【PICK UP!在宅医療機関 012】かりん在宅クリニック 田中亮嗣院長 最終更新日:2025/02/17

注目の在宅医療機関へのインタビュー取材「PICK UP!在宅医療機関」の第12回目は2024年5月に東京都墨田区にて「かりん在宅クリニック」を開業された田中亮嗣院長です。これまでの歩み、かりん在宅クリニックや今後の展望についての思いを熱く語っていただきました。
身近な人を助けたいという思いから医師に
— 先生が医師を目指したきっかけについて教えてください。
両親が理学療法士と作業療法士だったので、子どもの頃から身近なところに医療があったように思います。一番のきっかけは、高校生の時に祖父の死を経験したことです。がんだったのですが、見つかった時には、もう根治を目指せるような状況ではなかったんです。もし自分に医療の知識があれば、今後も家族や身近な人々を助けてあげることができるのではないかと思い、医師を目指すことに決めました。
— 大学時代で思い出に残っていることなどはありますか。
生まれ故郷の鹿児島から出てきて、横浜市立大学に進学したのですが、学生時代はアメリカで医師として活躍することも選択肢の一つとして勉強していました。UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)に1ヶ月の研修に行かせてもらったこともありました。老年医療科というところで高齢者医療全般を学んだのですが、各科で分かれずに総合的な視点で医療を実施している点で、日本の大学との違いを感じました。また、他の国からも意識の高い学生が集まっており、とても刺激を受けました。この時には既に将来何科に進むとしても幅広く患者を診れるジェネラリストとしての力は付けておきたいと思っていたと思います。

何を聞かれても答えられる医師になりたい
— 卒業後の研修はどうでしたか。
沖縄県立中部病院で研修を受けました。ここでは本当に内容の濃い経験をたくさん積ませてもらいました。オンザジョブトレーニングの体制が整っており、若手の研修医であっても、責任のある仕事を任せてもらえました。上級医の先生によるフォローをしっかり受けながら裁量を持って現場に出ることができたため、とても成長することができました。
2年目の医師が30人ぐらいの患者さんを管理して、経験豊富な指導医らに意見を求めつつ、主体的に治療方針を決めていました。学生時代に見学に行った際にはそこの先生方は大変優秀だと思いました。実際、学生時代にも優秀だった方々が集まってくるとても意識の高い集団でした。そこでの繋がりや仲間は今でも私の大切な財産です。私もその中で、内科、救急、外科や小児科、産婦など本当に幅広く数をこなすことができました。
その後、聖路加国際病院に移りました。そこでは治療内容に関してエビデンスを示すことが強く求められ、患者様への説明の仕方や後輩や看護師への接し方などにも気を配ることの大切さを学びました。
こちらにも大変優秀な先生方が集まっており、皆様から刺激を受けて、更に自分を伸ばすことができたと思います。
— 内科に注力したいと思った理由は何だったのでしょうか。
やはり内科というのは、オールマイティーな科だと思うんです。今後専門医になるとしても、まずは幅広い知識を土台として持っておきたいという思いがありました。患者さんに質問されたときに「専門じゃないから分からないです」というようなことは、あまり言いたくないなと。
人にしかできない医療をやりたくて在宅医療の世界へ
— 聖路加国際病院で勤務された後、在宅医療の分野に転向されたきっかけについてお聞きかせください。
聖路加国際病院で勤務している頃は、がん治療の専門医になろうと考えていました。でもちょうどその頃から、AIや人工知能といったテクノロジーが急速に進展し始めていました。今、人間がやっている仕事はAIが代わりにできるようになってきていると思います。AIの成長は我々の予想を大きく上回るので、規制緩和や国の制度的な問題はあるにせよ、医師の業務にもAIが入ってくる可能性は高いと思いました。
自分はこの先どんな医師を目指したらいいのか。そのように迷っていたときに出会ったのが在宅医療でした。
自分が診ていて、在宅医療に引き継いだ患者さんがその後どのような生活を送られているのか、気にはなっていた中で、在宅での看取りや緩和治療に力を入れている、在宅クリニックに見学に行ってみることにしました。
— 見学に行ってみてどうでしたか。
すごいなと思いました。在宅でここまでできるのかという驚きを感じたことを覚えています。当時は在宅医療のことをほとんど分かっていなかったので、大した治療はできないんじゃないかと思っていました。でも実際の現場を見てみると、病院でやっている治療とほとんど変わらないようなこともされていました。
患者さんと医師の距離の近さも、自分にとってはかなり新鮮でした。単に病気だけを診て治療方針を説明するだけではなく、患者さんの考え方や価値観を尊重していて、患者さんが置かれている生活環境や、家族の思いにまでしっかりと寄り添う姿勢に、ハッとさせられました。
患者さんとの心の通った会話は、人生にまで踏み込んでいく医療は人間にしかできないんじゃないかなと。自分が進んでいきたい道は、人としての強みを活かした医療だなと思い、在宅医療の道に進むことを決めました。そのまま、見学したクリニックで働かせてもらうことになり、2年ほど修行を積みました。

— すごい行動力ですね。開業するまでの道のりを教えていただけますか。
まずは在宅医療とはどういうものなのかということをみっちり学びました。教わった先生は、いつも患者さんのことを第一に考えているような素晴らしい先生でした。いろいろな患者さんがいましたが、一人一人に合わせた治療方針を丁寧にオーダーメイドで考えていくといったやり方を実践されていて、今の自分の基礎にもなっています。
在宅医療の世界に飛び込んで、2年で開業というのはちょっと早いかなとも思いました。でも、自分の理想とする在宅医療を目指すのであれば、自院を開いてやっていくしかないと思っていました。また東京に越してから、曳舟病院で非常勤医師としてずっと働いていたため、曳舟駅や墨田区には縁があり、こちらの地域で在宅医療を提供したいという気持ちが芽生えていたため、開業を決意しました。
開業初日から末期の患者さんを受け入れた
— 開業当初、大変だったことはありますか。
2024年5月1日に開業した当初は、私と看護師と事務員の3名体制でした。始めた頃は本当にバタバタで。開業前から私が営業活動を行っていたので、ありがたいことに開業初日から患者さんが来てくれたのですが、いきなり末期がんの患者さんを受け入れることになったんです。
その方はかなり容態が悪く、痛みや呼吸苦で辛そうにしていて、薬を飲み込むことすら難しいという状況でした。在宅酸素や介護ベッドを急遽導入し、医療用の麻薬を点滴で開始するなど目まぐるしい初日でした。とにかく目の前の患者様とご家族が穏やかに自宅で過ごせるように安心できるように説明も心掛けました。最終的にはその方も家族に囲まれながら穏やかに無事最期を迎え、ご家族の方からも、温かい感謝の言葉をいただくことができました。
その時私が感じたのは、この地域には在宅医療の担い手がまだ不足しているのかもしれないということでした。その末期がんの患者さんも、本当はもっと早くどこかに相談したかったかもしれない。でも、今まで相談できるところがなかったから、開業間もない自分のところに来てくれたのではないかと。

— 大変だけど頑張ったかいがありますね。開業前の営業活動はどのようにされていたのですか。
営業活動は開業する1ヶ月前の4月に、集中して行いました。病院や訪問看護ステーション、ケアマネージャーさんなどに電話でアポを取って、1人で会いにいっていました。遠いところだと荒川区や足立区、江東区の有明まで行ったこともあります。今思い返すと大変でしたが、当時はがむしゃらでした。
やはり皆さんお忙しいので、なかなか話を聞いてもらうのも難しかったですが、とにかく1人でも多くの方に会って当院を知っていただこうという気持ちでやっていました。
実際に開業してからは、各事業所の方と連携しながら、一人ひとりの患者様に真摯に対応していく中で、少しずつ地域に認知されてきているように感じています。

患者さんの希望を叶えるために心がけていること
— 今後、医師やスタッフさんも増員されるとのことですが、人員体制も強化していこうということでしょうか。
そうですね。2025年1月現在、医師1名、看護師4名、事務1名という体制になり徐々にメンバーを増やしてきています。春には非常勤医師1名、看護師1名が加わると共に、新たに相談員を採用する予定もあります。
増員を進めている理由は、当クリニックの特徴として掲げている「断らない医療」をこれからも実現していくためです。どんな患者さんも、断らずにその方にあわせて丁寧に診ていく。そのためには、組織づくりをしっかりとしていく必要があると思っています。今後ますます、高まる在宅医療の需要に応えるためにも、チームとして協力できる体制を整えていきたいです。
— 「断らない医療」をはじめとする4つの特徴について聞かせていただけますか。
まずは「24時間365日対応」ですね。患者さんが24時間安心して過ごせるようにするためにも、常に対応できる体制を整えておくことが大切だと考えています。
次に「在宅緩和ケア」への注力です。終末期を迎えている患者さんの苦痛を、少しでも緩和して、自分らしく過ごせる環境を整えていくことを心がけています。
3つ目が「患者様に合わせた医療」。患者さん一人ひとりの価値観や置かれている環境に合わせた治療方針を、患者さんと相談しながら決めていくようにしています。
そして4つ目が、先ほどもお伝えした「断らない医療」ですね。
これら4つの理念が達成されることで、本当の意味で、患者さんの「自分らしく生きる」を支えていけるのではないかと考えています。

在宅医療で安定した医療を提供したい
— クリニックの現在の状況についてもお聞きしたいのですが、診療地域はどの辺りまで展開されていますか。
診療地域はクリニックから車で30分以内に行ける範囲を目安にしています。16㎞圏内で考えるともっと遠くまで行けるのかもしれませんが、緊急のときなどに患者さんを待たせたくないという思いから、現時点では区切っています。
診療しているエリアとしては、墨田区、台東区、荒川区の全域。あとは、全域ではないですが江東区の大半、足立区の千住エリア、江戸川区の平井・小松川、葛飾区の一部にも展開しています。
— どのような患者さんを診られていますか。患者さんの特徴などもあれば教えてください。
当院の患者様の内訳として、居宅と施設でいうと、居宅が7~8割程度です。
特徴として、がん患者さんが全体の約3分の1で一番多いです。通院治療中の方も癌治療が終了している方もいらっしゃいます。他にも医療必要度の高い方が他の比較的多いと思います。またそうでなくても、重度認知症の方や高齢独居・老々介護など生活環境に難しい点がある方などもいらっしゃいます。最近はそういった難しい症例の患者さんをご紹介していただくことが増えているように思いますが、もちろんそうでない方も積極的に診させていただきたいと思っております。
— 診療にあたって重視しているKPIや数値目標はありますか。
最も大切なことは一人ひとりの患者様を丁寧に診療することであり、皆様が満足する医療サービスを提供することに他ならず、それは数字で測れるものではないと思いますが、一つ数字として上げるとするのであれば、お看取りの件数です。もちろん患者様やご家族の希望に沿って療養場所を提案するのは大前提ですが、患者様の意思を汲んだ結果「家で看取る」ことができたというのは、患者様とご家族が穏やかに最期の時を過ごせたことの証明になるのではないかと思います。
疾患から生じる苦痛症状はコントロールできるのは当たり前であり、死が迫っていることに対する精神的な辛さへのサポートまでできなければ自宅での看取りはなかなか難しいです。そこをいかに和らげることができたかというのは、看取りの件数に表れてくるのではないかと思っています。
— クリニックの今後の展望について聞かせていただけますか。
患者様のニーズに応えていけるよう、これからも安定した医療を供給できる体制を整えていきたいです。具体的にはスタッフの増員や、誰が対応しても、当院の理念に基づいた均質な水準の医療を提供できるようなマニュアルやルールの整備が必要だと考えています。
今後も訪問看護ステーション様やケアマネージャー様など関係する方々としっかり連携をとることで、協力して地域の患者様をしっかり診ていきたいと思っています。そして、地域全体の在宅医療の水準を上げていくことが当院の使命だと思っています。

在宅医療がもっと身近な存在になってほしい
— 在宅医療全般について感じている課題などはありますか。
昔に比べると、国の施策などで、在宅医療を推進していこうという流れが感じられるようにはなってきました。でも、一般の方の認知度はまだまだ低いのではないかと思います。在宅医療で実際にどのような治療が行われているのか、どこまでのレベルの治療を受けることができるのかを知らない方がほとんどなのではないでしょうか。
医師である私自身も、この世界に来るまでは知らなかったぐらいですから。一般の方だけでなく、病院勤務の医師や看護師など医療関係者への普及啓発も必要だと思います。
現在当クリニックでは、患者さんを紹介いただいた病院に対して、患者さんを看取るまでの様子を書いたお手紙をお送りするという取り組みを行なっています。手紙には治療の経過を書くだけではなく「ご家族とこんな所へ出かけました」とか「こんなものを一緒に食べに行きました」など、患者さんがどのように最期を過ごされたのかを、詳しく書くようにしています。医療現場の方々に、少しでも在宅医療の良さを伝えたいという思いでやっています。
— 最後に、地域住民の方へメッセージをお願いします。
まずは当院が自宅で治療を受けながら生活したいという方を取りこぼさない、受け皿となっていきたいです。そして最終的にはすべての在宅医療を利用される方が、不安なくご自宅で過ごせるような地域にしていけたらと思います。

かりんクリニック

〒131-0046
東京都墨田区京島1丁目1-1 イーストコア曳舟1番館216
TEL:03-4400-4678 / FAX:03-6739-3978
東京都墨田区京島1丁目1-1 イーストコア曳舟1番館216
TEL:03-4400-4678 / FAX:03-6739-3978
田中亮嗣院長のプロフィール
経歴:
2017年 横浜市立大学医学部卒業
2017年 沖縄県立中部病院
2019年 聖路加国際病院、河北病院血液内科、国立がん研究センター中央病院腫瘍内科
2021年 聖路加国際病院腫瘍内科
2022年 つばさ在宅クリニック西船橋
2024年 かりん在宅クリニック 院長
2017年 横浜市立大学医学部卒業
2017年 沖縄県立中部病院
2019年 聖路加国際病院、河北病院血液内科、国立がん研究センター中央病院腫瘍内科
2021年 聖路加国際病院腫瘍内科
2022年 つばさ在宅クリニック西船橋
2024年 かりん在宅クリニック 院長
資格・役職等:
日本内科学会内科専門医
認知症サポート医
墨田区介護認定審査委員会委員
墨田区医師会地域福祉委員
日本内科学会内科専門医
認知症サポート医
墨田区介護認定審査委員会委員
墨田区医師会地域福祉委員
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