1. おうちde医療
  2. >
  3. 在宅医療コンテンツ
  4. >
  5. 鶴田展大×平本秀二|開業3年で居宅看取り件数No.1へ。在宅医療と在宅化学療法の未来を語る

鶴田展大×平本秀二|開業3年で居宅看取り件数No.1へ。在宅医療と在宅化学療法の未来を語る 最終更新日:2026/09/18

鶴田展大×平本秀二|開業3年で居宅看取り件数No.1へ。在宅医療と在宅化学療法の未来を語る
在宅医療の現場では、患者さんが住み慣れた自宅で最期まで療養できる体制づくりに加え、病院で行われてきた治療をどこまで在宅で提供できるのかが、今後ますます重要なテーマとなっています。
「おうちde医療」では、鶴田クリニック理事長の鶴田展大先生と、医療法人平和の森 ピースホームケアクリニック理事長の平本秀二先生による対談を連載し、これからの在宅医療、そして在宅化学療法のあり方について継続的に議論していきます。
その第1回では、勤務医から在宅医療の道へ進み、33歳でクリニックを開業した鶴田展大先生にフォーカス。開業からわずか3年で福岡県の居宅看取り件数No.1に至るまでの歩みや、地域に選ばれる在宅医療クリニックづくり、組織づくり、看取りへの考え方について、平本秀二先生が伺います。
今後の連載では、両先生が実際の在宅医療の現場で感じている課題や実践をもとに、在宅化学療法の可能性や課題、そして将来的な標準化に向けた議論へと、さらに踏み込んでいきます。

勤務医から在宅医療へ。33歳でクリニック開業を決断した鶴田展大医師のキャリア

— 自己紹介

平本 鶴田クリニックの鶴田展大先生との対談企画、記念すべき第1回目です。本日はどうぞよろしくお願いします。 鶴田先生と初めてお話ししたのは、私が臨床腫瘍学会で活動していた頃でしたよね。白川先生との会食で鶴田先生とご一緒したのが最初でした。あの時、すでに「在宅でケモ(化学療法)をやっている」と伺って、「なんて先進的な取り組みなんだ!」とものすごく衝撃を受けたのを覚えています。ぜひ一度じっくりお話ししてみたいとずっと思っていたので、今日こうして対談が実現して本当に嬉しいです。鶴田先生、そんな出会いの経緯でしたが、覚えていますか?
鶴田 よろしくお願いします。そうですね、飲み会の席での話題でしたので、私自身は少し記憶が曖昧な部分もあるのですが(笑)、そのような流れだったかと思います。
平本 では、まず私の自己紹介からさせていただきます。平本秀二と申します。私は平成15年に大学を卒業して、長らく消化器内科をメインにやっていました。その後、腫瘍内科へ転身し、2013年には国立がん研究センターの短期レジデントとして化学療法の研修を受けました。京都に戻ってからは三菱京都病院に勤務し、腫瘍内科と緩和ケア内科を半々の割合で診るという、少し珍しい環境でプラクティスや研究を重ねてきたんです。
その中で、私自身すっかり「緩和ケア」の奥深さに魅了されまして。やはり患者さんにとっては在宅で過ごす時間が何より大切だと痛感し、2021年の3月に大津でピースホームケアクリニックを開設しました。おかげさまで5年が経ち、法人化も経て現在は理事長を務めています。資格としては、総合内科専門医、がん薬物療法専門医、緩和医療指導医を持っています。 鶴田先生も、これまでの歩みを少し教えていただけますか?
ピースホームケアクリニック京都にて(平本先生は前列右から2人目)
鶴田 はい、鶴田クリニックの鶴田展大です。私は平成25年卒なので、平本先生のずっと後輩になりますね。 出身は久留米大学で、とてものびのびとした楽しい学生生活を送りました。当時、久留米医大に腫瘍内科がなかったので、初期研修は福岡市内の九州医療センターでお世話になり、そのまま九州大学の第一内科、腫瘍内科に入局しました。ありがたいことに、先程お話されていた白川先生や、国立がん研究センターの第一線の先生方など、素晴らしい先生方とご縁を頂きました。
その後、九大の大学院に進みまして、免疫療法が効かない患者さんの分子メカニズムについて基礎研究をやっていました。それが九州がんセンターにいた頃、色々な方の目に留まってお声がけをいただくようになりまして。同時に、勤務医としての自分の生活にも限界を感じ始めていた時期だったので、思い切って転職を決意したんです。そこで在宅医療という新しいフィールドに触れ、「これは自分たちでやってみよう」と、2023年に自分のクリニックを立ち上げました。今ちょうど3年が経ち、4期目に入ったところです。
第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)にて

— 在宅医療に進んだきっかけ

平本 ありがとうございます。鶴田先生のクリニックは、まだ開業3年目でありながら、福岡県内で居宅看取り数1位になられたと伺って、本当にすごい勢いだなと感心していたんです。実は我々のグループも、2024年に滋賀県で、2025年に京都府でそれぞれ看取り数1位になったんですよ。両方合わせると鶴田先生のところと同じか少し多いくらいの件数になるのですが、たった3年でそこまでの実績を出される手腕は素晴らしいですね。ただ、お互い腫瘍内科という、いわば最先端の病院医療のど真ん中にいたわけじゃないですか。そこからなぜ、「在宅医療」という道を選んだのでしょうか?その辺りのきっかけを、もう少し詳しく聞かせてください。
鶴田 そう言っていただいて恐縮です。実は私、勤務医時代は在宅医療の制度自体、あまりよく分かっていなかったんです。若い先生たちは今でもそういう方が多いんじゃないでしょうか。当時の私にとって在宅医療は、患者さんが緩和ケア中心の状態になった時、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)で「最期は家と病院、どちらがいいですか」と尋ねて、「家がいい」と言われたら地域の先生を探して紹介状を書く、というイメージしかありませんでした。「だいたいの予後はこれくらいなので、あとはよろしくお願いします」と退院前カンファレンスでバトンを渡すだけの存在だったんです。
そんな中、全国で在宅クリニックなどを展開している企業からヘッドハンティングを受けまして、「九州エリアの立ち上げをやってくれないか」と声をかけられたのが、直接のきっかけでした。実際に飛び込んでみると、様々な施設の方や多職種の方々と一緒に仕事をするのが想像以上に面白くて。その後、33歳の時に企業から独立するタイミングがあり、自分の理想とする医療機関を地域で作ろうと開業に至ったわけです。

— 在宅医療へキャリアチェンジして

平本  なるほど、ヘッドハンティングでの立ち上げ経験が、今の鶴田先生のベースになっているんですね。33歳という若さでの独立も大きな決断だったと思います。ただ、最前線の勤務医から全く違う在宅医療のフィールドへ飛び込む時って、ご自身の葛藤や、周囲からの反対・戸惑いの声も大きかったんじゃないですか?私自身も、ずっと研究をやっていたので、周りからは「いずれどこかの大学教授とか目指すんだろう」と勝手に思われていたみたいで。在宅に行くと伝えたら、「そんなこと考えてたの!?」とずいぶん驚かれた経験があるんです。
開業した頃、スタッフとともに
鶴田  あぁ、それは私も全く同じですね。色々な人から「お前、本当に辞めるの!?」と驚かれましたし、かなり引き留められました。 医療業界の中には、どうしても「在宅医療は病院医療より下」という見方をする人がまだまだいて、「なんでわざわざ辞めてそっちに行くんだ」といった声も色々な方から言われましたね。

開業3年で居宅看取り件数No.1へ。在宅医療クリニックを成長させた考え方と現場

— 在宅医療の将来性

平本 先ほど、在宅医療が少し誤解されがちだというお話が出ましたが、私自身はこれからの医療において在宅が担う役割は非常に大きく、明るい未来があると感じているんです。鶴田先生は、在宅医療の将来性についてどのようなビジョンをお持ちですか?
鶴田 私も、その可能性は極めて大きいと確信しています。大学の教授を目指されるような先生が自ら飛び込む領域ですから、それだけでも十分明るい兆しですよね。ただ、一口に将来性と言っても、地方と都市部では役割が少し違ってくると思っています。地方の場合、病院の統廃合が進んだり、病床が削減されてクリニックへ移行する地域も出てくるでしょう。そうなると、在宅医療が実質的な「入院ベッド」のような機能を持ち、地域全体で患者さんを診ていく仕組みが不可欠になります。
一方で都市部は、これから高齢者の救急搬送がさらに増えていきます。厚生労働省の議論でもありましたが、今まで10万人規模の医療圏を1つの病院でカバーしていたものが、今後は30万人を1つの病院で診なければならなくなる時代がやってきます。病院の空きベッドは常に限られているのに、対応すべき患者さんの数が3倍にもなれば、コロナ禍の時のように医療が逼迫してしまう恐れがあるんです。そうした事態を防ぐためにも、病院の病床をいかに適切に運用し、地域に溢れてしまう患者さんを我々がどう受け止めていくか。その受け皿としての在宅医療のニーズは、間違いなく爆発的に伸びていくはずです。
第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)にて

— 在宅医になって良かったなと思ったこと

平本 おっしゃる通りですね。地域性はあっても、病院のベッド数が限られていく中で、社会的な受け皿になるのは間違いなく我々在宅医なのだとひしひしと感じます。では、実際に鶴田先生がお一人で鶴田クリニックを開業されて3年になりますが、在宅医療の現場に出てみて「ここが良かった」「やりがいがある」と感じるのはどんな時ですか?
鶴田 一番大きいのは、「社会を深く知ることができた」という点ですね。医師は絶対に一度、病院の外に出た方がいいと痛感しました。患者さんって、病院にいる時間よりもご自宅などの地域で過ごす時間の方が圧倒的に長いんですよね。お金のことや介護の制度、多職種の方々がどう動いているかなど、病院にいた頃は本当に知らなかったんです。「老人ホームの施設区分の違い」や「なぜこの施設には看護師さんがいて、あっちにはいないのか」なんてことも恥ずかしながら分かっていませんでした。そういった社会のリアルな仕組みを知ることで、教科書通りの画一的な治療ではなく、その方の生活環境に合わせた「あなたにとって最適な治療はこれではないですか」という柔軟な提案ができるようになりました。ご家族ともしっかりすり合わせをして、その人にとっての「100点の選択」を一緒に探せるようになったのは、在宅をやっていて本当に良かったと思える素晴らしい経験です。

— 在宅医になって大変だなと思ったこと

平本  私もピースホームケアクリニックを運営していて、全く同じことを感じます。本当に社会勉強の連続で、一気に視野が広がるんですよね。あのまま病院に残っていたら、患者さんの背景を知らない視野の狭い医者になっていたかもしれないと思うと、少し怖いくらいです。患者さん本位のケアを真に追求できるのは、在宅医療ならではの醍醐味ですよね。逆に、やりがいがある反面、「これは大変だ」と苦労されているマイナス面はどんなところでしょうか?
鶴田  そうですね……やはり医療業界の中で、昔の在宅医療の古いイメージを持たれてしまうことがまだ少しある点でしょうか。すぐに救急車を呼んでしまうような医療機関と混同されてしまったりして、もどかしさを感じる瞬間はあります。 あとは、最近は病院側も病床のやり繰りが非常に厳しいため、なかなか患者さんが退院できないケースが増えています。その中で、地域の我々に託される患者さんというのは、病状が落ち着いている方ばかりではなく、医療的にも社会的にも非常に複雑にこじれてしまっている困難なケースが少なくないんです。そういった難しい状況の方々を地域でしっかり支え切るというのは、やはり大きなエネルギーが必要で大変だなと感じますね。
平本 確かに、うちにも最高難易度の困難症例がよく依頼されてきますからね。そこを何とか乗り越えていくのが腕の見せ所でもありますよね。
鶴田 あとは……訪問の移動中に犬の糞を踏んでしまった時ですかね(笑)。外に出るって、いいこともあれば色々なハプニングもありますよね(笑)。

— 在宅医療を始める前後で在宅医療のイメージはどう変わったか

平本 あはは、それは悲惨ですね(笑)。私も同じような経験がありますし、そういう綺麗事だけではない部分も在宅ならではのリアルですよね。さて、話題を少し戻しまして、在宅医療を始める前と後で、鶴田先生の中で「在宅医療に対するイメージ」はどのように変わりましたか?
鶴田 病院にいた頃は、「在宅医療=看取りのための医療」というイメージが強かったんです。そこが一番大きな役割だと思い込んでいました。 でも実際にやってみると、看取りというのは在宅医療のほんの一部でしかないんですよね。急性期治療と慢性期治療の間をシームレスに繋いだり、病院での治療を地域で支えたり、自宅で症状をコントロールして再び病院での治療に繋げたり。在宅医療は「医療の終着点」ではなく、「病院と生活を繋ぐ架け橋」なのだという風に認識が大きく変わりました。もし病院で働く先生たちとこのイメージを共有できたら、これからの医療の形はもっと良くなっていくんじゃないかと思っています。
平本 私は、看取りの瞬間にご家族からものすごく感謝されることに一番驚きました。病院にいた時は、患者さんが亡くなったのに「ありがとうございました」とあんなに深く感謝されることってほとんどなかったんです。その時に、在宅医療って特別なものなんだなとイメージがガラリと変わりましたね。鶴田先生も、そういうご経験はありますか?
鶴田 ええ、よく分かります。私は日頃から哲学的なことを考えるのが好きなのですが、人間って必ず後悔する生き物ですよね。例えば「ご飯が食べられないから胃ろうを作りましょう」となって、ご家族が拒否して誤嚥性肺炎で亡くなられたら「あの時、先生の言う通りに作っておけばよかった」と後悔するでしょうし、逆に作って寝たきりになった姿を見れば「ご飯も食べさせられなくて可哀想なことをした」と後悔するかもしれない。選べない選択肢があった時に、人は必ず後悔を抱えるんです。
そう考えると、看取りにおける「死亡」という結果自体は、決して良いものではないはずですよね。それなのに、ご家族が「家で診てもらえて良かった」と感謝してくださる。それはなぜかと考えた時、在宅医療は「結果」ではなく、そこに至るまでの「過程(プロセス)」を評価していただける医療なのだと気づいたんです。亡くなるまでの日々を、どれだけ納得して寄り添いながら過ごせたか。生存期間という数字では測れない、そのプロセスが良かったからこそ、評価していただけるのだと思います。平本先生がご家族から深い感謝の言葉をいただけるのも、先生が患者さんとしっかりと向き合い、信頼関係を築くプロセスがあったからこそですよね。
平本 なるほど……すごく腑に落ちました。亡くなるまでの日々を、一緒に悩み、迷いながら最善を尽くしていくプロセスを共にできたからこそ、感謝していただけるのですね。病院医療はどうしても治療成果などの「結果」を重視しがちですが、在宅医療は「プロセス」を評価していただく医療である。この視点は非常に奥深く、これからの在宅医療のあり方を考える上でも大切なキーワードになりそうです。

在宅医療クリニックに必要な「専門性」と「人間力」―地域に選ばれるチームづくり

— 在宅医療をやるうえで、病院勤務での経験は

平本 ここから少し視点を変えまして、鶴田先生ご自身が病院勤務時代に培ったご経験は、現在の在宅医療の現場でどのように活きていると感じておられますか?
鶴田 やはり一番は、「専門性」という部分が大きく役立っていると感じます。 現在、特に都市部の在宅医療は少しずつクリニックの数も増えてきており、患者さんにとっては選択肢が多い状況にあります。こちらから患者さんのご自宅へ伺う医療ですから、距離的な制約が少なく広範囲をカバーできる分、近隣のクリニック同士でどう特色を出していくかが問われる時代になってきているんですよね。そうした環境の中で地域の方々に選んでいただくためには、やはりベースとなる確かな専門知識や技術を持っていることが、非常に大きな強みになると実感しています。
平本 鶴田先生ご自身は、最初は腫瘍内科の専門医という強みを前面に出してスタートされたわけですよね。そこから現在にかけて、どのような変化がありましたか?
鶴田 おっしゃる通り、最初は腫瘍内科医としての専門性を軸に始まりました。ただ、組織が大きくなるにつれて、地域が抱える多様なニーズに直面するようになったんです。例えば「神経難病の患者さんも診てほしい」といったご要望を多くいただくようになり、今ではそうした分野にもかなり力を入れています。 現在では神経内科の専門医が2名いるほか、呼吸器専門医や外科の専門医などにも加わってもらい、気管切開や人工呼吸器の管理なども含めて、地域のニーズに総合的にお応えできる体制を整えています。
平本 なるほど、地域の声に耳を傾けるうちに、チームとしての専門性が広がっていったのですね。専門性の重要さについては、私もピースホームケアクリニックの運営を通じて痛感しているところです。当院でも、神経内科の先生に来ていただけるようになってから難病の患者さんが増え、クリニックとしての基盤がより強固になりました。 とはいえ、「絶対に専門医資格がなければいけない」ということではなく、何かしら自分なりの得意分野を持っていることが大切なのかもしれませんね。
鶴田 そうですね。地域の患者さんや連携機関に「ここなら安心してお任せできる」と思っていただけるような、クリニックならではの“武器”というか、特徴があったほうが、結果的に地域にとって喜ばれる医療が提供できるのではないかと考えています。

— 在宅医療に向いている医師・向いていない医師とは

平本 まさにその通りですね。自分のクリニックが地域にどう貢献できるか、その強みを磨いていく姿勢が大切だと改めて感じます。 では、そうした知識や技術といった面とは別に、在宅医として「向いている医師」「向いていない医師」というのはあると思われますか?例えば人間性や性格的な面で、鶴田先生はどのようにお考えでしょうか。
鶴田 それはもう、ずばり「人間性」に尽きると思います。先ほど「在宅医療はプロセスを評価される」というお話をしましたが、その良いプロセスを築き上げるためには、患者さんやご家族との温かいコミュニケーションが絶対に欠かせません。人と人とが直接向き合う仕事ですから、相手を思いやる人間力のようなものは非常に問われる現場ですよね。 それに加えてもう一つ、あえて挙げるとすれば「マネジメント能力」でしょうか。
平本 マネジメント能力ですか。具体的にはどのような場面で必要になりますか?
鶴田 在宅医療って、私たち医師だけで完結するものではなく、訪問看護ステーションの看護師さんやケアマネジャーさんなど、関わる人がとても多いチーム医療ですよね。ただ、人が増えれば増えるほど、コミュニケーションの行き違いが起こりやすくなるんです。 例えば、訪問看護師さんとのやり取りの中で、「先生がこう言ったからこう対応しました」と言われて、「いや、そういう意図で伝えたわけではなかったのにな……」とすれ違ってしまうようなことも時にはあります(笑)。そうした際に、感情的にならずに事実確認をしたり、もし私たちの側のスタッフがミスをしてしまった時は、責任者として誠意を持って謝罪に行ったり。チーム全体の連携を円滑に保つための調整力やコミュニケーションは、本当に色々なことが起こるので大変ですが、在宅医にとって欠かせないスキルだと感じています。
平本 すごく分かります。在宅医療の現場では、患者さんやご家族だけでなく、連携する事業所の方々との良好な関係構築が極めて重要になりますよね。そこで求められるのは、周りをまとめ上げるリーダーシップだと私も日頃から考えています。 一言でリーダーシップと言っても、ただ引っ張るだけでなく、例えば訪問看護師さんが「自分たちで主体的に良いケアができた」と達成感を持てるように、裏からそっとサポートしてあげるような細やかな気配りも必要になってきます。事業所ごとにカラーも全く違いますから、相手に合わせた柔軟な対応力が求められますよね。
鶴田 本当にその通りで、それぞれの事業所のキャラクターに合わせて全く対応を変えていかないといけないので、そこはすごくエネルギーを使いますが、大切な部分ですよね。

— これから在宅医療を始めようとする医師が身につけておいた方がよい知識・スキルとは

平本 そうした色々な能力が求められる中で、これから在宅医療を始めようとしている若い医師に向けて、「まずはこのスキルや知識を身につけておいた方がいい」というアドバイスがあれば教えていただけますか。
鶴田 私が一番大事だと感じているのは、IC(インフォームド・コンセント)のスキルですね。特に、今後の見通しや方針をご家族と話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)の能力は、在宅医にとって最も強力な武器になると思っています。
平本 単なる病状説明にとどまらない、コミュニケーション全般のスキルということですね。
鶴田 はい。特に意識しているのは、「事前に決めるべきことを、きちんと決めておく」ということです。例えば、まだ状態が安定している段階で「もし今後、こういう風に病状が変化した時は、どう対応しましょうか」というシミュレーションをあらかじめご家族と共有しておくんです。 いよいよ状態が悪くなってから方針を決めようとすると、皆さんどうしてもパニックになってしまい、冷静な判断ができずに揉める原因になってしまいます。そうならないために、一度の面談で全て決めるのか、日々の訪問の中で少しずつコミュニケーションを重ねていくのかは医師のスタイルによりますが、「いざという時に関わる人みんなが困らないように道筋を立てておく」というICのスキルは、ぜひ身につけておいてほしいですね。
平本 私はそれを「未来を予言する力」と呼んでいるんですが、まさにそれですよね。いずれ最期を迎えるという事実は避けられなくても、その時期や経過の目安をある程度予測して、事前に「おそらく今後はこういう経過を辿ると思いますよ」とお伝えしておく。そして実際にその通りになった時、ご家族は「あぁ、先生が言っていた通りだったな」と心から納得してくださり、そこから医師への深い信頼や尊敬が生まれるんですよね。 先を見通して伝える力というのは、患者さんご家族に安心をお届けする上で、本当に欠かせないアプローチだと私も強く思います。
猪俣慶子先生(中央・国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援センター)を交えて

在宅化学療法はどこまで広がるのか―10年後の在宅医療とクリニックの役割

— 10年後、在宅医療や在宅医の役割について

平本 では、視点を患者さん個人の未来から社会全体へと広げて、最後のテーマに移りたいと思います。これからの10年で、在宅医療や我々在宅医の役割はどのように変わっていくとお考えですか?
鶴田 一言で言えば、「激変する」と思っています。来年あたりから公的病院の統廃合に関する議論がさらに本格化してくるでしょうし、国としても2035年までには医療提供体制の新たな形を固める方向で進んでいますよね。 そうした流れの中で地域の病床機能が再編されていけば、我々が担うべき在宅医療の役割やカバーする範囲は、今とは比べ物にならないほど大きくなっていくはずです。
平本 そうですね。これからの時代を生き抜くために、それぞれのクリニックをどうマネジメントしていくのか、スタッフをどう採用し育てていくのか、そして地域の中でどうリーダーシップを発揮していくのかがより一層問われるのだと思います。次回以降の対談では、ぜひそうした「各論」にも踏み込んでいきたいですね。個人的には、鶴田先生が力を入れられている「在宅での化学療法(ケモ)」の今後の展望についても、じっくりお聞きしてみたいです。
鶴田 ぜひ、次回はその辺りも深掘りしてお話しできれば嬉しいです。 私からもお聞きしたいのですが、激変する未来に向けて、平本先生ご自身が今最も力を入れて取り組まれているテーマは何でしょうか?
平本 私の今の最大のチャレンジは、「次世代への投資」と「バトンタッチ」なんです。 私も鶴田先生より少しばかり長くキャリアを積んできましたので、残りの時間でどうやって若い世代へしっかりとバトンを渡していくかが、今の年代の重要な使命だと感じています。例えば、これまで私が取り組んできた緩和ケアと腫瘍学の統合に関する臨床研究なども、若い医師たちと一緒にグループを作って進めるようにしています。また、ピースホームケアクリニックの法人グループも少しずつ大きくなってきましたので、心に決めている次期理事長候補の方に、どうやって組織を円滑に継承していくかを日々模索しているところです。
鶴田 それは本当に素晴らしいですね。どうバトンタッチしていくか、地域の医療提供体制をどう持続可能にしていくかという視点は、これからのクリニック運営において欠かせないものだと思います。ただ目の前の患者さんを診るだけでなく、地域全体を愛し、未来を見据える覚悟がないと、なかなかそこまでは考えが及ばないですよね。
平本 ありがとうございます。私は日頃から、ピースホームケアクリニックのスタッフにも「全体最適」という言葉をよく伝えているんです。自分たちのクリニックだけがうまくいけばいいという考えでは、最終的に地域医療全体が立ち行かなくなってしまいますからね。地域全体がハッピーになれるような仕組みづくりをしていかないと、本当の意味での質の高い在宅医療は継続できません。 もちろん、事業を継続し、より良い医療を提供するためには、しっかりとした経営基盤を築くことも大切です。お金は決して目的ではありませんが、質の高いケアを提供し続けるための重要な「土台」です。目的と手段のバランスを両輪で保ちながら、これからも地域医療を育てていきたいと思っています。
鶴田 経営と質の高いケアの両立、そして地域への深い愛情ですね。なかなか実践できることではありませんが、本当にその通りだと思います。次回はぜひ、平本先生のそうしたマネジメントや人材育成に関する深いお話もさらに聞かせてください。
平本 ええ、次回は逆のパターンで私がメインでお話しする形でも構いませんし、また色々と意見交換をさせてください。 本日は、これからの在宅医療を考える上で非常に有意義で素晴らしい時間を共有できました。鶴田クリニックの鶴田展大先生、お忙しい中本当にありがとうございました。
鶴田 こちらこそ、大変勉強になりました。ありがとうございました。

医療法人展大会 鶴田クリニック・鶴田展大理事長|プロフィールと経歴

鶴田展大理事長

医療法人展大会 鶴田クリニック

〒810-0044 福岡県福岡市中央区六本松4-11-26-2F10号
TEL:092-791-7891 / FAX:092-791-7892
WEB:https://www.tsuruta-cl.com/

経歴:

2013年 久留米大学医学部 卒業
2013年 国立病院機構 九州医療センター
2015年 九州大学病院
2019年 国家公務員共済組合連合会 浜の町病院
2021年 独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター
2022年 医療法人田クリニック みんなの福岡クリニック 院長就任
2023年 鶴田クリニック開院
現在に至る

資格・学会:

日本内科学会 内科認定医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
日本内科学会
日本臨床腫瘍学会

医療法人平和の森 ピースホームケアクリニック・平本秀二理事長|プロフィールと経歴

平本秀二理事長

医療法人平和の森 ピースホームケアクリニック

〒520-2132 滋賀県大津市神領三丁目11番7号
TEL:077-548-7663 / FAX:077-548-7665
WEB:https://peace-clinic.jp/

経歴:

2003年 大阪市立大学 医学部卒
2003年 洛和会音羽病院 研修医
2008年 大津赤十字病院 消化器科
2011年 三菱京都病院 腫瘍内科
2013年 国立がん研究センター中央病院 消化管内科
2014年 三菱京都病院 腫瘍内科・緩和ケア内科
2020年 神戸大学大学院 経営学研究科修了(MBA)
2021年 ピースホームケアクリニック設立
2025年 滋賀医科大学医学部非常勤講師 博士(医学)
現在に至る

資格・学会:

日本内科学会 総合内科専門医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医
日本緩和医療学会 緩和医療指導医
米国内科学会上級会員(Fellow of the American College of Physicians)

今回は、鶴田展大先生と平本秀二先生が、これからの在宅医療と在宅化学療法について継続的に議論していく対談シリーズの第1回です。
鶴田先生が勤務医から在宅医療の道へ進み、クリニック開業からわずか3年で福岡県の居宅看取り件数No.1に至るまでの歩みを中心に、在宅医療への考え方やクリニックづくりについてお話しいただきました。
第2回以降も、鶴田展大先生と平本秀二先生による対談をベースに展開し、在宅化学療法の実践、適応や課題、安全な提供体制、多職種・医療機関との連携、そして将来的な標準化など、より具体的なテーマについて議論を深めていく予定です。
在宅医療の現場から生まれる実践知を共有しながら、在宅化学療法を含むこれからの在宅医療のあり方を考えていく本シリーズ。今後の対談にもぜひご注目ください。


在宅医療クリニック開業を考える医師のためのFAQ|開業・運営・在宅化学療法

Q1. 在宅医療クリニックを開業するには、まず何から始めればよいですか?
A. 在宅医療クリニックの開業では、診療エリア、対象患者、24時間対応体制、連携する病院・訪問看護・薬局・ケアマネジャーなどを整理することが重要です。あわせて、自院が「どのような患者さんを、どのような強みで支えるのか」という診療方針を明確にしておくと、地域での連携や患者受け入れが進めやすくなります。
Q2. 在宅医療クリニックの開業で、勤務医時代との一番大きな違いは何ですか?
A. 勤務医時代との大きな違いは、診療だけでなく、経営、採用、地域連携、スタッフマネジメントまで幅広く担う必要があることです。在宅医療では特に、多職種との連携や患者・家族との継続的な関係づくりが重要となるため、医師としての専門性だけでなく、組織をまとめる力も求められます。
Q3. 在宅医療クリニックが地域で選ばれるためには何が重要ですか?
A. 地域で選ばれるためには、迅速な対応、丁寧な情報共有、看取りまで対応できる体制に加え、「このクリニックなら何を任せられるのか」が明確であることが重要です。医師自身の専門性を活かしながら、病院や訪問看護、ケアマネジャーなど地域の関係者から信頼される体制をつくることが、患者紹介や継続的な連携につながります。
Q4. 在宅医療クリニックでも専門性を活かした診療はできますか?
A. 可能です。在宅医療では総合的な診療力が必要ですが、勤務医時代に培った専門性は大きな強みになります。例えば、がん診療の経験を活かした在宅緩和ケアや在宅化学療法など、専門性を地域医療に組み込むことで、他のクリニックとの差別化だけでなく、患者さんの治療選択肢を広げることにもつながります。
Q5. 在宅化学療法を行う在宅医療クリニックを目指す場合、何が必要ですか?
A. 在宅化学療法を行う場合は、患者選定、安全管理、副作用への対応、緊急時のバックアップ体制、病院や薬局、訪問看護などとの連携体制が重要になります。今後さらに普及させていくためには、個々の医療機関の経験に依存するだけでなく、適応基準や安全管理、連携方法などについて議論を重ね、標準化していくことも重要な課題です。
関連記事:
京都・大津・山科で実現するがん末期の在宅緩和ケア ― 専門医が語る“家で過ごす最後”という選択|平本秀二理事長
関連リンク: