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厚木市で広がる重度訪問介護の新しい形|ALS・脳性麻痺の「自分らしく生きる」を支える暮らしと支援 最終更新日:2025/11/30

厚木市では、ALSや脳性麻痺といった重度の障害があっても「自分らしく暮らしたい」という想いを実現できる重度訪問介護が広がっています。政治の現場から当事者となり介護の実態を深く見つめてきた経験、そして仲間と築いたチームワークを通じて、安心できる24時間体制の生活支援を行う「まさみつ合同会社」生まれました。食事・入浴・外出といった日常の楽しみを大切にしながら、厚木市で実現した新しい介護の形、地域への障害理解の広がりまでを詳しく紹介します。

厚木市議から利用者へ。ALS・脳性麻痺と向き合い見えた「重度訪問介護」のリアル

— まず、お二人の経歴について教えてください。まず内海さんは、元々厚木市の市議会議員だったと伺いました。

内海:はい。私は養護学校を卒業後、25歳から35歳までの10年間、歯科医院のコーディネーターとして働いていました。その後、ここ厚木市で市議会議員に立候補し、2期(8年間)務めさせていただきました。
岡:内海さんは若い頃、本も出版していたんですよ。学校訪問や教壇に立ったりと、爽やかな青年でした。そうして厚木市のために働いていた40代半ばの頃、体調が悪化し、車椅子での在宅生活が始まりました。
書籍:車いすからこんにちは

— そこからなぜ、ご自身で重度訪問介護の事業所を立ち上げるに至ったのでしょうか?

内海:在宅生活になり、自分のケアをしてくれるヘルパーさんを探したのですが、事業所から「対応できるヘルパーがいない」と断られてしまったんです。これが現実かと痛感しました。
それならば、同じように困っているALSや脳性麻痺の方々のためにも、「自分で仲間を集めてやるしかない」と。それが約20年前、最初の事業所を立ち上げたきっかけです。
内海さんと岡さん
内海さん(左)と岡さん(右)

— 利用者さんご自身が、内海さんのように事業所を立ち上げるケースはあるのでしょうか?

岡: 実は、この業界では決して珍しいことではないんです。特にALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんに多いですね。
既存のサービスだけでは生活が成り立たないため、例えばALSの旦那さんが自分で事業所を立ち上げ、奥様を従業員として雇用してお給料が発生する形にする、といったケースはよく耳にします。
自分たちの生活を守るために、自分たちで「仕組み」から作ってしまう。それくらい切実な状況から生まれる選択肢の一つなんです。

— なるほど、生きるための能動的な選択なんですね。岡さんは、どのような経緯でこの世界へ?

岡:私は元々、保険会社の営業職をしていました。当時の保険屋仲間が、内海さんの事業所で働いていて「重度訪問介護のアルバイト、やってみない?」と誘われたのが入り口です。
資格(統合課程)を3日間で取得して内海のケアに入ってみたら、保険の仕事よりも直接的に人の役に立てる手応えがあって。そこからどっぷりとこの世界に入り、現在は保険会社を退職してまさみつ合同会社にフルコミットしています。

ALS・脳性麻痺でも自分らしく暮らすために。厚木市で実現した重度訪問介護の新しい形

— 内海さんは以前、厚木市内で「奇跡」という大きな重度訪問介護事業所を運営されていたと伺いました。

内海:はい。前の事業所は18年ほど運営し、スタッフ40名、年商1億円規模まで成長しました。厚木市の重度訪問介護事業所としてはかなり有名になり、ALSや脳性麻痺の利用者さんも4〜5名抱えていました。
しかし、組織が大きくなるにつれ、「小回り」が利かなくなっていきました。
内海さん利用の車椅子のレバー

— 小回りが利かない、とは具体的にどういうことでしょう?

岡:人数が増えると、どうしても管理や効率が優先されます。利用者様一人ひとりの「今、これがしたい」という細かい要望に応えるのが難しくなるんです。
内海さんは「もっと利用者一人ひとりの人生に寄り添いたい」という想いが強かった。そこで、あえて大きな組織を離れ、小回りの利く新しい会社として「まさみつ合同会社」を2年ほど前に立ち上げました。

— 現在の体制はどうなっていますか?

岡:現在はスタッフ11名体制で、内海さんの重度訪問介護を24時間365日、完璧に行う体制を構築しています。
「たった1人のために11人?」と思われるかもしれませんが、ALSや脳性麻痺の方を在宅で支えるには、これくらいの人数が必要なんです。スタッフにも生活がありますし、急な体調不良もあります。1ヶ月に1〜2回は必ずシフトの穴が出ますから、そこを埋めるためにも、厚みのある人員配置が不可欠なんです。
内海さんを介助している様子

生活の質を高める“こだわり”。美味しい食事・入浴・外出を支える厚木市の重度訪問介護

— 一般的な訪問介護と、合同会社まさみつが提供する重度訪問介護の決定的な違いはどこにありますか?

岡:徹底的に「生活の楽しみ」を追求している点です。多くの事業所がリスク管理のために切り捨ててしまう「食」と「入浴」、そして「外出」に、私たちは全力で取り組んでいます。

— 具体的に、「食」についてはどのようなこだわりが?

正直に申し上げますと、重い障害をお持ちの方、特にALSや脳性麻痺などで体が自由に動かせない方にとって、「食べること」は残された数少ない、本当に大切な楽しみなんです。パソコンやネットが普及したとはいえ、外にも行けず、ベッドの上で過ごす時間が長い方にとって、「食」の喜びは何にも代えがたいものです。
お食事の様子

— しかし、現実はそうではないと?

岡:はい。多くの事業所では「食中毒を起こしたら責任が取れない」といった理由で、ヘルパーによる調理を禁止しています。その結果、毎食が宅配のお弁当になってしまう。
利用者さんたちは口を揃えて「飽きた」「またこれか」と仰います。毎日代わり映えのしない弁当では、生きる気力も湧きません。だからこそ、うちでは私が手作りで食事を作り、家庭の味を提供しています。内海さんにはこの環境に対して「幸せものだよ」って言っていますね(笑)。

— お風呂に関しても課題があるそうですね。

岡:ほとんどの方が週2回の「訪問入浴サービス」を利用されていますが、これは1時間きっかりで準備から入浴、撤収まで終わらせる、まさに「流れ作業」的なお風呂なんです。
「もっとゆっくり浸かりたい」「好きな時間に入りたい」と思っても、制度と時間の壁があります。私たちは自宅のお風呂にリフトなどを設置し、もっと手軽に、快適に入浴できる環境を作りたいと考えています。
お風呂での介助用リフト

— そして「外出」に関しては、かなりアクティブに活動されていると伺いました。

岡:そうですね。外出に関しては、この間は厚木市から名古屋まで遠征しました。あとは立川の方へ出かけたりもしています。
内海:釣りもやりますよ。海釣りです。釣った魚を捌いて食べるんです。

— 海釣り! それはすごいですね。

岡:横浜の金沢八景に、車椅子対応の船宿があるんです。バリアフリーの釣り船が出ているので、今そこにみんなで行こうと計画を立てているところです。

— これからの目標や、行きたい場所はありますか?

岡:今度は、富士山に行く予定です。
移動も準備も大変ですが、内海が行きたいと言っていますから。どうやったら実現できるかを考えるのが私たちの重度訪問介護です。
内海:ALSや脳性麻痺だからといって、家の中に閉じこもっている必要はありません。
美味しい手料理を食べ、毎日お風呂に入り、行きたい場所に行く。そうやって「一人の人間として楽しむ」ことを、何よりも大切にしていきたいですね。
竹富島へ旅行したとき

— それらを実現するには、スタッフのスキルも求められますね。

岡:そこが一番の問題なんです。ここに来ているスタッフは優秀ですが、業界全体を見渡すと「外出支援」や「入浴介助」ができるヘルパーは限られています。
「腰を痛めるから嫌だ」「排泄介助を一人でやるなんて無理」と断られてしまうケースも非常に多い。ALSや脳性麻痺の方のケアは、技術と体力、そして何より「一緒に楽しもう」という気概がないと務まりません。

介護の負担を笑顔に変える。ALS・脳性麻痺の利用者とヘルパーの最強チームワーク

— ALSや脳性麻痺の方を24時間365日支えるには、多くのスタッフが必要です。11人のチームはどのように集めたのですか?

岡:実は、求人広告を出したことは一度もなく、すべて紹介なんです。
医療介護の交流会「医介塾」で、内海さんの昔からの友人を通じて知り合った方や、私の保険会社時代の元同僚など、信頼できるルートでスカウトしています。採用基準は、私の直感で「この人、介護に向いてそう」「いいヘルパーになりそう」と感じるかどうかですね。

— あくまで「人柄」と「相性」重視なんですね。外国人材の活用についてはどうですか?

岡:そこも相性ですね。例えば以前、友人の紹介で外国籍の方が「やりたい」と来てくれたことがありました。でも、「これダメよ!」「こうしなきゃ!」と少し言い方が強くて、内海さんには合わなかったんです。
ALSや脳性麻痺のケアは、身体的な介助だけでなく、繊細な心のコミュニケーションが不可欠です。だからこそ、形式的な求人ではなく、その人の人となりを知れる紹介にこだわっています。
岡さん

— それだけの人数がいると、スタッフ間の人間関係の調整も大変ではありませんか?

岡:それが、うちは全く揉めないんです。
秘訣は「なるべくヘルパー同士を顔合わせさせない」こと。シフトの交代はすれ違いですし、連絡はすべて「ノート」のみです。直接会う機会を減らすことで、余計な派閥やしがらみが生まれず、かえって利用者である内海さんのことに集中できる環境ができています。

— 顔を合わせない分、心の結束はどうやって作っているのでしょう?

内海:交換ノートでの繋がりがすごいんですよ。
岡:以前、内海さんが夜中に全く寝てくれない時期があったんです。脳性麻痺やALSの方のケアでは体位変換が必要ですが、その時は4時から6時まで、5分おきに呼ばれて「あっち向く」「こっち向く」の繰り返し。スタッフ全員が寝不足で、正直かなり苦労しました。

— それは大変でしたね。その時に辞めてしまうスタッフはいなかったのですか?

岡:それが、誰も辞めなかったんです。それどころか、ノートに「昨日の夜はこんなに大変だった」と書き込んで、みんなでそれを笑い話にして共有したんです。
苦しい状況をユーモアに変えて共有することで、不思議と団結力が生まれました。そんな私たちの結束を「内海軍団」と称しています(笑)
今では「内海さんが心配だから」と、急な欠勤が出ても「誰もいなかったら私行きますよ」と自然にカバーし合える。顔は合わせなくても心で繋がっているこのチームワークこそが、質の高い重度訪問介護を提供できる最大の理由です。

障害理解は「対話」から広がる。厚木市で進むALS・脳性麻痺への共生と重度訪問介護の未来

— 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

内海:今後は介護タクシー事業を本格的に始めたいと考えています。
現状、ALSや脳性麻痺などの重度障害者が外に出るのは本当に大変です。一番の理由は、移動手段がないことと、外出支援ができるヘルパーが圧倒的に不足していることです。
岡:そうなんです。室内でのケアはできても、外出となると対応できない、あるいは断られてしまうケースが非常に多いのがこの業界の課題です。
うちのスタッフでも「外はちょっと…」という方はいます。だからこそ、自分たちで移動手段を持ち、外出のハードルを下げて、不足している部分を補っていきたいんです。

— そこまでして「外出」にこだわる理由はどこにあるのでしょうか?

内海:障害者のことを知らない人に、僕たちの姿を見てもらいたいからです。
家の中にいては何も変わりません。外に出て、社会と接点を持ち、いろんな人に見てもらう。そうすることで、障害に対する理解が深まっていくはずです。
内海さん
岡:外に出れば、いろんなことが分かり始めますからね。
そして最終的には、内海さんのように、自分の希望をちゃんと通せるヘルパーさんと巡り会える方を一人でも増やしていきたいです。

— 理想のヘルパーさんとの巡り合い、ですね。

岡:はい。そして、今うちにいるヘルパーさんたちのような、利用者さんのことを心から想ってくれるヘルパーさんを、もっと世の中に増やしていきたいですね。
ここに来てくれているスタッフは、「もしこの日、人が足りなくて私が一人になっちゃったら…」と相談すると、「誰もいなかったら私行きますよ!」と、自ら手を挙げてくれる方ばかりなんです。
内海:そういう人間関係を、もっと広げていきたいですね。
岡:さらに、ここで私たちが実践している「楽しみを奪わないケア」や「チームとしてのマインド」を、ある種カリキュラム化して伝えていけたらと考えています。
そうして熱い想いを持ったヘルパーさんを育てることが、結果としてALSや脳性麻痺の方々が「自分らしく生きる」ための選択肢を増やすことに繋がると信じています。
内海:重度訪問介護は、ただ生かすための制度ではありません。「楽しむ」ための選択肢があることを、私たちは証明し続けていきたいと考えています。

【重度訪問介護】まさみつ合同会社

まさみつ合同会社

お問い合わせ

〒243-0035
神奈川県厚木市愛甲4-10-14
TEL:046-280-5774
MAIL:masamitsu41014@gmail.com
障害福祉情報サービスかながわ

重度訪問介護とALS・脳性麻痺 支援の“よくある疑問”

Q1. 重度訪問介護とはどのようなサービスですか?
A. 重度訪問介護は、ALS・脳性麻痺など常時介護が必要な方に対し、身体介護・生活援助・見守りを一体的に提供する制度サービスです。外出支援や夜間のケアも対象となり、利用者の生活リズムに合わせた柔軟な支援が特徴です。
Q2. ALSや脳性麻痺の方が重度訪問介護を利用するメリットは?
A. 呼吸補助・体位交換・コミュニケーション支援など専門性の高いケアを受けられ、生活の安全性が向上します。また、外出や趣味など「やりたいこと」に挑戦しやすくなり、QOL(生活の質)の維持・向上につながります。
Q3. 厚木市ではどのような重度訪問介護の取り組みがありますか?
A. 厚木市では、地域の事業所がALS・脳性麻痺への専門的支援を強化し、24時間体制でのケアや外出サポートを積極的に提供しています。利用者・ヘルパー・家族が連携し、生活の細かな希望を実現する支援体制が整っている点が特徴です。
Q4. 重度訪問介護を利用するための手続きは?
A. まず市町村の障害福祉窓口で申請し、障害支援区分の認定を受けます。その後、サービス等利用計画(相談支援専門員が作成)に基づいて事業所を選び、訪問介護が開始されます。申請から利用開始まで1〜2か月程度が一般的です。
Q5. 家族が介護に疲れている場合でも利用できますか?
A. もちろん可能です。重度訪問介護は“家族の介護負担軽減”も目的のひとつで、夜間や長時間のケアを事業所が担うことで、家族が休息を確保できます。家族とヘルパーの役割分担により、継続的に在宅生活を支える環境が整います。
FAQ:重度訪問介護によくある質問