1. おうちde医療
  2. >
  3. 在宅医療コンテンツ
  4. >
  5. 在宅医療における「食」の幸福感を支える多職種連携と管理栄養士の役割

在宅医療における「食」の幸福感を支える多職種連携と管理栄養士の役割 最終更新日:2025/01/10

在宅医療における食の幸福感を目指して
「食」での幸福感の実現、訪問歯科・口腔ケアの普及啓蒙を目的として、1つのテーマに対して、歯科医、管理栄養士、言語聴覚士がそれぞれの立場にて解説する新たな企画「在宅医療における食の幸福感を目指して」。
1つ目のテーマは「在宅医療における「食」の幸福感を支える多職種連携と管理栄養士の役割」と題して、管理栄養士の立場として、井上美穂管理栄養士(ふれあい歯科ごとう)により解説いただきました。
はじめに
食事は生きるために必要不可欠な活動ですが、それが困難になってしまうことがあります。食べられなくなる問題は多岐に渡り、疾患が理由で何を食べたらいいのかわからないという方、身体的な理由で買い物にいけない方、精神的な理由で食べる意欲を失ってしまう方など様々です。また一人ひとり必要な食事の量や種類は異なり、併せて食形態の調整が必要とされるケースは多くあります。
歯科医院には近年、管理栄養士の所属が増えています。訪問歯科診療にかかわるだけではなく、管理栄養士が行う居宅療養管理指導=『在宅訪問栄養指導』があります。
ここでは管理栄養士が行う『在宅訪問栄養指導』、在宅訪問栄養指導に関する多職種連携について、また嚥下障害への対応をご紹介いたします。
1. 管理栄養士が行う『在宅訪問栄養指導』
歯科医院に所属する管理栄養士は、介護保険を使用した居宅療養管理指導として、単独で訪問をすることが可能です。指導に介入するためには主治医の指示が必要となります。
1.1 指導の実際
管理栄養士が指導に介入するためにこのようなプロセスを踏みます。
・事前準備:ケアマネージャーからの依頼や多職種からの依頼をいただき、事前情報を整理していきます。主治医から指示書を発行いただきます。
・初回訪問:実際の指導の前にアセスメントのため訪問します。
・栄養ケア計画書の作成:アセスメントをもとに、一人ひとりにあった栄養摂取量や、食形態のプランを作成します。
・継続訪問:栄養ケア計画書をもとに、栄養指導を行います。必要時にはご家族様やヘルパーへ指導を行うこともあります。
・多職種との連携:担当ケアマネージャーや、主治医、必要な職種へ情報提供(報告書の送付等)を行います。
1.2 実際の指導内容
管理栄養士がどのような指導をしているかをご紹介します。
 アセスメント内容(例) 
・口腔状態の確認
・食事内容の確認
・栄養摂取量の計算
・必要栄養量の算出、見直し
・身体計測
・食事状況(姿勢や自立度など)の確認
・食事回数の確認
・台所や調理器具の確認(料理をされるかの確認)
・生活環境の確認(ゴミ箱や冷蔵庫など)
このような情報の中から、現在の問題点と、その解決策を探していきます。患者さんご本人やご家族に指導内容をお伝えすることもあれば、ヘルパーや看護師、ケアマネージャーへご相談、お伝えすることもあります。
 指導内容(例) 
・食事量、食事内容の提案
・食形態の提案
・調理法、食材の提案
・姿勢の提案
・間食内容の提案
・食べるタイミングの提案
・配食内容の提案
・栄養補助食品の提案
・栄養剤の提案
・レシピの提案
食事内容の提案だけでなく、上記のような様々な内容の提案が行われます。単に食事療法の正解をお伝えするだけでなく、実際に患者さん、介護者が実現しやすい解決策を提案していきます。管理栄養士だけでは実現のしやすい解決法を見出すことは難しいため、ヘルパーやケアマネージャー、看護師との情報交換をしながら、実際の生活、ケアの場面を想定して提案をしていきます。
1.3 効果
管理栄養士が実際に訪問するとどのような効果が得られるのでしょうか。
下記は私が経験した実際の症例に対する効果になります。
・食形態の改善
・褥瘡の改善
・体重の改善(増量、減量)
・血清アルブミン値の改善
・HbA1c値の改善
・腎機能の維持
・血清カリウム値の改善
このほかにも、『食べる』ことに必要不可欠な『幸福感』を取り戻していただくことを目的として、その人がその人らしい生活を送れるような食事内容に近づけていきます。
また中には、口腔内の状態が原因で食べられないことがあり、口腔ケアの必要性をケアマネージャーへ確認したり、歯科医師、歯科衛生士の介入を提案したり、食形態の確認や、嚥下のリハビリテーションを目的として、言語聴覚士の介入を依頼することもあります。
2. 在宅訪問栄養指導に関する多職種連携について
管理栄養士が『在宅訪問栄養指導』を行う中で、多職種との連携は不可欠です。特に近年増えている嚥下障害については歯科医師、言語聴覚士との連携を密に行っていきます。
2-1. 歯科医師との連携
前述したように、口腔内のケアが不足しており、それが原因で食思不振や、誤嚥性肺炎を繰り返しているケースがあります。
 歯科医師への連携内容 
・義歯の相談
・口腔ケア方法の相談
・嚥下状態の確認
・嚥下内視鏡検査(VE)の依頼
などを行います。食事内容やプランが確立されていても、口腔内や嚥下に問題がある場合は摂取できない場合が多いため、歯科医師との連携はきめ細かに行い、食事摂取量が確保できるように連携をしていきます。
2-2. 言語聴覚士との連携
言語聴覚士は主に嚥下障害がある患者さんについて連携をしていきます。
 言語聴覚士への連携内容 
・食材、商品ごとの飲み込みの評価
・嚥下リハビリテーションの依頼
・摂取方法や姿勢の確認
・水分のトロミの評価
歯科医師が嚥下内視鏡検査(VE)を行い、その結果どのレベルまで食事がとれるかを確認した後、実際にどんな食材なら食べられるかを言語聴覚士と一緒に確認をしていきます。患者さんごとに食べられる食材や商品、またトロミの具合は異なるため、きめ細かな連携が必要とされます。
どの介護者が関わる際もスタンダードな嚥下食が提供できるように、管理栄養士が選んだ食材や商品を評価していただく場合もあります。
3. 嚥下障害への対応
嚥下がうまくできない方へは、誤嚥性肺炎の予防のために下記のような指導を行っていきます。主に調理方法の提案や、嚥下状態に合わせた介護食の提案などを行っていきます。
3-1. 食材の工夫
・たんぱく質:脂質の多い食材を選びまとまりやすくする
・野菜:繊維質の食材は避ける(海藻、根菜類など)
・油脂を用いてなめらかにまとめる
3-2. 下処理の工夫
・皮を厚めに剥く(ナス、トマト、カボチャの皮などは剥く)
・通常より長めに加熱する、茹でる、蒸す、煮るなどを用いて軟らかく調理する
3-3. ミキサーにかける際の注意点
・必要な水分を出し汁やスープなどで補い、ミキサーにかける
・ペースト食の場合:トロミ調整食品を入れてミキサーにかける
・ソフト食の場合:ゲル化剤を入れてミキサーにかける
結論
『食べることは生きること』当たり前のことができない現状は多くの場面で想定されます。食を通じた幸福感の実現のためにそれぞれの職種に与えられた役割があり、管理栄養士という食の専門家がその役割の一つを担います。
関連リンク:
在宅医療における「食」の幸福感を支える多職種連携と歯科医師の役割
在宅医療における「食」の幸福感を支える多職種連携と言語聴覚士の役割
 
執筆: