訪問診療クリニックの経営課題とは?非医師オーナーと院長の問題を解説|12の処方箋 vol.1 最終更新日:2026/08/10

高齢化や在宅療養ニーズの拡大を背景に、訪問診療・在宅医療を提供するクリニックは地域医療において重要な役割を担っています。一方、訪問診療クリニックの経営では、一般的な外来クリニックとは異なる組織運営上の課題が生じることも少なくありません。
特に、非医師が経営や事業運営を担い、医師が院長として診療を担う体制では、医療と経営それぞれの考え方や役割、責任範囲が曖昧になることで、組織内にさまざまな問題が生じることがあります。
本連載では、クリニック経営を支援するエイチコンサルの林達朗氏が、訪問診療クリニックで起こりやすい「お困りごと」を取り上げ、その背景と原因を整理しながら、経営改善につながる具体的な「処方箋」を提示します。
特に、非医師が経営や事業運営を担い、医師が院長として診療を担う体制では、医療と経営それぞれの考え方や役割、責任範囲が曖昧になることで、組織内にさまざまな問題が生じることがあります。
本連載では、クリニック経営を支援するエイチコンサルの林達朗氏が、訪問診療クリニックで起こりやすい「お困りごと」を取り上げ、その背景と原因を整理しながら、経営改善につながる具体的な「処方箋」を提示します。
訪問診療クリニックの経営課題に「12の処方箋」|はじめに
訪問診療を中心に行う医療機関(特にクリニック)における「お困りごと」をコンサルとして数多く相談・解決してきました。
時には事務員として、時には仕事人として諸問題に立ち向かう。とある法人ではグループ長10名以上に囲まれてプレゼンをし、とあるクリニックでは全員事務員が退職する状況で業務引継ぎを等、思い返すと大変なことばかりでした。
しかし、そんな中で私自身の確かな「訪問診療クリニックの処方箋」を見つけることができました。その解決方法や人間模様を全12回のシリーズで連載させていただきます。
訪問診療クリニック経営で起こる「非医師オーナーと院長」の問題

「非医師経営の医療機関は、院長とオーナーがほぼ揉めている」
かなりの確率で揉めています。例えば給与や人事権、運営方針等最初は仲が良かったはずが徐々にずれていきます。
経営面でオーナーはここまでやってほしいという思いと、院長からはそんなことはできない/医療者として許されないとお互いの主張がぶつかるわけです。
院長がオーナーの場合は、ここは己の中での葛藤になるわけです。経営的にはメリットあるが、自分のポリシーとしてはどうか?と真剣に悩み、徐々に医師から経営者への思考の変化がみられていくわけです。
「こんな先生じゃなかったのに」
と開業してから人が離れていく経験や話を聞いたことありませんか?
それは勤務医から経営者に変わった時に出る、その先生の真の姿という証拠なのです。
非医師経営の訪問診療クリニックで起こりやすい3つの特徴

・雇われ院長という難しさ
雇われ院長は院長であるが、経営者にあらず。ただ、そもそも自分で開業される医師と、雇われて院長をやる医師の違いは何かを考えてみます。
独立開業は非常に勇気がいることで、気持ちが慎重な医師は中々難しいです。ずっと開業すると言ってしない人もいますし、いきなり開業する人もいます。
医師に限らずですが、開業=経営者としての大きな責任(借金等)から、自分は出来ないと判断されることはよくあります。
そこで雇われ院長というポジションがあるわけです。お金・人・設備は全てオーナーが出資し、そこで院長をやってほしいということです。
院長という肩書・給与等一定の条件から、自分で開業するまでは考えていない医師にとっては良いわけです。
しかし、オーナーとトラブルがあった際に「医師としてのプライドが傷つく」や「名ばかり院長だ!」や「自分で独立した方がいいか?」等、段々とココロが離れていく姿を何例も見てきました。
・オーナー側の医療への不理解
非医師経営の医療機関といってもさらに分岐するのですが、オーナーが医療者か非医療者かも重要なポイントになります。
そもそも医療とは?医療者の気持ちとは?
を理解できるかどうかが重要です。
数字や効率のみで医療を考えると、医師をはじめとした看護師等の他の医療者も中々ついていけません。それに絶対にマッチしないということではなく、マッチする可能性がかなり低いということです。
色々な思想信条の人はいますが、やはり皆「医療の心」を持っていることがほとんどです。「慈悲深く、寄り添う心」が時にオーナーにとっては非効率に見えるわけです。
・医療機関の方向性の揺れ
医療者は基本的には純粋な方が多いです。また国家資格という観点から、どこでも働くことができます。
院長が打ち出す方向性とオーナーが打ち出す方向性が異なった場合、これはどうなると思いますか?
人が簡単に辞めていく組織になるわけですね。
これは雇われ院長に非常に強いストレスを与えることになります。そうするとどういった行動に移るかというと、医療者を中心とした「オーナー叩き」で組織がまとまっていくわけです。
強い外圧というのは、良くも悪くも組織のまとまりを生むわけです。
訪問診療・在宅医療のクリニック経営を難しくする3つの問題

・責任や役割が明確でない
院長とオーナーの役割が明確でないので、様々なトラブルが発生します。
書面を交わしても、開業初期は、双方十分に内容を理解せずに締結してしまうこともあり、具体的に今後どのようなことが起こるかが想像しきれない場合が多いです。
また書面を交わしても、反故にされる可能性もゼロではありません。
しかし重要なのは、お互いここまでと陣地をしっかりと決めることです。フラットに見える関係性も、院長がいなくなったら医療機関は困りますから、実際強いのは院長サイドになります(都市部では代わりの院長が見つかる可能性もありますが)。
また、私の専門外の話ではありますが、医療機関がうまくいかなかった場合の責任や診療報酬の流れ等、一般社団法人や医療法人社団ではない、個人開業の場合は院長名義となります。
ここに大きなリスクが発生しています。開業に至る手続きは、ほぼ雇われ院長がやることはありませんから、こういった契約関係でのトラブルが最終的に出てくることがあります。
・医療者を理解していない
医療者は医療に対して「ピュア」な心を持っており、それが侵害されるとあっさり組織を離れていく傾向にあります。
ただそれと反比例するように事業的な観点で医療機関を開設する事例は、訪問診療を中心にグッと増えてきました。例えば介護や障がい系の経営者やファンド系、自らのグループ内でうまく循環をさせたりしています。
私自身も「医療と医業」、今後医療はボランティア精神だけではますます成立しない情勢になってきていますので、一定の事業的な観点は大賛成であります。
ただ、事業と医療のバランス感覚がとても重要であり、事業9:医療1では、医療者がついてこれず組織がうまくいかず、事業1:医療9では、医療者はついてきますが事業としては厳しくなっていくでしょう。
総じて「事業3~4:医療6~7」のバランス感覚がうまくいく気がしています。皆さんの周りにある医療機関の印象ってどのような感じでしょうか?
うまくいっている医療機関の特徴をイメージしてみてくださいね。
・組織のポリシーや方向性を大切にしていない
非医師経営の場合は、ここがイメージがつかず中々の鬼門です。
字面だけで「軽い」ものでもいけませんし、突き詰めていくと中々に繊細な医療者のココロを理解することは難しいです。
私も若い頃はポリシーを軽んじてきました。
何でこんなものが必要なのだろうと?一生懸命働いたらいいでしょ?と。
特に医療者はすでに各々がポリシーを持っているわけで、組織はその集合体にすぎない。
しかしこれではいけません。本当に皆、己のポリシーに基づき好き勝手に進んでいってしまいます。
オーナーと院長が揉めている時に、医療者は自らを守ろうとポリシーを固めていきます。
例えば、看護師が強い組織というのは、ここの組織は医師が変わりやすいから、私たちで患者さんの健康を守りましょう!と団結するわけです。
自発的でよい方向に進むケースと、看護師が強すぎてオーナーや医師の意見が尊重されないケースも生まれます。
どういったポリシーを打ち出していくのか、それが医療者の共感を得られるものかをしっかりと考える必要があります。
訪問診療クリニックの経営課題を解決する方法|エイチコンサルからの処方箋

いかがでしたでしょうか?
それでは、エイチコンサルからの処方箋です。
それでは、エイチコンサルからの処方箋です。
オーナー様へ
医師は皆さんが思っているより100倍難しいです(時に医師はユニコーンと例えます)。
その医師の「医療観」・経営やお金の「医業観」・シンプルな「人間性」のバランスを確認することが重要です。
それは医師によって大きく異なるからです。売上を上げたら怒る医師(患者さんから取りすぎるな等)、売り上げが低いと怒る医師(給料に影響等)どちらもいます。
結果的には積極的な「対話・コミュニケーションを欠かさずに」が重要であると感じています。
もしビジネスとしてやろうとすると、信じられないような気苦労が多くなると思いますので、そこは覚悟してください。
雇われ院長・検討している先生様へ
雇われるということは、実際の権限はほぼありませんが、院長責任はありますので注意してください。
特に契約関係は要注意であるのですが、一番大事なのは「肌に合うかです」。
最初は大人ですので、うまく・仲良くやることはできます。相手がものすごく上手く話しをしてくる可能性があります。
オーナーに踏み込みすぎるとトラブルになりますから、そもそもどういった経営理念やどういった事業をやられているかを十分にご確認ください。
働く・働こうとしている医療者様へ
結局、あなたにとって良い職場かどうかは働いてみないと分かりません 。
非医療者がオーナーであっても良い職場はあります(可能性の話です)。
ただ、オーナーと院長が別という事例は「船頭多くして船山に上る」に陥りやすく、事前にホームページで確認や同業者に聞くなど情報収集をしてみましょう。
シンプルに求人が長期間出ている、いつも募集しているところは大変な環境下にある可能性があります。
本連載では、訪問診療クリニックの経営や組織運営で起こりやすい「お困りごと」をテーマに、エイチコンサルの林達朗氏が具体的な解決策を提示します。今後も全12回にわたり、現場に役立つ「処方箋」をお届けしていきます。
訪問診療・クリニック経営を支援するエイチコンサル 林達朗氏のプロフィール

経歴:
北海道釧路市出身。大学卒業後、医療事務として病院勤務。
その後は、鍼灸師・パソコン学校/医療事務講師を経て、30歳で訪問診療に出会う。
事務長等役職を歴任し、40歳で合同会社エイチコンサルを起業。
20以上の医療機関/株式会社と業務提携。
医療事務20年・訪問診療10年の経験から、あらゆる運営の困りごとを解決=訪問診療の世界平和を目指しています。
現在に至る
その後は、鍼灸師・パソコン学校/医療事務講師を経て、30歳で訪問診療に出会う。
事務長等役職を歴任し、40歳で合同会社エイチコンサルを起業。
20以上の医療機関/株式会社と業務提携。
医療事務20年・訪問診療10年の経験から、あらゆる運営の困りごとを解決=訪問診療の世界平和を目指しています。
現在に至る
FAQ|訪問診療クリニックの経営・組織運営に関するよくある質問

Q1. 訪問診療クリニックでは、どのような経営課題が起こりやすいですか?
A. 訪問診療クリニックでは、診療だけでなく、24時間対応、人員配置、地域連携、患者数の管理など複数の業務を同時に運営する必要があります。そのため、医療と経営の優先順位が整理されていないと、組織の方向性が定まらなかったり、院長やスタッフに負担が集中したりすることがあります。特に、経営側と診療側の役割や責任を明確にすることが重要です。
Q2. 非医師が訪問診療クリニックの経営に関わる場合、どのような点に注意が必要ですか?
A. 非医師が経営や事業運営に関わること自体が問題なのではなく、医療と経営それぞれの専門性を尊重した役割分担が重要です。経営側が診療内容へ過度に介入したり、反対に医師側が経営面をすべて経営側へ任せたりすると、意思決定にずれが生じやすくなります。双方が共通の目標を持ち、定期的に情報を共有できる仕組みづくりが求められます。
Q3. 訪問診療クリニックの院長と経営側は、どのように役割分担すればよいですか?
A. 院長は医療の質や診療方針、医療安全などについて責任を持ち、経営側は人事、採用、財務、広報、業務改善などの運営面を担うのが基本です。ただし、患者数や診療体制、人員配置など、医療と経営の両方に関係する事項については共同で判断する必要があります。重要なのは、誰が何を決めるのかを事前に明文化しておくことです。
Q4. 訪問診療クリニックで院長と経営側の意見が合わない場合、どうすればよいですか?
A. まず、それぞれの意見の背景にある目的を整理することが重要です。医師は医療の質や患者安全を重視し、経営側は事業継続や組織運営を重視する傾向があります。どちらか一方の考えを優先するのではなく、「患者にどのような医療を提供するクリニックなのか」という共通の理念や方針に立ち返り、判断基準を共有することが解決への第一歩となります。
Q5. 訪問診療クリニックの経営を安定させるために、まず取り組むべきことは何ですか?
A. 最初に取り組みたいのは、クリニックの理念、診療方針、経営目標、院長と経営側の役割を整理することです。そのうえで、患者数、人員配置、収支、スタッフの負担などを定期的に確認し、課題を可視化していきます。問題が起きてから対応するのではなく、経営側と医療側が継続的に話し合える仕組みをつくることが、安定した在宅医療・訪問診療の提供につながります。
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