【PICK UP!若手経営者 007】合同会社House Call Agency 松浦京之介代表 最終更新日:2025/01/19
在宅医療界の若手経営者へのインタビュー企画「PICK UP!在宅医療界の若手経営者」。第7回目は新たな訪問歯科サービスとして「House Call Agency」を2024年に創業された歯科医師松浦京之介代表です。これまでの歯科治療、訪問診療での経験、今後の事業にかける思いを熱く語っていただきました。
次世代を担う、歯科の若手経営者
— まずは、先生のプロフィールを教えてください。
佐賀県出身、31歳です。高校卒業まで佐賀県で過ごしました。高校卒業後は、福岡歯科大学へ進学しました。父も歯科医で、同じ大学を卒業しています。曾祖父の代から歯科医の家系で、僕は4代目になります。
— では、生まれた時から歯科医になる、そんな感じだったのでしょうか。
そうですね、歯科医の祖父や父の背中を見て育ったので、小学生の頃には自分も歯科医になるだろうという意識が芽生えていました。
当時の僕の歯は、歯列だけでなく、食事もうまくできないほど嚙み合わせが悪い状態で、中学校3年生から歯列矯正をすることになり、矯正歯科として有名だった鹿児島県の先生のところへ月1回3年間通いました。
治療の結果、歯列も嚙み合わせも大きく改善しました。一時期都会に憧れ、アパレル業も良いかと思いましたが、その先生への憧れのほうが大きくなって、やはり将来は歯科医になるしかないと決心しました。
大学進学後、1年生の時から毎週土曜日、歯科医師の仕事を見るという目的で、父親の診療所で歯科助手としてアルバイトをしました。器具出し、治療中の補助などの歯科医の診療補助が主な業務内容です。歯科医は幼い頃から身近なものでしたが、実際見ている側から提供する側になってみると、嬉しさと楽しさが相まって、6年間アルバイトを継続することができました。そして、合格率60%と言われる歯科医師国家試験を突破し、晴れて歯科医となりました。
— 大学卒業後、1年ごとに環境を変えたとお聞きしました。それぞれのステップで目指していたものについてお聞かせください。
大学卒業後の研修医1年目は、一般診療すべてを診ることができる歯科医になりたいと思い、広島大学病院へ進みました。そこでは、歯周病や小児、総合診療など様々な科を回り、また、半年間は外部の診療所(兵庫県姫路市)に出向し、外来診療を行い、一般歯科治療全般を経験させていただきました。
研修医1年目終了後、インプラントの道に進みます。通常の研修医の学ぶルートは、保険診療から自費診療へと進みますが、僕は保険外診療・自費診療の垣根を問わず、純粋にインプラントを学びたいという気持ちで、自費診療であるインプラントを選択しました。
静岡県にある歯科医院に、インプラントの骨の作製や骨造成に関して、非常に有名な先生がいて、そこで1年間勤務しました。他院でインプラントに失敗した方もくるような医院だったので、インプラントの介入や技術はもちろんのこと、先生の手技なども含め、幅広く学ぶことができました。
そして、インプラント治療を学んでいく中で、インプラント治療の年齢層は50代から70代が中心で、加齢や内科疾患などを理由に、治療やメンテナンスへ通うことができなくなるケースに多々遭遇しました。
高額な医療費と時間をかけた後の治療をどう継続していくのかということに大きな課題を感じ、その課題を解消する方法は訪問診療との仮説の元、訪問診療へ進むことを決心しました。
— 訪問診療に進んで感じたこと、気づいたことは何になりますか。
訪問診療を学ぶため神奈川県横浜市に移りました。拠点先の医院から、半径16キロ以内の訪問診療を担当し、1日60から70名ほどの診療をしました。訪問先の多くは施設で、以前インプラントの治療を受けたものの、治療やメンテナンスに通うことができず、歯の状態がかなり悪くなっている方が結構いました。まさに課題と思っていたことが、目の前にあったのです。あらためて訪問診療の大切さを認識しました。
訪問診療を1年間経験したあと、次は経営を学ぶため、Uターンで佐賀県の実家に戻りました。父は4カ所の医院を経営し、訪問診療および総合診療部を立ち上げることになり、その1拠点を任され経営を学ぶことになりました。
営業面では、半径16キロ圏内にある地元の法人やケアマネージャーへ、訪問診療の必要性やメリットなどを説明して回り、徐々に訪問先を増やしました。
診療面では、歯科医である叔父と2人で行い、僕は補助的な役割を担いました。
その後事業は順調に進み、途中コロナ禍で訪問診療を控える施設が増えたものの、事業は安定したため、ここも1年で終えました。
— 高輪会では新たな学びがあったようですね。
そこから、現職の高輪会に移ります。高輪会は、歯科法人として、日本でもっとも訪問診療および外来診療を行っていると言われ、歯科医は非常勤も含めると約300名が在籍しています。
僕は一つの医院との委託契約を交わし、週6回の外来診療および訪問診療をしています。訪問診療は、施設にて1日平均40人を診ています。
高輪会は医療スタッフの充実に加え、オフィス部門の充実も特筆すべきものがあります。
営業、契約、診療の調整・配置、事務作業が部門ごとに完全分業化・システム化されており、大規模法人が滞りなく機能するノウハウが出来上がっており、経営におけるシステム化の重要性も学んでいます。
訪問診療を通し、合同会社House Call Agencyを立ち上げる
— 合同会社House Call Agencyを立ち上げたきっかけについて教えてください。
訪問診療をする中で、ミールラウンド(昼食時に聴診器をあてて、嚥下検査)をする機会が多くありました。ミールラウンドをできる歯科医は少ない現状で、高輪会では数人の嚥下チームがあるので、日本全国、検査希望のある施設などへ派遣していました。
ミールラウンドのニーズは高いのですが、嚥下チームは少人数のため、対応できる数には限界があります。それを改善するため、僕はオンラインでも検査対応が可能ではないかと考え、高輪会に事業化を相談しました。高輪会からの賛同を得ることができ、また、立ち上げは早い方がいいとのことで、相談から3ヵ月ほどで事業立ち上げに至りました。
— 立ち上げ後、課題として感じていることは何になりますか。
事業立ち上げ時は、施設へ直接連絡をし、ミールラウンドに興味がある施設に対し、ミールラウンドのできる医院を紹介していました。今までのネットワークを活かし、医院と施設をつなぐ役割です。
現在は紹介事業から路線変更して、オンラインでミールラウンドを代行することを施設へ提案しています。施設に電子頸部聴診器を送付し、オンラインで検査を行うものになります。
機器の使用はご家族では難しい面があるため、施設のみを対象としていますが、今後は在宅でのニーズも高まると考えていますので、訪問看護等の協力を得られるようなシステム構築を検討中です。
課題は、通信環境の安定化です。通信障害などが発生するとオンライン検査はできなくなるので、一層の通信の安定を望むとともに新たな仕組みの構築も考えています。また、現在は検査のみで診断は行っていませんが、検査し診断するのが通常の流れなので、オンライン検査の精度を上げ、オンライン診断を実現させていきたいですね。
— 今後取り組んでいきたい事業についてお聞かせください。
ミールラウンドだけでなく、オンラインでのリハビリ実施や嚥下調整食の宅配サービスを検討していきたいと考えています。施設では決められた食事の提供となり、歯の状況や嚥下機能が落ちている患者さんが施設で提供される食事を食べられないことがあります。それらを解消するために、嚥下調整食の宅配サービスにニーズがあるのではないかと考えています。嚥下専門の歯科医監修の宅配サービスであれば、安全安心を提供できると思います。
日本における歯科医療の未来を見据えて
— 歯科全体の課題と、目指すべき在宅医療の未来像を教えてください。
歯科医師は現在10万人ほどいて、人数過多と言われており、これ以上、歯科医師を増やさないように歯科医師国家資格の合格者数を減らしているという現状があります。それにより、現役の歯科医師の高齢化が進行していき、今後廃業した際、歯科医が足りなくなるという懸念があります。
身近なところで見ても、在宅診療の歯科医は少なく、しかも高齢の歯科医の先生がやっていることが多く、訪問診療に関しては、どんどん人手不足が進行すると思っています。将来来るべき人材不足の改善を切に希望します。
そんな人材不足の中、訪問診療のニーズはますます高まっています。
訪問診療の質にも差が出ているため、今後は歯科治療の質向上はもちろん、嚥下を始め、患者さんの全身状態や内科疾患、処方内容にいたるまでトータル的に把握し、診療に多様性をもって取り組んでいくべきであると考えています。
— 最後に患者さんへのメッセージをお願いします。
ミールラウンドの事業は今のところ他に競合がいない状況です。治療を必要としている患者さんに適切な治療を提供するため、誰もやっていないことを創造していくことは、非常に大事なことです。僕にとって、患者さんは家族同様の存在であり、それぞれのニーズを把握し、治療を提供することで、快適な生活ができるよう、これからも共に歩んで行きたいと思っています。これからもよろしくお願いします。
プロフィール:
松浦京之介(まつうらきょうのすけ)
合同会社House Call Agency代表
経歴:
2019年 福岡歯科大学卒業
2020年 広島大学病院研修修了
2020年 静岡県、神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務
2023年 医療法人高輪会にて勤務
2024年 合同会社House Call Agencyを起業
2019年 福岡歯科大学卒業
2020年 広島大学病院研修修了
2020年 静岡県、神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務
2023年 医療法人高輪会にて勤務
2024年 合同会社House Call Agencyを起業