松本忠幸事務長寄稿|厚別ホームケアクリニックのどかで訪問診療を支える元ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカー 最終更新日:2026/07/12

在宅医療の現場は、医師や看護師だけで成り立っているわけではありません。患者さんやご家族、ケアマネジャー、訪問看護、薬局、病院、地域の関係機関をつなぎ、時に影日向となって訪問診療クリニックを支える存在が「事務長」です。今回から始まる新企画「訪問診療クリニック事務長のリアル」では、在宅医療の裏側で奮闘する事務長にスポットライトを当てます。第一弾は、札幌市厚別区の厚別ホームケアクリニックのどか 松本忠幸事務長による寄稿です。元ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカーとしての経験をもとに、厚別区・白石区・清田区の在宅医療を支える日々と、訪問診療クリニック事務長のリアルをお届けします。
厚別区で在宅医療・訪問診療に取り組む厚別ホームケアクリニックのどか
札幌市の厚別区にて訪問診療を中心に展開している厚別ホームケアクリニックのどかで事務長をしております松本と申します。当院は昨年9月に札幌市厚別区で4番目の在宅療養支援診療所として開院しました。現在スタッフは医師1名、看護師1名、事務長1名、事務員1名、医療ソーシャルワーカー1名。そして今年の3月に居宅介護支援事業所を立ち上げ、そこに従事する主任ケアマネジャー1名、総勢6名だけのミニマムなクリニックです。
訪問範囲は札幌市厚別区・白石区・清田区・隣接する江別市・北広島市となっており、北海道という立地ゆえ、冬期間になると交通渋滞が頻発するため訪問範囲はある程度抑えた感じで稼働しています。現在個人宅患者と施設入所患者の比率は7:3程度です。

訪問診療クリニックを支える事務長のリアルな役割
私が訪問診療を実施しているクリニックで就労するのは、当院で3か所目、8年程となります。うち事務長としての経験は7年程です。私は長らくケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーといった相談援助職として働いていたため、医療事務の経験が全くありません。今でも通常業務における細かい算定やレセプトについては、全くの素人です。これから先も医事課のプロの方々には到底敵わないと思います(笑)。
では私の事務長としてのリアルは何処にあるかというと、いつも暇そうにしているのでいつでもスタッフの悩みや困りごとや相談(医療相談や介護相談に関しても)について即座に対応し、聞けること。一緒に考えることを大切にしています。悩みごとや相談ごとの話になると元相談援助職の血がたぎります(笑)。
それと環境整備には力を入れています。気持ちよくスタッフが働けるよう、クリニックの清掃・整理整頓、特に玄関は重点的に清掃しています。またバックオフィス業務については私が中心となり積極的に行っています。
事務長としての仕事は「交渉役」だけではなく、主に「調整役」と考えており、院内・院外の様々な調整事を一手に担っています。
札幌市内の医療機関への挨拶廻り、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、介護保険施設への挨拶廻りも定期的に実施。札幌には全10区で地域包括ケア連絡会という医療と介護の多職種勉強会が各区で開催されており、自分の所属している区以外の別区の連絡会にも参加し、顔繋ぎと情報交換をしています。
私の地域には、地域包括ケア連絡会以外に厚別区医療連携ネットワークという協議体があり、年3回主に厚別区内の医療機関、診療所、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、介護老人保健施設など多くの関係機関が参加し、看護師・MSW・相談員・ケアマネジャーなどの職種が集まり、毎回テーマを決めて会議を実施しています。
この厚別区医療連携ネットワークも今年で開設10年となり、現在幹事である私と、とある医療機関で連携室の室長をされていた方と一緒に立上げ、区内の公的病院や大きな総合病院巻き込んで現在に至っています。今では懐かしい思い出です。
地域活動と並行し、事務長として診療報酬改定における情報収集、改定後の試算を行い、毎月の収支・支出の確認(P/L損益計算書・B/S貸借対照表・C/Fキャッシュフロー計算書)し、主に経営部分の対応もしています。
今年実施されると思われる個別指導の対策や就業規則の作成(人数的には必要ないのですが)も行っています。また院長と共に今後のクリニックの方向性や展開を短期・中期・長期に分けて考えています。
院長とは週1回の頻度で経営や方向性、人事(人間関係)、高額な購入物品などについて協議し、情報共有・共通認識を高めています。また院内の金銭管理に関しては、私が「金庫番」として担当し、院長には結果のみ報告をしている状態です。但し院長は医師ですので、言葉使いも含め、適度な距離感を置き、一人のビジネスパートナーとして良きお付き合いをさせてもらっています。

元ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカーが訪問診療の事務長になるまで
文系の大学を卒業後、私が最初に就職したのは大阪府南部にある金属加工会社でした。私は業務部という部署に配属となり、全国にある支店の営業さんや同業界の他社の営業さんから発注を受け、製造する製品のデザインやサイズの確認、金額交渉、納期調整、発送を請け負っていました。
既製品より、フルオーダーの製品が多く、営業さんの持つ商品のイメージと実際の商品のイメージを合わせるのはパソコンが発達していない時代でしたので、かなり大変でした。業務部の事務所の隣には製造工場も併設されており、現場にはいかにも職人さんという強面の方々が沢山いました(笑)。
営業さんと製造工場との納期調整のやり取りが今の私の「調整力」に大きく影響を与えたのは間違いありあせん。営業さんに良い顔をするため依頼された納期で職人さん達に依頼すると、「こんな納期でできるかい!」と依頼書をその場で捨てられ、全く話を聞いてもらえませんでした。また職人さん側の意向の納期を営業さんにそのまま伝えると即クレームになりました。
人と人との間に挟まれ、揉まれた社会人一年生の私が浴びた洗礼は大きなものでした。それ以降は納期の短い発注がくると製造ラインの手伝いをし、強面職人さん達と雑談を含めた会話が出来るようになってからは、少しずつ仕事がスムーズになりました。
今の時代なら絶対パワハラと言われる話ですが、この構図は医療ソーシャルワーカーの世界と全く同じでした。患者・家族さんの意向のみ聞いて、良い顔をすることは仕事としては楽で感謝される。しかし医療機関の現場からはクレームが来る。医療機関側の都合ばかりを患者さん・家族さんに押し付けるとこれもまたクレームになる。
丁度「いい塩梅」の接点を見つける「調整力」と丁寧な「説明」は医療ソーシャルワーカーとして必須です。これを社会人一年生で身に付けたことは本当に良かったと感じています。
また製造工場の強面な方々とぶつかり合ったことで、医療ソーシャルワーカーとして強面で怖いと言われている医師と対峙する際も「強面職人さん達に比べたら、先生はまだ優しいな」と不謹慎にも思っていたくらいです(笑)。

在宅医療の相談を簡単に断らない、元相談援助職事務長の流儀
私は「昭和な厚別おじさん」と言われます。最近の流行りのようにSNS等で華やかな情報発信するタイプではありません。私の集患術はどちらかというと、昔ながらの「足で稼ぐ」タイプで、いわゆる「ドブ板営業」です。
これは私が大阪市西成区の居宅介護支援事業所のケアマネジャーとして勤務していた頃からの常套手段で、22年前から変わらずこのスタイルを貫き、昨今デジタルの時代に、かなり効率の悪く時間のかかる方法で集患してきました。
医療機関の地域医療連携室(患者サポートセンター)、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、介護保険施設など 札幌市内、近郊市外(昔はかなり遠方まで行っていましたが)を廻り、人と会い、顔を覚えてもらい、「困った患者さんがいたら、まず相談してください!」それをずっと繰り返してきました。
今思うと「患者さんを紹介してください」という営業をしたことはありません。私は「営業をしている」という感覚が少ないからです。なぜなら、ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカーとして長らく仕事をしてきた私にとって、一番大切なのは「ご紹介をいただくこと」ではなく、「困っている人の話を聞くこと」だからです。
患者さんのご紹介に繋がらないことも多々ありますし、ご紹介を頂いても訪問診療に繋がらないこともあります。時には全く関係のない雑談などだけで終わることもあります。でも、それで良いのです。何となく私たちが居るということ、困った際に相談できる場所があるということを ほんの少しでも思い出してもらえる。それだけで良いと思っています。
私たちはプロなので「できません」だけで終わらせません。

訪問診療の新規相談には、ハードで難しいケースが少なくありません。独居・認知症・精神疾患・難病・高次脳機能障害・老老介護・認認介護・経済的困窮・身寄りなし・医療介護のサービス拒否・家族関係の問題・医療依存度の高い状態などなどケースによって全く異なります。
ケアマネジャーさんや医療ソーシャルワーカーさんも、「どこに相談したらいいだろう……」と悩みながらご連絡をくれます。当院の診療エリアや体制の問題から、どうしてもお引き受けできない場合もありますが、私たちは「できません」だけで話を終わらせたくありません。
時には「こういう方法はどうでしょう?」「この地域なら、〇〇クリニックさんが相談に乗ってくれ、訪問診療を実施してくれるかもしれません。」と提案をし、一緒に考えることを大切にしています。
これがケアマネジャー・医療ソーシャルワーカー時代から変わらない私がプロとして考える「簡単に断らない流儀」です。
私に特別な営業力はありません。ひたすら「ドブ板営業」を継続しています。
私がやってきたことは、とてもとても地味なことです。
・地域を回る
・迷惑にならない程度に顔を出す
・雑談をする
・電話をする
・訪問診療の状況FAXを流す
・地域の集いに顔を出す
・一緒に考える
・約束したことは必ず守る
・紹介患者さん・家族さんを最後まで責任を持って支える
・迷惑にならない程度に顔を出す
・雑談をする
・電話をする
・訪問診療の状況FAXを流す
・地域の集いに顔を出す
・一緒に考える
・約束したことは必ず守る
・紹介患者さん・家族さんを最後まで責任を持って支える
ただそれを繰り返してきただけです。派手さは無く、効率も悪いかもしれません。でも、人と人との信頼関係は、近道のできない世界だと感じています。
私は当院の院長を含めたスタッフの診療・対応に絶対の自信があります。地道に一件、一件のケースを大切にし、売り込むより訪問診療を通じ信頼を積み重ねている最中です。

厚別区・白石区・清田区で訪問診療を行う厚別ホームケアクリニックのどかの特徴
当院は総勢6名、平均年齢50歳の少数精鋭ロートル軍団です(笑)。
6名とも前職が一緒であるため、お互いの長所・短所も分かった上で働いており、全員大人な対応も出来る方々なので人間関係のストレスは少なく、お互いがマルチタスクで動き、お互いを補完し合っている状況です。
実際の業務はマルチタスク過ぎて大変ですが、現状、訪問診療部門において職員の増員などは一切考えていません。訪問看護ステーションなどは地域資源を活用・連携し、出来る限りミニマムなまま「町の小さなクリニック」を突き詰めていく予定です。
当院は特別な場合を除き、ほぼ全ケース医療ソーシャルワーカーによる事前面談を実施し、患者さん・家族さんに訪問診療のシステムや医療費などを説明、ご理解を頂いた上で初診日を決め、診療を開始しています。そのため訪問診療開始後のクレームは殆どありません。
またアウトソーシングできるものは積極的に取り入れています。医療事務が居ないのでレセプト等の医療事務・介護事務部分は外部委託。患者さんへの請求書の準備・郵送も外部委託しています。
カルテ作成に関してはAI音声入力システム「medimo」も活用し、医師・看護師の業務負担を軽減しています。様々なシステムを取り入れながら6人が本来の専門性を発揮できる環境整備を進めています。

厚別区の在宅医療を支える「昭和な厚別おじさん」が語るこれからの訪問診療
昭和な厚別おじさんも齢57歳。残りの人生そう多くありません。やれることは貪欲にやっておきたい思いが強くあります。
特に「地域に根差す」ということをより一層進めていこうと思っています。
2026年の診療報酬改定は訪問診療にとっては大きな変革期になったと考えます。そして明確になったのは、外来の延長線上が訪問診療だということです。
訪問診療のクリニックは開設時に初期投資がかからないようマンションの一室などで行うところも多く、当院もアパートの一室を借りています。但し、医療を知らない一般の人から見れば、マンションやアパートの一室にクリニックが在るのは不自然に映っていると思います。
本当の意味で地域に根差していくためには、地域に開かれ、認識される外来診療を展開し、身体状態や認知能力などの低下で外来に来ることが難しくなった方々を訪問診療にて継続診療をしていく、この極めて当たり前な流れが必要であると考えています。近い未来当院でも地域に開かれた外来診療ができるよう進めていきます。
現在進行中のミッションとしては、地域の一人医師の訪問診療クリニックと連携し、互いに副主治医として代診・往診をしてもらい、医師の休暇を取得できるシステムを考えています。
外部委託が得意な私たちですが、ここの部分に関しての外部委託は、患者さん・家族さんの利益に関して??と思うところもあるので、夜間往診代行システムの業者を一切利用せず、同じ地域で同じ電子カルテ、同じ会社にレセプト外部委託している訪問診療クリニックの院長先生にお声かけし、構想を聞いて頂いた上で、システム構築を進めている途中です。
先日、連携予定の訪問診療クリニックの事務方さんに私が考えた医療連携(案)を説明、お渡しし、先方においてもご協議していただくことになりました。何とかこのシステムを完成、稼働させ、同じ地域で一人医師として頑張っておられる先生方のお力になれればと思っています。

在宅医療の現場で求められる訪問診療クリニック事務長の未来
訪問診療クリニックの事務長。その出身は様々です。医療機関やクリニックの医事課出身もいれば、セラピスト、検査技師、MSW、MR、そして全く異業種から飛び込んできた方もいます。
正解は一つではありません。大切なのは、自分の強みを知り、その強みが必要とされる場所で力を発揮すること。幸いなことに、訪問診療の世界には、まだまだチャンスがあります。私は、楽天家らしくこう思っています。
「訪問診療クリニックの事務長の未来は明るい」と。
そして私「昭和な厚別おじさん」も、まだまだ現役です。今日も地域を走り回りながら、「困ったら、まず相談してみよう」そう思ってもらえる存在であり続けたい。
それが、元ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカー事務長である私の、ささやかな誇りです。
厚別ホームケアクリニックのどか|厚別区・白石区・清田区の訪問診療・在宅医療

お問い合わせ
〒004-0065 北海道札幌市厚別区厚別西5条6-8-15グランデュエル102
TEL:011-398-4542/FAX:011-398-4549
WEB:http://nodoka-ndk.com
TEL:011-398-4542/FAX:011-398-4549
WEB:http://nodoka-ndk.com
松本忠幸事務長プロフィール|厚別区の在宅医療・訪問診療を支える歩み

経歴:
1993年 札幌市内の文系私学大学卒業
1993年 大阪府南部にある金属加工会社~婦人服製造・卸会社
1997年 大阪府高石市の療養型医療機関の看護助手
1999年 大阪府高石市の介護老人保健施設の介護福祉士・ケアマネジャー
2004年 大阪市西成区の居宅介護支援事業所のケアマネジャー
2007年 大阪府岸和田市の急性期医療機関の医療ソーシャルワーカー
2008年 大阪市西成区のケアミックス医療機関の医療ソーシャルワーカー
2009年 和歌山県橋本市の急性期医療機関の医療ソーシャルワーカー
2012年 北海道北広島市の療養型医療機関の医療ソーシャルワーカー
2014年 札幌市厚別区のリハビリ・療養型医療機関の医療ソーシャルワーカー
2018年 北海道北広島市の訪問診療クリニックの医療ソーシャルワーカー
2018年 札幌市厚別区の外来診療・訪問診療クリニックの事務長・医療ソーシャルワーカー
2025年 厚別ホームケアクリニックのどか事務長
現在に至る
1993年 大阪府南部にある金属加工会社~婦人服製造・卸会社
1997年 大阪府高石市の療養型医療機関の看護助手
1999年 大阪府高石市の介護老人保健施設の介護福祉士・ケアマネジャー
2004年 大阪市西成区の居宅介護支援事業所のケアマネジャー
2007年 大阪府岸和田市の急性期医療機関の医療ソーシャルワーカー
2008年 大阪市西成区のケアミックス医療機関の医療ソーシャルワーカー
2009年 和歌山県橋本市の急性期医療機関の医療ソーシャルワーカー
2012年 北海道北広島市の療養型医療機関の医療ソーシャルワーカー
2014年 札幌市厚別区のリハビリ・療養型医療機関の医療ソーシャルワーカー
2018年 北海道北広島市の訪問診療クリニックの医療ソーシャルワーカー
2018年 札幌市厚別区の外来診療・訪問診療クリニックの事務長・医療ソーシャルワーカー
2025年 厚別ホームケアクリニックのどか事務長
現在に至る
資格・学会:
2級ヘルパー
介護福祉士
介護支援専門員
主任介護支援専門員
社会福祉士
介護福祉士
介護支援専門員
主任介護支援専門員
社会福祉士
本企画「訪問診療クリニック事務長のリアル」では、在宅医療の現場を影日向となって支える事務長にスポットライトを当て、その役割や想い、日々の奮闘をお届けします。
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