在宅看取り後のエンゼルケアとグリーフケア|家族を支える訪問看護・納棺師・葬儀社の連携【連載第2回】 最終更新日:2026/11/04

大切な人を在宅で看取ったあと、ご家族がともに過ごす時間を、私たちはどのように支えられるでしょうか。故人の尊厳を守り、ご家族のお別れを支えるエンゼルケア。その意味や方法を正しく理解し、医療・介護から納棺・葬儀へと支援をつなぐことは、看取り後の不安や戸惑いに寄り添ううえで大切な視点です。
連載「在宅で生きる、看取る、送る」では、医療・介護・看取り・葬儀に関わる専門職の対話を通じて、看取り後の家族支援を考えます。第2回は、つなぐ葬儀社 襷―TASUKI―の協力のもと、エンゼルケアの正しい理解と、看取りのその先を支える連携をテーマにお届けします。
公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事・看護師の平原優美先生と、つなぐ葬儀社 襷―TASUKI―を運営する株式会社Flat. Central 取締役の千々岩巧さんに、ご家族の想いを大切にしたエンゼルケアのあり方と、医療・介護職と納棺師・葬儀社が日頃からつながることの意義を伺います。
連載「在宅で生きる、看取る、送る」では、医療・介護・看取り・葬儀に関わる専門職の対話を通じて、看取り後の家族支援を考えます。第2回は、つなぐ葬儀社 襷―TASUKI―の協力のもと、エンゼルケアの正しい理解と、看取りのその先を支える連携をテーマにお届けします。
公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事・看護師の平原優美先生と、つなぐ葬儀社 襷―TASUKI―を運営する株式会社Flat. Central 取締役の千々岩巧さんに、ご家族の想いを大切にしたエンゼルケアのあり方と、医療・介護職と納棺師・葬儀社が日頃からつながることの意義を伺います。
在宅看取り後の家族支援|お別れの時間を大切にする理由
— 在宅看取りの後、ご家族はどのような時間を過ごされることが多いのでしょうか。
平原 ご自宅でお亡くなりになり、主治医の先生が死亡確認をして診断書を書かれた後は、すぐに退室されるのが一番多いパターンです。その後は、私たち訪問看護師とご家族が残り、お別れの時間をご一緒することになります。
療養されている間にもご状態は少しずつ変化していくので、ご家族は「お別れが近づいているんだ」という予期悲嘆を抱えながら、辛い思いをされています。それでも、実際に医師から亡くなったと宣告を受けた後の悲しみは、また違うものなんですね。
その悲しみが大きく、まだ受け止めきれないような様子の時は、少しお時間をあける配慮をします。看護師の動きとしては、そのままエンゼルケアに進む方がスムーズではあるのですが、「ご家族だけでゆっくり過ごされますか?」とお聞きして、隣のお部屋に控えさせていただいたり、ご自宅が近ければ一度ステーションに戻って「1時間後にお伺いしますね」とお伝えすることもあります。
少しお別れの時間を作れるかどうかで、その後の受け入れ方が全く変わってくるんです。例えば、遠方から駆けつけ、お元気だった頃とのお姿の違いに驚かれるご家族もいらっしゃいます。そうした際に、ご家族だけで「急だったね」と言葉を交わし、まずはお気持ちを落ち着かせるための時間を持つことがとても大切なのです。
一方で、長く一緒に介護をされてきて、色々なことを一緒にやり切ったというご家族の場合は、そのまま穏やかにお話をしながら「一緒にエンゼルケアをしましょうか」とお声がけします。洗髪なども含めてご生前の面影に近づけるようにケアを行い、ご家族とともに丁寧にお見送りの準備を進めていくんです。
その際、ご本人やご家族の信仰にも配慮し、神道、仏教、キリスト教など、それぞれの宗教に合わせた「死装束をお着せする」「守り刀を納める」といったルールに基づいて一緒に処置を進めていきます。そうして思い出を語り合いながらお身体をきれいにしていると、悲しみの涙の中にもふと温かな笑顔があふれる心通う時間になりますね。

— 葬儀社と納棺師は同じように捉えられがちですが、どのような違いがあるのでしょうか。
千々岩 これは一般の方だけでなく、医療や介護に従事されている方々にも意外と知られていない事実なのですが、「葬儀会社がエンゼルケアをするわけではない」ということをまず大前提として知っていただきたいです。
具体的にどういうことかと言いますと、葬儀会社はあくまで式をプロデュースする役割なんです。葬儀の日程や式場、火葬場をどこにするか、遺影やお花の祭壇、お料理の段取りなどを組んでいくのが仕事です。そのため、ドライアイスを当てることはあっても、「故人様のお身体には触れない」という葬儀社の担当者は結構多いんです。
それに対して、お身体に触れてエンゼルケアを行うのが「納棺師」です。ここも誤解されやすいのですが、ほとんどの葬儀会社は自社に納棺師を抱えていません。エンゼルケアや納棺のご依頼が入った時に、専門で行う納棺会社へ外注し、葬儀会社の人間という立場でご自宅に入ってもらうという形をとっています。
また、納棺師は国家資格ではなく民間資格となります、故に納棺会社によって技術に差や、やり方が違うということも覚えておいていただけると良いかと思います。

— 医療・介護職が、納棺師の役割や事情を知っておくことには、どのような意味がありますか。
千々岩 現在、葬儀会社から外注を受けてご自宅に来てくれる納棺師の多くは、夜間対応をしていない会社が増えています。そのため、夜間にもしものことがあって葬儀会社へご連絡が入ったとしても、納棺師による処置は翌朝に回されてしまうということが結構起きているんです。
一般的に納棺師が自社で葬儀も行っている会社であれば、夜間でもご希望に合わせて伺い、処置をしてそのままお打ち合わせをすることができます。しかし、そういった対応ができる会社が多数派ではない、というのが今の実情としてあります。
平原 訪問看護が入っている場合は、そのまま看護師がエンゼルケアを行う割合が比較的多いです。点滴などの医療的な管が入っている方も多いので、それらをきれいに外し、ご家族の目に触れても安全な状態にする必要があるからです。腹水が溜まっていたり、出血があるような状態だと、医師から「看護師にやってもらった方がいい」とご家族に勧められることもありますし、ご家族からそのまま「やってください」とお願いされることもあります。
ただ、こういった夜間の葬儀社さんや納棺師さんの事情を知っておくことで、ご家族が朝まで不安にならないよう、私たちがどこまでケアをしておくべきか、より適切なサポートにつなげられると感じますし、それと同時に看取り後の家族の時間を大切にすることにもなると思います。
エンゼルケアとは|故人の尊厳を守り、家族のグリーフケアにつなぐ
— 訪問看護の立場から、エンゼルケアはどのような意味を持つケアなのでしょうか。
平原 「エンゼルケア」という言葉だけを切り取ると、亡くなった後に行う単なる処置のように思われるかもしれません。しかし、訪問看護の立場からすると、これまで長く寄り添ってきたケアの、ひとつの通過点のようなものなんです。
療養中は、痛みに配慮しながら身体を動かしたり拭いたりしますが、エンゼルケアの際も、ご本人が生きていらした時と同じように、「ここ、痛かったですよね」「いつもここは辛そうだったから、今日はゆっくりきれいにしましょうね」と声をかけながらケアを行います。 ご家族にもその様子を見ていただき、一緒に身体をきれいにしながら療養生活を振り返ります。
「あの時は本当に辛そうだったけど、今は楽になったね」と語り合う時間は、ご遺族が少しずつ現実を受け止めていくためのグリーフケアにつながります。この時間は、初めてお会いした時から状態の変化に伴走し、同志のように一緒に頑張ってきたご家族と、前を向いていくための大切な過程なんです。

— 正しいエンゼルケアとは、手順や技術だけでなく、どのような視点が大切なのでしょうか。
平原 技術的な面でも、ただお身体をきれいにするだけではなく、「ご生前のその人らしさ」を取り戻していただくことを何より大切にしています。
息を引き取られた直後は、どうしてもお顔にお辛かった時の険しさが残ってしまうことが少なくありません。そんな時、ご自宅でいつも使い慣れていたシャンプーで丁寧に洗髪し、ドライヤーでふっくらと髪を整えていきます。亡くなった後はお顔の皮膚や頭皮が緩みやすくなっているため、優しくマッサージをしていくと、不思議なことに穏やかな表情へと変わっていくんです。
お口が自然に閉じ、まるでお元気だった頃のようなスッキリとしたお顔になると、ご家族も「本当によかった」と安心してお別れができます。そのお姿を拝見して、私たち看護師もようやくホッと胸を撫で下ろすことができますし、想いを尽くすこの時間が、ご家族が心穏やかにお別れへと向かうための、大切な橋渡しになると感じています。
— 納棺師の立場から見て、エンゼルケアの段階で大切にしてほしいことはありますか。
千々岩 平原先生がおっしゃったように、ご生前の面影に近づけることで、ご家族が安心できる状態に整えていくことは本当に大切だと感じています。
実は私たち納棺師も、根本にある想いは全く同じなんです。たとえば髪をきれいにする際、大掛かりな機材を使う「シャワー湯灌」となると、別途費用が発生することもあるかと思います。そのため、ドライシャンプーなどを用いて、ご家族の負担を抑えながらも基本の料金内でできる限りのお手当てをさせていただくケースもあります。
エンゼルケアの段階で何より大切なのは、故人様の尊厳を守り、残されたご家族が少しでも心穏やかに向き合えるお姿に整えることです。現場の看護師さんたちが込めてくださるその温かい想いを、私たちも納棺の現場でしっかりと同じように大切に引き継いでいきたいと思っています。

在宅看取りからお見送りへ|家族の想いをつなぐ看護師と納棺師の役割
— ご家族は、看取り後にどのような不安や戸惑いを抱えやすいのでしょうか。
千々岩 看取りの直後は深い悲しみの中にありながらも、「これから何をどうすればいいのか」という現実に直面します。葬儀の段取りや費用など、分からないことばかりの中で次々と決断を迫られるため、正常な判断が難しくなるほど戸惑われるご家族が非常に多いのです。
また、いざという時にご本人様がどういうお見送りを望んでいらしたのか分からず、「事前にちゃんと気持ちを聞いておけばよかった」と後悔されるお声も少なくありません。だからこそ、残されたご遺族が余計なことで悲しまれたり、後悔されたりしないようにお手伝いしていくことが、私どもの使命だと感じています。
— 納棺師の関わりによって、ご家族の表情や気持ちが変わる場面はありますか。
千々岩 そうですね。ご生前と変わらぬ姿でお別れできるようにケアをさせていただくことは、ご遺族の安心や心の平穏に直接つながります。私どものような納棺師が入ることで、少しでもご家族の悲しみを和らげ、「よかった」と落ち着いてお別れしていただくための環境を整えることができます。
ただ、私自身は、その一番最初のバトンとなる看護師さんのエンゼルケアが本当に重要だと思っているんです。まずはご自宅で看護師さんに適切な処置をしていただけることが、そのままご遺族が安心してお見送りに向かうための土台になっていくと強く感じています。

— ご本人の生活や価値観を知る医療・介護職と納棺師がつながることで、ご家族のお見送りにどのような広がりが生まれると思いますか。
平原 私たち看護師がご自宅でエンゼルケアをさせていただく際、実は納棺師の方と直接お会いする機会はあまりないんです。ただ過去に一度、納棺師の方が来られるまで同席させていただいたことがありました。
その時、本当にご本人の尊厳を守るような丁寧な手さばきや、配慮のあるたたずまいを拝見して、まるで映画のワンシーンを見ているかのようで素晴らしいなと感動したんです。
私たち訪問看護師は、ご自宅での生活を通して、ご本人が好きだったアロマの香りなど、その方らしい価値観をよく知っています。そうした生前の情報や、私たちが行ったケアの想いを納棺師の方に直接お伝えして、同じようにしていただけたら、ご家族も「本人のことを大切にしてくれている」と同じ想いでつながることができて、すごく嬉しいだろうなと思います。
千々岩 本当にその通りですね。実は、医療や介護従事者の方々からのご紹介でご葬儀を承るような場合もあります。現場の看護師さんからそうした故人様の想いをしっかりと引き継がせていただくことで、ご遺族に寄り添った、より解像度の高いお見送りができるようになると思います。
だからこそ、看護師の皆さんにはご自身のケアに自信を持って、積極的にご家族へエンゼルケアをご案内していただきたいんです。納棺師による専門的な処置はオプションサービスとして手配されるケースも多く、その都度ご依頼いただくと、どうしてもご家族の費用負担が大きくなってしまう実情もあります。
最初に看護師さんが想いを込めて適切な処置をしてくださることがご家族の安心につながり、結果的にご遺族のためになります。医療・介護の現場と納棺師が想いでつながることで、ご家族にとって最も心穏やかなお見送りの形を作っていけると思っています。
在宅のエンゼルケアで大切なこと|家族の参加と看護・介護現場のケアの見直し
— 看護師・介護スタッフが、看取り後のケアに関わる際に大切にしたい姿勢は何でしょうか。
平原 病院での看取りを経験されたご家族の中には、「亡くなった後の処置中は、家族は部屋に入ってはいけない」と思っていらっしゃる方が意外と多いんです。病院では廊下でお待ちいただき、その間に看護師が整えるケースが多いため、エンゼルケアは医療者だけがやるものだと遠慮されてしまうんですね。
ですが、ご自宅での看取りはご家族にとって大切なお別れの場です。ですから私たちは、「ご一緒にお手伝いしていただけますか?」とお声がけをしています。最初は「やってもいいんですか?」と驚かれますが、お孫さんなど若い世代の方にも入っていただき、お話ししながら一緒に身体をきれいに整えていくんです。死と生に触れる一番大切な場面をご家族と共有し、温かい記憶として残していただくことを意識しています。

— 医療・介護職が、エンゼルケアについて誤解しやすい点や、知っておいた方がよい点はありますか。
千々岩 現場の看護師さんと私たち納棺師とで、見解が少し異なりやすいのが「詰め物」についてです。病院で先輩から「亡くなられたら穴という穴に詰める」と教わった看護師さんもいらっしゃるかと思います。
しかし、私たち納棺師は基本的に、体液などが出てくるのを防ぐ目的での詰め物はしません。現場の看護師さんから「分泌物が出やすい病状なので詰めた方がいい」という事前の情報共有がない限りは、耳やお尻などには詰め物をせず、自然なままにしております。
ご家族から「お口を閉じてほしい」というご要望があった場合に限り、お口を閉じるためだけに詰め物をしています。
また、顎バンドや合掌バンドについても、見た目の印象がよくないのと、乾燥しやすくなったりするため、今はあまり推奨していません。もしお口が開いてしまう場合は、顎の下にタオルを置いていただく方が、ご家族から見た時の印象も自然になります。
病院と在宅とではエンゼルケアのやり方も少しずつ変わってきているので、現場の皆さんにこうした情報を知っていただき、どんどんアップデートしていっていただけると嬉しいですね。
平原 たしかに、顎バンドをつけるとむくみが出たり、お肌の色が変わってしまったりすることもあるので、私のステーションでも今はもう使っていません。やはりご生前のお顔立ちに近づけることが一番の目的ですからね。
— 納棺師として、看護・介護の現場に伝えたいエンゼルケアの視点はありますか。
千々岩 現場の看護師さんから、「限られた時間の中で、エンゼルケアはどこまでやればいいのか」とご相談をいただくことがよくあります。納棺師の立場からすれば、清拭から洗髪、お着替え、お化粧まですべてやっていただけるとありがたいですが、夜間に看護師さんがお一人で訪問されるケースなども考えると、それはあまり現実的ではないですよね。
その中で大切にしていただきたいのは、事業所の中で「エンゼルケアの提供内容を統一しておくこと」です。担当する看護師さんによって、やる内容や手順が違ってしまうと、同じ料金をお支払いいただくご家族の間に格差が生まれてしまいます。そのため、どこまでやるのか、事業所としてある程度の基準を設けておくことが重要だと感じています。
エンゼルケアは、ご家族が死という現実と向き合うための大切なお別れの準備であり、医療・介護の現場から手渡される最後のケアでもあります。だからこそ、古い慣習を見直して正しい知識にアップデートし、事業所全体で統一された質の高いケアを提供できる体制を作ることが大切です。
現場のスタッフが迷いなく、自信を持ってケアに臨める環境を整えること自体が、故人様の尊厳を最後までお守りし、ご遺族の安心を支えるというエンゼルケアの最も重要な役割を果たすことにつながるのだと思います。

看取り後の家族への声かけと支援|不安に寄り添い、葬儀社につなぐ
— 看取り後、ご家族にどのような声かけをすることが、ご家族の安心につながるのでしょうか。
平原 ずっと一緒に寄り添ってきて、最後のエンゼルケアも終えた後、私たちがと帰ろうとすると、「えっ、もう帰ってしまうの?」と心細くなられるご家族がいらっしゃいます。特にご高齢の二人暮らしだったり、ずっとつきっきりで看病されていたりした方は、急にお一人になって強い不安を感じられるんですね。
もちろん私たちがずっとお宅に留まることはできません。ですが、ただ事務的にお別れするのではなく、「お通夜やお葬式には必ず伺いますよ」「また必ずお会いできますからね」と丁寧にお声がけをします。
亡くなった直後は色々な手続きでバタバタと忙しく、ご家族は「本当はもっとゆっくり話したいのに」というお気持ちを抱えていらっしゃいます。ですから、「落ち着いた頃にお話しする時間をちゃんと取りますからね」とお約束すると、「ああ、また話せるのね」とホッとしてお見送りしてくださるんです。
これから始まる慌ただしい時間を前に、ご家族を孤立させないためのこのような声かけはとても大切だと思っています。

— 葬儀社が決まっていない場合、医療・介護職はご家族にどのような案内をするとよいでしょうか。
千々岩 身体の腐敗を遅らせるためには、いかに早くドライアイスを当てるかが重要になります。そのため、できるだけ早めに葬儀社を手配していただくようご案内するのが望ましいです。
ただ、何も決まっていない中で、もしもの時にインターネットですぐに検索してしまうのは、ご家族にとって少しリスクが高いのも事実です。深い悲しみと焦りの中で正常な判断が難しい状態の時、検索トップに出てくる広告費をかけた業者に慌てて依頼してしまい、結果的に最終的なお見積もりが非常に高額になってしまうといったトラブルも少なくありません。
ですので、もし医療や介護の現場の皆さまが日頃から連携している信頼できる葬儀社をご存知であれば、そちらをご案内していただくのが、ご家族に経済的にも精神的にも損をさせないための安全な選択肢の一つになると思います。

— 医療・介護職が、すべてを抱え込まないために大切なことは何でしょうか。
平原 最近は一人暮らしの方の看取りも増えていますが、その際に直面しやすいのがお金の問題です。「お財布はどこにあるのか」「支払いはどうするのか」といったシビアな部分は、訪問看護師だけで抱え込むには重すぎます。
ご逝去されて死亡診断書が出ると銀行口座が凍結されてしまうこともあるため、成年後見人がいらっしゃらない方などの場合は、ケアマネジャーさんなどと一緒に確認しながら進めることが大切です。医療職だけで解決しようとするのではなく、他のサービス担当者とも連携し、みんなで確認し合う配慮が現場の負担を減らすことにつながると思います。
千々岩 葬儀社の視点からお話しすると、各事業所さんの中で事前のルール決めや報連相の仕組みを作っておくことが大切だと感じています。たとえば、生活保護を受給されている方が連休中に亡くなられた場合、市役所も閉まっていてケアマネジャーさんとも連絡が取れないとなると、オンコールで駆けつけた看護師さんが一人でどうしていいか悩んでしまいますよね。
そういったもしもの時の連絡フローや対応方法を、日頃のカンファレンスなどを通じて事業所内で徹底して周知しておく。そうやって常に知識をアップデートし、組織としてのルールを共有しておくことが、一人のスタッフがすべてを抱え込んでしまう事態を防ぐための鍵になると思っています。
看取り後も途切れないグリーフケアへ|医療・介護・葬儀の多職種連携
— エンゼルケアを「医療・介護の中だけで完結するもの」ではなく、その後のお見送りにつながるケアとして捉えることには、どのような意味がありますか。
平原 医療や介護の現場にいると、どうしても「生きるための支援」に意識が向きがちです。しかし、その延長線上には「死」があり、ご遺族がその後も地域で生きていくための「途切れない支援」が必要です。
故人の尊厳を守り、ご遺族の悲しみに寄り添うグリーフケアの観点において、私たち看護師と納棺師や葬儀社の方々はとても近い想いを共有しています。エンゼルケアという大切な場面を共有する同志として、地域でつながっていくことには大きな意味があると感じています。
千々岩 私たちも、地域包括ケアシステムの「最後のピース」になりたいと強く願っています。医療や介護の皆さんが温かくつないでこられた素敵な循環の輪を、お看取りの場面で途切れさせるのではなく、私たちがご葬儀という形でお引き受けする。そのようにお見送りへつなげていくことが、ご遺族の安心を支える上で非常に重要だと考えています。

— 医療・介護職と納棺師が早い段階からつながることで、ご家族にどのような安心が生まれると思いますか。
平原 ご高齢の利用者さんは、「自分がいなくなった後、お葬式はどうしよう」「費用はいくらかかるのか」と、口には出さなくてもご不安を抱えていらっしゃいます。とくに入院を経験された方は、よりご自身の問題として切実に考えられるようになります。
そんな時に、元気なうちから「この地域なら、あの葬儀屋さんが連携してくれているから安心ですよ」と日常の会話の中でお伝えできると、ご本人もご家族もすごくホッとされるんです。
最近では、地域の多職種連携にお寺のご住職が加わってくださることも増え、お掃除のお手伝いなどを通して生と死について自然にお話しする機会も生まれています。そうやって早い段階から地域の様々な専門職とつながっておくことが、いざという時の大きな安心感に変わると思います。
千々岩 全く同感です。最近はACPやエンディングノートなども少しずつ普及してきましたが、ご本人がどういうお見送りを希望されていたのかわからず、「事前に聞いておけばよかった」と後悔されるご遺族が本当に多いんです。
残されたご家族が、深い悲しみの中で余計な負担や後悔を抱えなくて済むように、元気なうちから医療・介護の皆さまと私たちが連携し、ご希望を叶えるお手伝いをしていくことが重要だと思っています。
— 最後に、在宅看取りに関わる皆さまへメッセージをお願いします。
平原 患者さんがお亡くなりになった後、医療や介護の支援者が集まって振り返りを行う「デスカンファレンス」という場が地域にはあります。これまでは医療・介護職が中心でしたが、これからはそうした場に、納棺師や葬儀社の方々にもぜひご参加いただきたいと思っています。
ケアの締めくくりであるエンゼルケアやお見送りの場面を共有した者同士が、一緒に関わりを振り返り、声をかけ合う。そうやって地域で支え合う関係性をさらに深め、より良い看取りにつなげていけたら嬉しいですね。
千々岩 最後までご遺族に寄り添ってくださった医療・介護現場の皆さまに、私たちなりの「恩返し」をしたいと強く思っています。
ご自宅でお看取りをされた後、「あの時のエンゼルケアがご葬儀でどう活きたか」「ご家族はどんなご様子だったか」と気にかけてくださる看護師さんはとても多いんです。
皆さまが心を込めたケアがどれほどご遺族の支えになったかを知っていただき、ご自身のケアへの安心や評価につなげていただけるよう、私どもではご遺族の了承を得た上で「ご報告書」をお渡ししています。このご報告書を通じて、私たち葬儀社を少しでも身近なパートナーとして感じていただければ幸いです。
そして、身近な関係性として、エンゼルケアの手順やご葬儀に関する素朴な疑問が生じた際に、ぜひご相談いただければと思っています。夜中でもお電話でしっかり対応いたしますので、決して現場だけで抱え込まず、気軽な相談窓口としていつでも私たちを頼ってください。

「在宅で生きる、看取る、送る」では、今後も在宅医療・介護、看取り、葬儀・納棺、グリーフケアに関わる専門職の対話を通じて、亡くなる前だけでなく、亡くなった後のご家族支援について考えていきます。大切な人をどのように見送り、残されたご家族をどのように支えるのか。医療・介護・葬儀がそれぞれの役割を理解し、地域の中でつながることで、看取り後の不安を少しでも安心に変えていくことを目指します。今後の連載にもぜひご注目ください。

※ 本インタビュー記事は、2026年10月30日(金)放送のラジオ番組「おうちde医療 in 立川」の内容をもとに、再構成・編集したものです。掲載写真は収録時に撮影したものです。
平原優美氏プロフィール|日本訪問看護財団 常務理事・看護師

看護師・公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事・一般社団法人 日本在宅ケアアライアンス 副理事長
日本の訪問看護・在宅ケア領域を長年にわたり牽引されてきた専門家。病院勤務を経て、診療所での訪問看護、訪問看護ステーションの開設・運営、あすか山訪問看護ステーションでの所長・統括所長などを歴任され、現在は公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事として、訪問看護の普及・人材育成・制度づくり・地域包括ケアの推進に取り組まれています。
また、在宅看護専門看護師、博士(看護学)として、訪問看護の実践と教育・政策の両面に精通されており、在宅医療・介護に関わる多職種から高い信頼を得ている先生です。
❏ 公益財団法人 日本訪問看護財団
また、在宅看護専門看護師、博士(看護学)として、訪問看護の実践と教育・政策の両面に精通されており、在宅医療・介護に関わる多職種から高い信頼を得ている先生です。
❏ 公益財団法人 日本訪問看護財団
千々岩巧氏と「つなぐ葬儀社 襷―TASUKI―」の紹介|納棺師が在籍する葬儀社

株式会社Flat. Central 取締役
つなぐ葬儀社襷~TASUKI~
自社で納棺師を抱え、納棺師が葬儀のお打合せからご施行までお手伝いをさせていただく葬儀会社。人に託され、ともにつくり、思いをつなぐ、大切な誰かを送る最後のとき、わたしたちはそのような役割でありたいと思います。
❏ 株式会社Flat. Central つなぐ葬儀社 襷~TASUKI~
自社で納棺師を抱え、納棺師が葬儀のお打合せからご施行までお手伝いをさせていただく葬儀会社。人に託され、ともにつくり、思いをつなぐ、大切な誰かを送る最後のとき、わたしたちはそのような役割でありたいと思います。
❏ 株式会社Flat. Central つなぐ葬儀社 襷~TASUKI~
専門家コメント

— 事業者向けにエンゼルケアの勉強会を実施していただくことは可能でしょうか。
千々岩 はい、可能です。現在、実地にお伺いして無料で勉強会を開催できるのは1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉)に限られてしまいますが、ご希望に合わせて対応しております。質疑応答を含めて1時間ほどお時間をいただき、現場で役立つ実践的な情報をお伝えしています。私への直接のご連絡やフリーダイヤル、ホームページの ❏ お問い合わせフォーム からお気軽にお申し込みください。
— ご家族が安心して故人を送り出すために、事前に知っておくとよいことはありますか。
千々岩 やはりご葬儀に関する正しい知識を持っておくことです。家族葬にするのか、納棺師にお願いするのかなど、ご本人のご要望を事前に伺っておくことはもちろん大切です。 そして、費用の内訳を知ることも欠かせません。
たとえば「遺体を管理する費用」など、会社によっては不透明な項目が見積もりに入っていることがあります。事前に複数社から見積もりを取り、同じ内容でも何が違うのかを比較し、不必要なサービスに払う費用を抑える知恵をつけておくことが、後悔しないお見送りにつながります。
— 看取りに関わる医療介護従事者が、すべてを抱え込まないために大切なことは何でしょうか。
千々岩 やはり、一人で悩まずにご相談をしていただくことに尽きると思います。残されたご遺族に悲しい思いをさせたくないという願いは、現場の看護師さんも私たちも全く同じです。
その上で、お看取りから先のステップについては私たちがプロフェッショナルですので、エンゼルケアのことも含めて遠慮なく頼ってください。いざという時に相談できる専門家との関係性を日頃から持っておくことが、皆さまがすべてを抱え込まないための第一歩になるはずです。
— 医療介護現場と納棺師・葬儀社がよりよく連携していくために、今後どのような関係づくりが必要だと感じますか。
千々岩 まずは、私たちが実施しているエンゼルケアの勉強会などをきっかけに、「いざという時に安心して任せられる葬儀社か」をご自身の目で判断していただければと思います。
日頃から顔の見える関係を築いておくことで、いざという時の相談のハードルはぐっと下がります。例えば、身寄りのない方や後見人がいらっしゃらない独居の方など、現場の皆さまが頭を悩ませやすい「困難ケース」のお見送りについても、私たち葬儀社には専門的なノウハウがあります。
お看取りから先のステップで不安や疑問があれば、決して抱え込まず、まずは知っている葬儀社に聞いてみる。そのように連携していくことが何より大切だと感じています。その際は私どもが全力でサポートいたしますので、どうぞお気軽に頼っていただければ幸いです。
対談を終えて:
※ 本インタビュー記事は、“医療・介護現場からのご紹介を通じてご家族のお見送りを支え、納棺師の専門性を大切にする” つなぐ葬儀社 襷-TASUKI-” の協力により制作しました。
よくある質問|在宅看取り・エンゼルケア・グリーフケアについて
Q1. 在宅での看取り後、家族を支えるために大切なことは何ですか?
A. ご家族の気持ちや希望を確かめ、お別れの時間を大切にすることです。すぐに次の段取りへ進みたい方もいれば、故人とゆっくり過ごしたい方もいます。一律に進めず、ご家族のペースに合わせて、エンゼルケアや葬儀までの流れを分かりやすく伝えることが安心につながります。
Q2. エンゼルケアとは何ですか?
A. 亡くなった方のお身体や身だしなみを整え、故人の尊厳とその人らしさを大切にしながら、お別れを支えるケアです。お身体へのケアだけでなく、ご家族の想いを伺い、ともに過ごす時間に寄り添うことも大切にされています。
Q3. 在宅でのエンゼルケアに家族も参加できますか?
A. ご家族が希望される場合は、看護師などに相談し、一緒に参加できることがあります。お身体を拭く、髪を整える、思い出の衣服を選ぶなど、参加の形はさまざまです。無理に参加する必要はなく、そばで見守ることも含め、ご家族の気持ちを尊重することが大切です。
Q4. エンゼルケアとグリーフケアには、どのような関係がありますか?
A. グリーフケアは、大切な人との死別などによる悲しみや喪失感に寄り添う支援です。エンゼルケアの際に故人との思い出を語ったり、ご家族が希望する形でお別れに関わったりする時間は、グリーフケアにつながることがあります。悲しみの表れ方や向き合うペースには個人差があり、気持ちの変化を急がせない姿勢が大切です。
Q5. エンゼルケアにおける看護師・納棺師・葬儀社の役割はどう違いますか?
A. 訪問看護師は、療養中からの関わりやお身体の状態を踏まえ、看取り後のケアと家族支援を担います。納棺師は、お身体を整える処置や化粧、着替え、納棺などを専門に行い、葬儀社は搬送・安置や葬儀の手配・進行などを担います。対応範囲や夜間対応の有無は事業者によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
Q6. 在宅看取りに向けて、葬儀社には事前に相談してもよいのでしょうか?
A. ご本人やご家族の意向に合わせて、事前に相談できます。希望するお見送りの形、費用の内訳、夜間の連絡先、エンゼルケアや納棺への対応などを確認しておくと、看取り後の戸惑いを減らす助けになります。話題にする時期や伝え方は、ご本人・ご家族の気持ちに配慮して考えることが大切です。
Q7. 看取り後の支援で、医療・介護職と葬儀社が連携する意義は何ですか?
A. ご本人が大切にしていたことやご家族の希望を共有し、療養中からお見送りまで支援をつなげられることです。日頃から相談先や連絡方法を確認しておくことで、看取り後に生じる疑問を一人で抱え込まず、それぞれの専門性を生かして対応しやすくなります。情報共有は、ご本人・ご家族の意向や個人情報の取り扱いに配慮して行います。
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