 設立時の体制や、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
はじめは、看護師1名、事務長1名、医療事務2名、そして私の合計5名という体制でスタートしました。驚いたことに、前のクリニックで担当していた多くの患者様が「先生に続けて診てもらいたい」と当院についてきてくださったんです。本当にありがたいことでしたが、おかげで開業初日からトップスピードで、クリニックのルールを整備する時間もないほど忙しかったのを覚えています。

— 法人名の「めぐる」には、どのような想いが込められているのでしょうか。
クリニックの名前を考えるとき、自分の名前や地名ではなく、私たちの活動のコンセプトを表現したいと考えました。訪問診療をしていると、まるでゲームの世界のように、ケアマネジャーさん、ヘルパーさん、薬剤師さんといった様々な職種の「仲間」がどんどん増えていくんです。
患者さんを中心に、たくさんの人の想いや専門性、そして繋がりが「めぐる」ことで、より良い医療が生まれる。そんな「好循環」をこの地域で創り出したいという想いを込めて、「めぐる」という名前にしました。平仮名で誰にでも読みやすく、覚えてもらいやすいという点も意識しています。

— クリニックの理念や、診療で大切にされていることを教えてください。
私たちの理念は、「納得できる人生と安心できる生活を支える」ことです。在宅医療では、ご本人やご家族が「納得」できるかどうかが何よりも大切だと考えています。治療の選択肢や予後について正直にお伝えし、共に考える。そうすることで、亡くなるその瞬間だけでなく、残されたご家族が後々振り返った時に「あの時、ああしてよかった」と思えるような、後悔の少ない医療を提供することを目指しています。
住み慣れた場所で過ごし続けられるように
— 貴院の特長についてお聞かせください。
一つは、内科診療をはじめ内科疾患を要する精神疾患など、身体的な疾患と精神的な症状の両方を抱える患者さんを包括的に診られる点です。また、幅広い処置に対応できるよう、医療デバイスも豊富に揃えています。

当院の最大の強みは、看護師を中心とした手厚い支援体制にあります。現在、医師は常勤換算で2.4名、看護師は6名が在籍しており、訪問看護ステーションの看護師と当院看護師が共通言語で密接に連携できる体制を構築しています。
さらに、栄養士やケアマネジャー、総務、医療事務、ドライバーなど、多職種を含む19名のスタッフが在籍。加えて「看護事務」という専門職を設けることで、看護師の業務をサポートし、より専門的なケアに専念できる環境を整えています。
診療地域は、クリニックから半径7〜8㎞圏内が中心ですが、名古屋高速道路が近いという地の利を活かし、ご依頼があれば16㎞ほど離れた地域まで伺うこともあります。
— 診療されている患者さんの疾患には、どのような傾向がありますか?
やはり私が認知症専門医ということもあるので、認知症の患者さんが圧倒的に多いですね。次いで、脳血管障害の後遺症やパーキンソン病などの神経難病の方が続きます。もちろん、がんの終末期の患者さんも一定数いらっしゃいます。また、精神疾患を合併されている方からのご依頼も多いです。
— 診療にあたり、特に重要視されている指標はありますか?
指標の数字自体を追い求めるというよりは、私たちの医療の質を測る一つの目安として、「入院率の低さ」と「在宅での看取り率の高さ」を重視しています。私たちの介入によって、患者さんが可能な限り住み慣れた場所で過ごし続けられるよう、入院を回避し、穏やかな最期を迎えられることを目指していきたいですね。結果として、当院の入院率は毎月3%前後と低く、在宅での看取り率は80〜90%を維持しています。

地域医療のレベル向上へ、ごうホームクリニックが描く未来
— 現在感じていらっしゃる、在宅医療全体の課題について教えてください。
一番は、患者さんやご家族が「在宅医療」という選択肢や、数あるクリニックの中から自分たちに合った場所を選ぶための情報が、まだまだ少ないことですね。多くの場合は、ケアマネジャーさんや病院の連携室からの紹介で初めて知ることになります。しかし、各クリニックがどのような特徴や強みを持っているのか、判断する材料が乏しいのが現状です。
また、24時間365日の対応が求められるため、担い手となる医師が増えにくいという構造的な課題もあります。
— そうした課題に対し、今後どのように取り組んでいきたいとお考えですか?
当院が分院展開などで規模を拡大するのではなく、今あるこの場所で、地域全体の医療の質を「底上げ」していくような役割を担いたいと考えています。
具体的には、病院の連携室の方々と合同でカンファレンスを開催するなどして、病院側に在宅医療への解像度を高めてもらう取り組みを進めたいです。退院後の生活を見据えた上で、「この患者さんなら、在宅でこんな風に過ごせる」という共通認識を持つことが、スムーズな連携には不可欠だと感じています。
— 目指す「理想の在宅医療」とは、どのようなものでしょうか。
患者さんご本人にとっても、そのご家族にとっても、「このクリニックに頼んでよかった」と、心から思っていただける医療です。それは、単に病気を治すだけでなく、その方の人生やご家族と寄り添い、記憶に残るような関わりの中から生まれるものだと信じています。そういった私たちと患者さんやご家族との気持ちの循環が、私たちの法人名にある「めぐる」にも現れているのかなと思います。看取りの後、ご家族がふと私たちのことを思い出し、「あの時、良い時間を過ごせたな」と少しでも温かい気持ちになってくれる。そんな医療を目指していきたいですね。
— 最後に、地域の住民の方々へメッセージをお願いします。
在宅医療クリニックを選ぶ際には、ぜひ「繋がり方の質」に注目してみてください。例えば、休日や夜間でもスムーズに連絡が取れるか、LINEやメールといった多様な手段でコミュニケーションが取れるか。そういった細やかな対応が、いざという時の安心感に繋がります。また、どのような医療処置に対応できるかも大切なポイントです。
私たちは、幅広いデバイスと専門知識で、様々なご要望にお応えできる体制を整えています。また、ご家族が集まりやすいように、土日の初診相談も受け付けています。
何かお困りのことがあれば、どんな些細なことでも構いませんので、お気軽にご相談いただければと思っています。皆さんが納得できる人生と、安心できる生活を送るためのお手伝いができれば、これほど嬉しいことはありません。

医療法人めぐる ごうホームクリニック

伊藤剛院長のプロフィール
経歴:
2007年 信州大学医学部医学科 卒業
2007年 JA愛知厚生連 豊田厚生病院 小児科
2011年 愛知医科大学病院 精神神経科
2015年 医療法人福智会 福智クリニック(精神科・心療内科)
2016年 医療法人とくしげ会 とくしげ在宅クリニックみかわ 院長
2019年 ごうホームクリニック 開院
2007年 信州大学医学部医学科 卒業
2007年 JA愛知厚生連 豊田厚生病院 小児科
2011年 愛知医科大学病院 精神神経科
2015年 医療法人福智会 福智クリニック(精神科・心療内科)
2016年 医療法人とくしげ会 とくしげ在宅クリニックみかわ 院長
2019年 ごうホームクリニック 開院
資格:
医学博士
臨床研修指導医
医師会認定産業医
小児慢性特定疾病指定医
リビングウィル受容協力医師
日本小児精神神経学会 認定医
日本認知症学会 専門医・指導医
日本老年精神医学会 専門医・指導医
緩和ケア/精神腫瘍基本教育指導者(PEACE指導者)
発達障害児マッチングサービスBranch公認メンター
全英自閉症協会(The National Autistic Society)認定 DISCOユーザー
難病指定医
認知症サポート医
看護師特定行為指導者
子どものこころ専門医
自閉症スペクトラム支援士
愛知県公安委員会指定医(認知症)
日本精神神経学会 専門医・指導医
日本褥瘡学会認定 在宅褥瘡予防・管理師
身体障害者福祉法15条指定医(肢体不自由)
エンドオブライフ・ケア協会認定ファシリテーター
折れない心を育てるいのちの授業 認定講師
医学博士
臨床研修指導医
医師会認定産業医
小児慢性特定疾病指定医
リビングウィル受容協力医師
日本小児精神神経学会 認定医
日本認知症学会 専門医・指導医
日本老年精神医学会 専門医・指導医
緩和ケア/精神腫瘍基本教育指導者(PEACE指導者)
発達障害児マッチングサービスBranch公認メンター
全英自閉症協会(The National Autistic Society)認定 DISCOユーザー
難病指定医
認知症サポート医
看護師特定行為指導者
子どものこころ専門医
自閉症スペクトラム支援士
愛知県公安委員会指定医(認知症)
日本精神神経学会 専門医・指導医
日本褥瘡学会認定 在宅褥瘡予防・管理師
身体障害者福祉法15条指定医(肢体不自由)
エンドオブライフ・ケア協会認定ファシリテーター
折れない心を育てるいのちの授業 認定講師
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